Thursday 11 December 2014

アメリカ議会上院によって公開された,9.11以降に行われたCIAによる拷問に関する調査報告書

昨日の水曜日に公開された報告書は,上院のサイトの情報委員会のページのこちらからダウンロード可能です.(PDF,525ページ)ニューヨークの同時多発テロおよび類似の事件に関わった,あるいは計画に関わったとされ,拘束された39名ほどの人物に対し実施された常軌を逸した拷問の内容が詳細に記述されています.読むと,これまでCIAやオバマ大統領が当該のリポートの公開に対して積極的な姿勢を示さなかった理由が十分理解出来ます.こうした非人道的行為は,ニューヨークのテロ以降,ブッシュ大統領によって許可され,2009年,オバマ大統領によって禁止されるまでつづけられました.

拷問の方法としては,壁に叩き付ける,180時間眠らせない,氷水の入った浴槽に入れるなどですが,なかには,Abou Zoubeidaという個人名が挙げられている被拘束者のように,半ば失神し,口から泡を吹くまで水の中に顔を押し入れられたという例もあります.平手打ち,殴打,長時間に亘って苦痛を生じさせる姿勢を維持させたり,食物を肛門に押し込んだりすることもあったそうです.また,拘束された人たちは,彼らの家族に性的,または肉体的な危害を与えるというおどしも受けたそうです.なお,こうした中世ヨーロッパの異端審問,あるいはニューイングランドで行われた魔女裁判でも用いられなかったような拷問が日常的に行われていたグアンタナモ収容所に移送される前,拘束された人々は,タイ,リトアニア,アフガニスタンなどに設置されている専用の施設に収容されていたようです.

報告書には,必要な情報を訊きだす上で,上記の拷問が全く効果が無かったことも書かれていて,その例として,ベン・ラデン容疑者逮捕の決めてとなった情報が,拘束されていなかった1人のイラク人の自由意志からもたらされたということが挙げられています.

とりあえず,以上はL'EEPRESSの"Mensonges" et "tortures": les méthodes de la CIA épingléesの抄訳ですが,その他,特に多くの英国のメディア,例えばBBCThe Guardianなどもこのニュースを伝えています.(集団的自衛権を閣議決定した日本ですが,アメリカの盟友英国のBBCのようにこうしたニュースを詳細に伝えるメディアは存在しているでしょうか.)ドイツのSpiegel*1)も"US-Folterbericht:So bestialisch quälte die CIA ihre Gefangenen"で伝えています.(下のビデオ参照.)


それでも,このような実施された拷問に関する調査報告が公開されるということについては,やはりアメリカの制度は素晴らしいと思います.こうした報道を目にするたびに,自分たちのメンツを守るため,あるいは多くの予算を獲得し既得権益を守るため,あるいは自分たちの物理生物学的生命保持のために,結果的に多数の冤罪事件を引き起こし,ひいては無実の可能性のある人も死刑にしてしまい,それについての調査も満足にせず,自分たちに不利になりそうな証拠も平気で遺棄してしてしまうといった姿勢がたびたび指摘される日本の検察や司法機関,そして,それを改善することができない立法機関のお粗末極まりなさが思い出され,やりきれなくなります.(凡そ司法に関わる方にも児島惟謙の次の言葉に表されるPublic Servantとしてあるべき姿勢を身につけていただきたいものです.引用した言葉の背景は,こちらのポストで説明してあります.)

凡そ社会に法律程窮屈のものはあらざるべし。今回の如きも、法律に正条あるを以て、閣下等を満足せしむるの結果を得る事能わざるなり。法理の己むを得ざるものあるは、了解せられよ。唯戦争を開始すると否とは、閣下等の方寸にあり。希くは礼譲を以て、平和の局を結ばれん事を望めども、露国にして野心を挟みて、兵力を弄し、蛮力を以て帝国に殺到襲来する事あらば、遂に避け難からん。事茲に到らば、小官等亦法官の一隊を組織して、国民軍となり、閣下等将軍の指揮に服従し、以て一方面に当るを辞せざるなり。勿論其際は法律を擔い出さざるべし。

- 児島惟謙,家永三郎 編注,『大津事件日誌』,東京,平凡社,1971年,p112)
いずれにせよ,今回公表された報告書の内容が,日本の検察などの司法当局に存在する人権感覚が全く欠如した一部の人間たちによって,彼らの極めて卑劣で非人道的行為を正当化するものとして利用されないことを切に祈るものです.アメリカの素晴らしいところは,繰り返しますが,すべての分野で言えることではないにせよ,過ちを犯しても,それほど時をおかずに真相を調査し,究明し,その結果を公表できることです.司法当局に限らず,日本の場合は,アメリカの悪いところばかり見習って良いところは意識的に無視するといった傾向が強いように感じられてなりません.(下世話な表現ですが,ようするになんでも大人の悪いところばかり真似するガキンチョと同じ知能レベルということです.)




*1) ドイツは日本と同様敗戦国ですが,例えば,Spiegelなどは,グアンタナモのキャンプXレイにおける収容者に対する非人道的な扱いを2001年9月の同時多発事件のほぼ直後から報道しています.(Spiegel.deでGuantanamoというキーワードで検索するとお判りになります.)例えば,2002年の1月16日付の"Unmenschliche Käfighaltung?"では,アメリカがキャンプXレイの被収容者たちに対し,"Unlawful Combatant"(非正規戦闘員?)といった国際法上存在しない地位を与えていることに対する国際赤十字委員会の批判や,非人道的扱いがなされていることに対する国際アムネスティーの批判を報じ,2004年11月30日付"Rotes Kreuz findet Hinweise auf Folter in Guantanamo"では国際赤十字委員会が同収容所において非人道的行為が実行されている証拠を得たことも報じました.そして,2007年8月13日付"Tod in Camp Delta"では,キャンプXレイで起きた3人の収容者の自殺の経緯を詳細に報告しています.ちなみに,私がいざというときに頼れるニュースメディアはドイツのSpiegelという確信を得たのは,同時多発テロ事件発生直後の2001年9月13日付の"In welchem Fall ein Gegenschlag zulässig ist"という記事を読んだときでした.事件の発生とアメリカのアフガニスタンへの軍事報復準備をひたすらおろおろしながら伝えるNHKおよび他の殆どの日本のニュースメディアとは全く異なりSpiegelは,この記事の中で国連憲章第51条をその報復攻撃の根拠とするアメリカの姿勢に疑問を呈するドイツ人の専門家たちの意見を紹介していました.こうしたSpiegelの姿勢は,ニュースメディアとして当然と思いますが,それをバックアップしているのは,ドイツという国の一貫した哲学を持って自らの歴史に向き合うという姿勢だと思います.(メディアはともかく,そもそも日本の政治家にドイツのヴァイツゼッカー大統領が敗戦40年の記念式典にしたような人類普遍の思想ともいえるものに貫かれている名演説が出来る人がいるでしょうか.大統領の演説に象徴されるドイツの自らの歴史に対する一貫した姿勢に比べると,日本の大衆はともかく,多くの政治家の姿勢が無脊椎動物のそれのように思えてきます.)

同様のことはスイスのメディアにも言えます.例えば,SRFこちらのニューメキシコの無人偵察機の遠隔操縦基地及び元操縦士の証言をまとめた記事(リポートの動画付)ですが,そこに上掲のCIAの調査報告書のダウンロードページへのリンクも設置されています.

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