Tuesday 17 September 2013

シーメンス製新型高速車両Velaroの納入遅延問題

ドイツのシーメンス社が開発した新型高速列車Velaroですが,昨年来,その納入遅延が問題となっています.当該車両のヴァリアントであるE系,CRH3系はそれぞれすでにスペイン,中国で運行されていますが,納入遅延が問題となっているのはドイツ鉄道のICEの新型車両となるD系(DB Class 407)15編成とICE3MFの代替えとしての16編成ですが,7月22日付Badische Zeitungの"Warten auf neue ICE-Züge hat kein Ende"によると,この見出しどおり,今のところいつまで待たされるか判らないようです. また別のヴァリアントのユーロスター用e320系は,2015年の運行開始が予定されていて,10編成がシーメンスに発注されましたが,海底トンネルを通過することなどから特に各国の厳しい安全基準に適合する必要があり,それらのクリアに時間がかかればこちらの納入時期も遅延の可能性があります.(Cf. 4月23日付manager magazin"Siemens verhebt sich an Eurostar-Zügen") なお,この新型ユーロスター用車両ですが,1編成16両(400m)で座席数は894から950,最大営業速度320km/hとのことです.

なお,Velaroのヴァリアントについて詳しくはRailway-technology.comなどをご覧下さい.ウィキペディアの関連項目はこちらです.

Thursday 12 September 2013

Models to follow in Fashion Week Spring-Summer 2014

Tilda Lindstam, Juliana Schurig, Malaika Firth... など.ニューヨーク,ロンドン,ミラノ,パリのデフィレの主役たちを紹介するL'EXPRESSのギャラリーです.

Sunday 8 September 2013

中国でiPhoneを生産するアメリカのブラック企業


China Labor Watchという団体によると,中国のWuxi(无锡市)にあるiPhoneやiPadなどを生産しているFoxconnの労働環境は劣悪を極めているようです.この会社は,アメリカのフロリダのJabliという企業の傘下にありますが,従業員の報告によると一週あたりの労働時間60時間(中国の法律による規制では一週49時間が限度),ということは毎月の超過労働が100時間.基本給も245ドルでWuxiの平均472ドルに比べてかなり低額です.245ドルでは,子供を育てる事もできないため,超過労働をせざるを得ません.そのうえ,一人当たりひと月11時間の超過労働に対し報酬が支払われておらず,これにより,同社は一年で830万ドルの人件費を節約しているといわれます.さらに,新たに発売される安価なiPhoneの部品の生産のために導入されたラインの機器や材料についての説明も,二時間しか与えられず安全な作業をするためには到底十分とはいえません.また,食事の時間も30分しか与えられておらず.有料の寮では,異なるシフトの従業員が一緒の部屋で生活させられるため,睡眠もままならない状態だそうです.

以上,9月5日付SPIEGELの"Apple-Zulieferer soll chinesische Arbeiter ausbeuten"からでした.

ところで,日本のブラック企業と呼ばれている企業と比べた場合,はたしてどちらがマシなのでしょうか.

ドイツ急行旅客用パシフィック01, 03の今後の運行予定

ベブラ・ノスタルジック・レイルツアーによって運行される特別列車の2013年のスケジュールは次のとおりです.(ドイツ語のみのサイトです.)
  • 9月14日:懐かしいTEE塗装のオールドタイマーディーゼル機217 002(ニュールンベルグ,フランクフルト間)と01 1066(フランクフルト,オーバーヴェーゼル間)が牽引.ライン川で音楽に合わせて打ち上げられる花火を船上から眺めるオプションも有り.("Nacht der tausend Feuer - Rhein in Flammen" 2皿ないし3皿のコースメニュー付.)
    経路:Nürnberg - Fürht - Erlangen - Bamberg - Schweinfurt - Würzburg - Oberwesel(詳細はこちらへ
  • 10月3日:気品漂うパシフィック03の重連(03 1010+03 2155)でチューリンゲンの森(Thüringer Wald)を走り抜けます.(詳細はこちらへ) なお,03 2155は旧03 155で,東ドイツ国鉄によって改造された車両のため,煙室の上におむすびのような混合給水加熱器が配置されているため03 1010とはかなり異なる印象を受けます.
  • 11月2日:マイニンゲン発01 201牽引の特別列車でマルクズール往復.こちらもチューリンゲンの森を走り抜けます.(詳細はこちらへ
オンラインでの予約はこちらから.

2分で分かる福島第一原子力発電所の現状

災害の発生直後から現在に至る迄の状況がとても分かり易く解説されています.画面の下にナレーションの和訳を載せますので,ご参考にしていただければ幸いです.


Comprendre la situation à Fukushima en deux... 投稿者 lemondefr

ナレーション内容:現在,一号炉,二号炉,三号炉へ各炉内の温度を50°以下に保つため,毎日350m3もの水が注入されている.ただし,プラントの構造物に亀裂が生じており,そのため,これらの原子炉の冷却に使用された放射能を含む汚染水が地下に浸透し続けている.その量は,これまでにおよそ90,000トンと推定されている.地下に浸透した汚染水のうち750m3ほどが毎日汲み出されているが,汲み出された汚染水のうち350m3が処理されて冷却水として原子炉に再び注入されている.そして残った400m3は,1000個以上の貯蔵タンクに保管され,その量は今日迄340,000トンにのぼる.これは,オリンピックプールの100個分に相当する水の量.増え続ける汚染水を貯蔵するため,60時間に一個の割合で貯蔵タンクが設置されているが,このペースは決して十分なものとは言えない.しかも,いくつかのタンクから汚染水が漏れ出しているのだ.こうした状況は現場で作業にあたる3000名もの作業員を危険にさらしている.また,海にも汚染が広がっており,毎日300m3もの汚染水が流出している.これは,10日毎にプール一つ分の水の量に相当する.こうした現状に変化が起こらない限り,今後2015年末までに海に流出する汚染水と貯蔵タンクに保管される汚染水の量は二倍になると予想される.ところでこのビデオの再生を始めてから,すでに500リットルの汚染水が発生した.

9月7日付電子版Le Monde"Comprendre la situation à Fukushima en deux minutes"より.

Friday 6 September 2013

アイザック・アシモフが1964年に予言した2014年の世界

1964年8月16日,SF界の大巨匠アイザック・アシモフ氏はアメリカの新聞The New York Timesに2014年の世界の予想を披露しました.(こちらの記事

今になってそれを読み返してみると,さすがです.今日,殆どアシモフ氏の予想した世界が,出現しているのです.例えば,
  • "2014年迄には,無人の探査機が火星に着陸しているだろう.有人の探査や火星コロニーの計画も実現に向けて計画されつつあることだろう."
    仰る通り,2012年にはNASAのCuriosityがその偉業を成し遂げました.火星コロニーの建設計画も少しずつ現実味を帯びつつあります.

  • "人形ロボット(Humanoid)は,まだ一般に普及はしておらず,性能も更なる改善が必要だが実現はしているだろう."
    ケンシロウは,ヒトの体に非常に近い内部構造を持っています.でも,アシモフ氏が創造した陽電子頭脳を備えたものの実現はまだ先のようです.

  • "都市部において,短い距離の移動には歩く歩道が実現しているだろう."

  • "地面との接触が少ない輸送機器への関心が強まるだろう."
    最近の例では,Elon Msk氏の提唱するHyperloopなど.

  • "人工衛星の中継により,地球上どこからでも通話が可能になるだろう."
    例えば,アフリカ,マリの北部の砂漠地帯でも携帯電話による通話は可能です.

  • "視聴覚を使った情報通信が可能となるだろう.また,通信機器の画面において書類や書籍,さらに写真を読んだり観たりすることが可能となるだろう."

  • "2014年には,大規模な展示会などで,ヒトの大きさ程のスクリーンが備えられた3Dテレビジョンによりバレーの上演が披露されるだろう."
アシモフ氏は,また,出生率や人口増加の問題にも興味を示しました.それについては,
  • "2014年には,恐らく地球の全人口は60億500万に達しているだろう.また,アメリカの人口は3億5千万前後か."
    今日,地球の全人口は72億人なので,アシモフ氏の見積もりよりも多くなっていますが(2013年6月の国連発表による),アメリカの人口のほうは3億1千6百万人なのでほぼ的中.

  • ”調理済みの食品を冷蔵庫に保存する事が可能になるだろう.調理機器も発達し,お湯を沸かし,自動的にコーヒーをいれるマシンも現れるだろう.”

  • "電気機器は電源とコードで結ばれることなく使用できるようになるだろう.”

  • "人工頭脳を備えた自動車の開発に努力が向けられるだろう."
    日産もGoogleも今,この分野で頑張っています.

ところで,インターネットについては,アシモフ氏は,1989年にその出現を予言しました.下のビデオをご覧下さい.



アシモフ氏はアトムも従ったロボット憲章を提唱してことでも有名ですね.

以上,9月6日付L'EXPRESSの"1964-2014: les incroyables prédictions d'Isaac Asimov"より.

25周年を迎える報道写真展"Visa pour l'image"

毎年,フランスのペルピーニャンで開催されている世界的な報道写真展"Visa pour l'image"は今年で開催開始から25年を迎えます.詳しくは,公式サイトをごらんください.開催期間は明日9月7日から15日迄.開催期間中ペルピーニャンの町中で様々な催しが予定されています.こちらは,L'EXPRESSに掲載されていた『40年の報道写真』と銘打たれたディアポラマです.

ところで,今回,最優秀賞のVisa d'Orを受賞したのは"Le Monde"のために二ヶ月間にわたり,シリアの反政府勢力について内戦の状況を取材したLaurent Van der Stockt氏が受賞したそうです.(Cf. "Visa d'or pour Laurent Van der Stockt, photographe en Syrie pour "Le Monde"")

Wednesday 4 September 2013

シリア内戦への西側諸国による軍事介入の特異性

パリ政治学大学のBertrand Badie教授へ行われたアルジェリアのEl Watan紙の記者によるインタビューからの抜粋をご紹介します.(9月3日付El Watan«Le bilan des interventions est extrêmement négatif»より)

  • 今回実施される可能性のある軍事介入の特異性

    本来,軍事介入は介入対象地域の状況に変化をもたらすもの.今回,西側列強は対象国の体制は維持しつつ行動を起こしたいと言っていますが,こうした単に限定的な攻撃のみという行動は世界歴史の中で先例を見ません.ということは,今回アメリカなどによって計画されている事は軍事介入などというものではなく,むしろ制裁措置と呼ぶべきものであり,仮にそれを実行したからといって,物事に根本的な変化が生じるとは到底思えません.攻撃が大規模で行われた場合,むしろ現存の体制の振る舞いがさらに過激化する懸念があります.すなわち,体制内部で過激派が穏健派を抑えて主導権を把握してしまう可能性があるのです.また,戦略的に見ても,市民保護と(体制の)制裁を同時に実施することは事実上不可能と言わざるを得ません.
  •  国際協調の法的枠組みの崩壊

    国連における一致を見ない軍事行動は,国際協調の法的枠組みに重大な打撃を加えます.それに関連してBadie氏は次の三点に注目します.
  1. 国際協調の尊重が大きく後退する.

    こうした形で軍事行動がとられた場合,当然この問題における国連の影響力低下を招きます.

  2.  過去の軍事介入は機能しなかった.

    イラク,アフガニスタン,そしてソマリアなど,過去の例において軍事介入が所期の目的を果たすことができなかったことは事実です.もちろん,イスラエルとパレスティナ間の紛争もその例に含まれます.こうした経験から,西側諸国においては軍事的手段による制裁という行動が議論されるようになっています.

  3. 西側列強の国際協調からの実質的離脱が進む.

    今回シリア内戦では,ロシアや中国の反対により国連の下での一致しての軍事行動が事実上不可能となっていますが,このように国際社会が一致して問題の解決に当たるという枠組みが崩壊しつつある中で,西側列強は,国連の外で行動する権利を主張するようになりつつあります.しかしながら,各国の世論はそれに対してむしろ反対の立場を示していることは,英国議会の例から明らかです.逆に,アラブの春以降のアメリカの中東における影響力の拡大を恐れるロシアなどが提唱する他国の内政への不干渉は,すでにシリアの周辺国である現在のエジプトの軍最高評議会議長アブデル・エル・シシ氏の立場でもあります.
  • 攻撃は,イラン政府に対する警告

    今回の軍事行動には,核開発を続けるイランへの西側諸国からの強い警告という意味ももちろんあります.*1)
  • オランダ大統領の好戦的姿勢の背景

    ひとつにはオランダ大統領個人の性格もありますが,ここ数年のフランスの外交政策の変化も挙げられます.すでにシラク大統領の任期末から始まっていましたが,サルコジ大統領の任期中,そしてその後任の現大統領と,それまでの伝統的な他国への非依存という独自の外交路線に変わって,よりアメリカ寄り,しかもとりわけサルコジ大統領に見られたような新保守主義へのある意味における傾倒といった傾向が見られるようになりました.すなわち,世界秩序の変更のための軍事行動の是認されるといった見解です.逆に他のヨーロッパ諸国であるドイツ,英国,スペイン,イタリアなどには,そうしたフランスへ追随する姿勢は見えません.すなわち,これらの国々姿勢は2003年のイラク戦争のときから大きく変化しているということです.



*1) 議会の説得に努めているオバマ大統領は,攻撃を実行しなければ,イランやヒズボラ,さらに北朝鮮に誤ったメッセージを送りかねないと警告しています.(Cf. 4日付L'Expressの"Syrie: Obama gagne du terrain au Congrès en agitant la menace iranienne".なお,この記事によると,ABCとワシントンポストがアメリカ市民に実施したアンケートによると59%がトマホークによる攻撃には反対しており,また,Pewが実施したものによると48%が反対の立場を示しているとのことです.また,この記事によると,反政府軍は過去二日間において化学兵器を搭載した政府軍車両三台が移動中で,近いうちに再びこれらの兵器を用いた攻撃が実施される可能性があると発表したそうです.

スェーデン,すべてのシリア難民に無期限の滞在許可

9月4日付電子版独Spiegel誌の"Schweden will allen Syrern Asyl gewähren"によると,スウェーデンは,欧州諸国の中で初めてシリアからの避難民を無期限で受け入れることを表明しました.同国はすでに昨年は,前年に比べて48%増の44,000人ものシリア難民を受け入れており,これは90年代に発生したユーゴスラビア内戦以降スウェーデンが受け入れた難民の数としては最大のものです.

スウェーデン政府の発表によると,これ迄,スェーデンに逃れてくるシリア非難民には3年間の期限付き滞在許可が与えられ,期限終了後の滞在については個別に審査が実施されていたのですが,今後は,それが無期限に延長されるとのことです.

以上が記事の要約ですが,以下少々個人的な感想を.

以前,失敗指数(Failed States Index)と前回のオリンピック大会における各国の獲得メダル数との比較を紹介したことがありましたが(こちらのポスト),スェーデンにしろ,シリア難民の受け入れを検討しているスイスにしろ,もっとも成功している国の二位と四位にランクされています.しかし,オリンピックメダルの獲得数はごくわずかです.それでも西側諸国の中で率先してシリア難民の受け入れに動き出しているその姿勢には,ひたすらオリンピック招致に血道をあげるだけのどこかの国よりもはるかに共感を覚えるものです.

Tuesday 3 September 2013

日本人を少し理解するためのヒント - ドラマとアニメーションから見えてくるもの

先日,スイスで旧フランス国鉄の蒸気機関車2両を見る機会がありました.1両はマウンテンタイプの241A65,そしてもう1両はミカドタイプの141R1244です.後でこれらの機関車を撮影した写真を見ながら,昔の怪獣映画『サンダ対ガイラ』(1966年,東宝)を思い出しました.これら2両のエンジンをほぼ同時に見たため,241Aの塗装はブラウン系なので山のフランケンシュタイン*1)で善人のサンダ(山ダ)を,そして,141Rのほうはグリーン系なので海のフランケンシュタインで凶悪なガイラ(海ラ)を記憶の深い底から呼び覚ましたようです.『サンダ対ガイラ』 を思い出すと,同時に2011年に放送されたテレビドラマ『妖怪人間ベム』も思い出しました.後者は,子供の頃観ていたアニメーションと同じ題名だったため,懐かしさから年甲斐も無く観てしまったのですが,内容的にはアニメーションとは全くと言って良い程異なるものだったので,どうしても違和感は覚えざるを得ませんでした.しかし,自分が持っていたイメージとはかなり異なるとはいえ,主人公を演じる三人の俳優の演技の素晴らしさを始め,脇役の俳優たちの醸し出す,何かとても温かい雰囲気が気に入り,結局最終回迄観てしまいました.そして,最終回を観た後に頭に浮かんで来たのが,『サンダ対ガイラ』だったのです.それは,両方とも一つの細胞(あるいは細胞のようなもの)から善と悪の性質を持った二種類の個体が生まれるという点で共通していたからでした.

ところで,このふたつの物語にはもうひとつ共通するものがあるように思えるのです.それは,登場する生物と彼らの父親的存在との関係性です.『サンダ対ガイラ』では,二人のフランケンシュタインと彼らの研究を続けるスチュワート博士との間に,そして『妖怪人間ベム』では,三人の妖怪人間と彼らを造り出した緒方博士との間に存在するものです.ただ,その関係性も厳密に言うとそれぞれにおいてやや異なっていて,前者においては,父親的存在であるスチュワート博士が,防衛隊から攻撃されようとするフランケンシュタインたちを救うために彼らを見つけようとします.つまり,父が子を探すわけです.逆に,後者では,ベムたちは自分たちを造った緒方博士に会おうとします.こちらでは,父を探す子の姿が描かれます.子供の成長段階に照らして考えると,前者は,幼児,あるいは小児と父親の関係,そして,後者は,さらに成長した少年,または青年と父親との関係に例えることが出来るでしょう.(三人の妖怪人間は,子供と大人ですが.)しかし,どちらの話においても,子供と父親との間の関係が断ち切れている前提は共通しています.

前置きが長くなりましたが,実は,この子供と父親との関係,特に《父親を探し求める子供》的な衝動が集団としての日本人の行動を無意識のうちに方向付けているように思えてならないのです.

Monday 2 September 2013

SFXの舞台裏

L'EXPRESSに紹介されていたインタビュービデオです.言葉はフランス語です.あしからず.

 

特殊効果の機会仕掛けを担当するニコラスさんがこの道に進んだきっかけは,映画『グレムリン』を観たことだったそうです.

シリアが保有する化学兵器の量

9月1日付電子版Spiegel誌の記事"Nervenkampfstoffe:Warum Syrien Chemiewaffen-Macht bleiben wird"からの抜粋です.

シリア内戦による死者の数は,すでにおよそ10万人を数え,全国民の1/4が避難民となっています.こうした中,アメリカは軍事介入の気配を見せていますが,仮に攻撃の目的がシリアが保有している化学兵器の破壊であるとしたら,それが実施されても何の効果はありません.というのは,仏紙"Journal de Dimanche"が報じるところによれば,フランス政府の複数の情報機関(DGSEおよびDRM)の過去30年以上にわたる調査活動によるとシリアは数百トンのマスタードガス,数十トンのVXガス,数百万トンものサリンガスを保有しており,その量は全体で1000トンを超えるものでまさに世界で最大規模の化学兵器庫というわけです.これらの猛毒兵器はSS-21,Scud-B,そしてScud-Dなどのミサイルに搭載され最長で500 Km離れた目標に到達が可能です.*1)

こうしたとんでもない量の化学兵器を破壊しようとするならば,大量の地上兵員を投入する必要があるというのが専門家の一致した意見です.実際,ペンタゴンは,そのためには75,000名の地上部隊と専門技術者の投入が必要としていましたが,ヨーロッパの同盟諸国による協力の可能性は今や完全に無くなりました.空爆によって部分的でも化学兵器を破壊しようとしても,それらがどこに隠されているのか判りませんし,それに加えてこの数ヶ月間に化学兵器は国全体に分散されてしまったといわれています.

仮に,どこにどういった種類の化学兵器が隠されているか明確に把握出来たとしても,ことは簡単には進みません.攻撃によりそこに存在する化学兵器が空中に拡散してしまうというもの専門家の一致するところです.そうなれば,さらに多くの一般人が犠牲となり,また尋常ではない規模の環境破壊を引き起こすことになります.アメリカのArms Control AssociationのDary Kimbsall氏も,「ある種類の化学兵器は中和させることは可能だが,それ以外のものは拡散してしまう.すべてを破壊する事は永久に不可能.」と述べています.フランスの専門家Ralf Trapp氏によると,化学物質を破壊するにはおよそ650°程度の高温が必要だそうです.さらに,アメリカの空爆作戦において使用されるトマホークですが,化学兵器の破壊を目的とするのであればあまり良い選択ではありません.James Martin Center for Nonproliferation StudiesのAmy Smithson氏は,トマホークを用いて化学兵器の格納庫を攻撃した場合,その爆発によって猛毒の雲が形成され,周囲に甚大な健康上の被害を及ぼすことが懸念されると述べています.

事実,1991年1月,第二次湾岸戦争の際,アメリカ軍はイラクのMuthannaにおいて2500 発ものサリンガスによって充填された砲弾が置かれていた地下倉庫を爆撃しましたが,暫く経ってからそこから南に数百キロほど離れた同盟軍のポストで神経ガスセンサーの警報が鳴りました.爆撃地点の周囲では死者も出なかったので,そのときは誤作動によるものだと思われましたが,今年の3月,科学雑誌"Neuroepidemiology"に掲載されたテキサス大学のRobert Haley氏たちの研究によると,爆撃直後,大気中に放出された多量の神経ガスは上空高高度において拡散し,数百キロ離れた地点においても神経系統に障害を発生させ得る程度の密度を持っていたそうです.爆撃された地下倉庫は現在でも汚染の度合いが非常に高いため,防護服を着けないと近づけない状況だそうです.

空爆による猛毒のガスの大気中への拡散に加えて,もうひとつ懸念されるのは,空爆後,破壊されなかった化学兵器が反政府軍の中のイスラム過激派の人たちの手に移ってしまうことです.というのも,専門家たちの意見によると,空爆によって化学兵器を破壊しようとしても少なくとも20から30%が破壊されずに残ってしまうとされているからです.


*1) 9月2日付電子版Le Figaroの"Armes chimiques : Paris brandit les preuves"参照

Sunday 1 September 2013

シリア難民受け入れに動き出すスイス

20 Minutenというと,何となくそれほど真面目ではないタブロイド紙だと思っていたのですが,31日付の電子版の"Sommaruga will Hunderte Syrer aufnehmen"という記事に目が止まりました.

以下,内容の抜粋です.

シリアの内戦でこれまで10万のもの住民が犠牲となりました.そして,これ迄にヨルダンやレバノンなどの周辺国へ逃れた難民の数は190万人以上と言われていますが,現在も毎日およそ8000人もの人々がシリアの脱出し続けていて,避難先では劣悪な環境での生活を余儀なくされています.こうした状況に鑑み,スイスのゾンマルガ法相は,国連難民高等弁務官事務所と協力し,これら避難民の中から子供,妊婦,高齢者を中心に300人から500名程度の受け入れを連邦政府に提案したいと述べました.国連の高等難民弁務官事務所によると,国外で生活する避難民のおよそ3/4が子供と女性だそうです.アメリカなどによる空爆が実施された場合,避難民の数はさらに増加することが考えられます.

(記事の中のギャラリーの子供たちの笑顔の写真が印象的でした.)


以前,アルジェリアで出会った子供たち.シリアの子供たちにも一刻も早く笑顔が戻ることを心から祈っています.


20 Minutenのシリア内戦についての特集ページへはこちらから.