Monday, 28 April 2014

Il était une fois à Trun

以前,アロイス・カリジェの生まれ故郷Trunを訪れたときのこと,あちこちゆかりの場所を巡った後,村内を散歩していたら,通りがかった囲いの中に子牛の一団がいました.通り過ぎようとしたら,いきなり後ろから彼らのリーダーらしい子牛から長く一鳴きモーと声をかけられましたが.そのときの様子を少々芝居がかりで再現すると次のとおり.

子牛のリーダー「モー.(おーい,そこ行く旅人(たびにん)さん,お待ちなせえ.)」

私「待てとお止めなされしは,あっしのことでござんすかえ.」

子牛のリーダー「モー.(いかにも.)」

私「はて,こんなスイスの片田舎,あっしのような旅人風情(ふぜい),お呼び止めたるそのわけを,お物語願えやせんか.」

子牛のリーダー「モー.(ここに集えるわれら共,お見かけ通り,スイスの子牛.人に養い育てられ,大人になれば屠殺場の露と消えるが悲しい定め.その屍(しかばね)も牛刀の冷たく光る刃にて切り刻まれて他人(ひと)様の胃のの底に落ち行く身.この世の名残に珍しき異国(おつくに)からの客人(まれびと)に一言挨拶申し上げ,せめてその色,その匂い観たり嗅いだりしてみたい斯様願っておりまする.)」*1)

私「 これは不憫なお身の上,通りすがるも何かの縁.国や姿は違(たが)えども哺乳類は相身互い.あっしのような生き物の味でよければこのとおり,さ,思う存分お舐めなせえやし.」

と心の中で言って,手を伸ばしたら彼らは交代でなめ始めましたが,中には興奮して少し強く噛んでくる子もいました.下はそのときに携帯電話で撮影した彼らの写真です.(乳牛だったかもしれませんが.)




*1) Trunにはカリジェの記念美術館があり,多くの日本人が訪れるために本当は全然珍しくない.また,土地の人たちはルマンチを話すためか,私たち外国人を見ると大人でも子供でもチャオと声をかけてくる.なお,本来のルマンチ語での挨拶はAllegra.

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