Wednesday 30 April 2014

12年振りに元の飼い主に再会した猫

「犬は人につき,猫は家につく」という言葉を以前聞いたことがあります.猫は,人との関係について,どちらかというと淡白であるといったことを言っているのでしょう.それに対して犬については,忠犬ハチ公や盲導犬サーブのように自分の身を顧みずに主人に仕えるといった印象が定着しているようです.そういえば,「犬は三日飼われた恩は三年忘れない」という言葉も聞かされたことがあります.「忠義」好きの日本人ならではの発想なのかもしれません.自分の今迄の経験から犬と猫の違いについて述べると長くなってしまうので,前口上はこの辺りに止めますが,それでもひとこと述べるならば,人間との関係において犬は所属する集団,例えば飼い主の家族のメンバー全員と関係を持ちたがる,言い換えれば,集団における自分のポジションを他のメンバー全員に認めてもらおうとする,平たく言えば大勢の仲間に入りたがるということですが,猫はどちらかというと誰とでも個人的な関係を持ちたがると言えるのではないかと思います.

では本題へ進みます.

彼の元の名前はカター(Kater).そして,元のご主人の名前(苗字)はアリオン.つまり,カター・アリオンが彼の本当の名前です.12年前,彼は当時学生だったご主人と一緒にミュンヒェンに暮らしていました. 二人は本当に仲が良く,ご主人が自転車旅行に出かけるときも彼は一緒でした.しかし,カターは,あるとき突然ご主人の前から姿を消してしまったのです.そのとき,実際にカターに何が起きたのかは判りません.オリンピアパーク近くの建設工事現場で遊んでいるときに,近所の人にでも連れ去られてしまったのかもしれません.(その人は保護したつもりだったかもしれませんが.)

いずれにせよ,彼は別の人に飼われることになったのは事実でした.新しいご主人は彼にシュトルッピという名前を付けました.しかし,なかなかなつこうとせず,攻撃的な態度を見せる彼に手を焼いた新しいご主人は,今年の4月の始めに彼をミュンヒェンの動物愛護団体のシェルターに預けてしまったのです.

シェルターに預けられた彼は,担当の職員にもなつかず手を焼かせる困った猫でした.しかし,彼の様子から,預けに来たのは本当の飼い主ではないのではないかという疑念を抱いた職員は,飼い主探しを担当しているエヴリン・コーゼンバッハさんにその疑念を打ち明けました.やがて,彼が身につけていたマイクロチップから本当の飼い主が,今では獣医となってミンデンに移り住んでいるアリオンさんであることが判明しました.連絡を受けたアリオンさんは,12年前に自分の前から突然姿を消したカターが今も生きていて,ミュンヒェンのシェルターで保護されていることがすぐには信じられない様子でした.が,すぐにカターに会うためにミュンヒェンへ向かいました.

アリオンさんを迎えたシェルターの職員達は,皆緊張していました.この攻撃的な猫が,昔のご主人にも同じような態度を見せるのが心配だったからです.しかし,それは杞憂であったことがすぐに判りました.アリオンさんが驚かさないようにそっと彼の檻の扉を開けると,カターは恐る恐る大の仲良しだった昔のご主人に近づいて来ました.そして,始めは彼に向かって伸ばしたその手の匂いを注意深く嗅いでいましたが,すぐにそれをやさしく舐め始めたのです.カターは,自分に向かって手を伸ばしている人が12年前に別れたご主人であることをすぐに理解したのでした.アリオンさんから嬉しそうになでられている様子を見ると,それまで彼が職員に対して見せていた攻撃的な態度がうそのようでした.その場に居合わせた皆の目頭を熱くさせた,まさにハッピーエンドと呼べる結末でした.

人につく猫もいるのですね.

以上,4月29日付シュピーゲルの"Kater Arions lange Reise"(「カター・アリオンの長い旅」)からでした.(Tierschutzverein MünchenのFacebookに掲載された4月25日付のポスト"Happy End nach 12 Jahren Trennung Eine wunderbare Katzengeschichte"の内容も少し加えてあります.)

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