さまざまな蒸気機関車のタイプを車軸配置(または配列)によって表記する方法は,各国で異なるものが開発されました.例えば,スイスやバイエルンでは動軸数/全車軸数といった表記方法が採用されましたが,後にドイツ帝国鉄道の18形となるバイエルン国鉄のS 3/6形などの表記はこれによるものです.この形式はパシフィック(2'C1')なので全車軸数が6(先輪軸 x 2 + 動輪軸 x 3 + 従輪軸 x 1),そのうち3本が動輪軸というわけです.なお,最初のSは,Schenellzugの頭文字で急行(旅客)用機関車を表しますが,同様にドイツの昔の機関車の表記にはt(タンク機関車)*1)やG(貨物) などの頭文字が付されていました.*2) また,スイスにおいては,現在でもこうした車軸配置表記が機関車を始め動力車両全般に用いられています.*3)
Wikipediaの「車軸配置」の項には,こうした車軸配置表記の異なる方法が一つの表にまとめられて紹介されていています.*4) その表の下へ行く程動輪および遊輪(先輪や従輪という動輪以外の車輪)の軸数が増えて行きますが,国鉄の蒸気機関車で一番下に位置するものというと,奥羽本線の板谷峠や北陸本線の倶利伽羅峠などで活躍したE10形で車軸配置は1'E2'.アメリカ式に言うとTexasです.それを除くと,最大の車軸数を持つものはD60形,D61形,そしてD62形の三形式の1'D2'です.それぞれ,D50,D51,D52形の従輪軸を1本から2本に増やし,つまり従台車に置き換えて軸重を軽くした形式でした.D60は東北,近畿,中国,九州地方と広い舞台で,短めの除煙板と氷柱ガードが装着された姿が印象的だったD61は北海道の留萌本線で,そして末妹のD62は,当初は東海道,山陽本線で,後に東北本線でそれぞれ活躍しました.これらの1'D2'を持つ機関車のアメリカ式呼称はBerkshire.従輪軸を増やす前の三形式D50,D51,そしてD52はMikadoです.ミカドというと,ドイツの機関車では,ザクセンの急行用の名機XX HV(ドイツ帝国鉄道19形),ポーランド製のPt31(ドイツ帝国鉄道19.1形),ユニークな8気筒の急行旅客用機19.10*5),プロイセンのP 10(ドイツ帝国鉄道39形),そして,急行貨物および勾配区間の旅客用の万能ミカド機41形*6)が挙げられますが,この名称は,19世紀末にアメリカで最初にミカド機を量産したBaldwin Locomotive Works社が同形機を日本へ輸出したことに因むようです.もっとも第二次世界大戦中のアメリカでは,こうした車軸配置を持つエンジンはミカドではなくマッカーサーと呼ばれていたようですが.また,ミカド形ではありませんが,遊輪なしの4動軸機関車(Eight-Wheel-Switcher)を最初に走らせたのは米国のBaltimore & Ohio Railroadで,1844年のことでした.ヨーロッパでは,オーストリアの世界遺産路線ゼンメリング線のC形タンク機関車(C n2t)が4動軸のテンダー機関車(D n2)に改造されたものが最初だったようです.こちらは1861年のことでした.*7)
ドイツの機関車に限って言えば,ミカド形はテンダー機関車としては上で挙げた五形式のみですが,公平を期してミカド形のタンク機関車を挙げると,86(貨物機),93(貨物機),97.4(アプト式),98.18(地方あるいは局地向機関車)*8),99.32(狭軌:900mm)が存在しています.*9) ミカド形というと日本では最大の製造量数を誇るD51のお陰で貨物機の代名詞のように思われがちですが,このように,ドイツ帝国鉄道時代に製造されたEinheitsloksと呼ばれる部品などに統一規格が用いられた機関車の中のテンダー貨物機に割り振られた形式番号40〜49,そして後の50番台*10)では,アメリカ式に言うとDecapodの1'Eの車軸配置が支配的だったのです.*11) その意味では,ミカド形の41はドイツでは例外的なタイプと言えるでしょう.また,国鉄E10のように5動軸を持ったタンク機関車もドイツには存在していますが,1'E2'はないようです.*12)
ところで,ドイツ最大のタンク機関車というと旧バイエルン国鉄のGt 2x4/4形で動軸数は8,シーフェエーベネを通過する列車の牽引機などとして活躍しました.(後の96形)日本の国鉄の形式番号をつけるとするとH形になるでしょうか.
Wikipediaの「車軸配置」の項には,こうした車軸配置表記の異なる方法が一つの表にまとめられて紹介されていています.*4) その表の下へ行く程動輪および遊輪(先輪や従輪という動輪以外の車輪)の軸数が増えて行きますが,国鉄の蒸気機関車で一番下に位置するものというと,奥羽本線の板谷峠や北陸本線の倶利伽羅峠などで活躍したE10形で車軸配置は1'E2'.アメリカ式に言うとTexasです.それを除くと,最大の車軸数を持つものはD60形,D61形,そしてD62形の三形式の1'D2'です.それぞれ,D50,D51,D52形の従輪軸を1本から2本に増やし,つまり従台車に置き換えて軸重を軽くした形式でした.D60は東北,近畿,中国,九州地方と広い舞台で,短めの除煙板と氷柱ガードが装着された姿が印象的だったD61は北海道の留萌本線で,そして末妹のD62は,当初は東海道,山陽本線で,後に東北本線でそれぞれ活躍しました.これらの1'D2'を持つ機関車のアメリカ式呼称はBerkshire.従輪軸を増やす前の三形式D50,D51,そしてD52はMikadoです.ミカドというと,ドイツの機関車では,ザクセンの急行用の名機XX HV(ドイツ帝国鉄道19形),ポーランド製のPt31(ドイツ帝国鉄道19.1形),ユニークな8気筒の急行旅客用機19.10*5),プロイセンのP 10(ドイツ帝国鉄道39形),そして,急行貨物および勾配区間の旅客用の万能ミカド機41形*6)が挙げられますが,この名称は,19世紀末にアメリカで最初にミカド機を量産したBaldwin Locomotive Works社が同形機を日本へ輸出したことに因むようです.もっとも第二次世界大戦中のアメリカでは,こうした車軸配置を持つエンジンはミカドではなくマッカーサーと呼ばれていたようですが.また,ミカド形ではありませんが,遊輪なしの4動軸機関車(Eight-Wheel-Switcher)を最初に走らせたのは米国のBaltimore & Ohio Railroadで,1844年のことでした.ヨーロッパでは,オーストリアの世界遺産路線ゼンメリング線のC形タンク機関車(C n2t)が4動軸のテンダー機関車(D n2)に改造されたものが最初だったようです.こちらは1861年のことでした.*7)
ドイツの機関車に限って言えば,ミカド形はテンダー機関車としては上で挙げた五形式のみですが,公平を期してミカド形のタンク機関車を挙げると,86(貨物機),93(貨物機),97.4(アプト式),98.18(地方あるいは局地向機関車)*8),99.32(狭軌:900mm)が存在しています.*9) ミカド形というと日本では最大の製造量数を誇るD51のお陰で貨物機の代名詞のように思われがちですが,このように,ドイツ帝国鉄道時代に製造されたEinheitsloksと呼ばれる部品などに統一規格が用いられた機関車の中のテンダー貨物機に割り振られた形式番号40〜49,そして後の50番台*10)では,アメリカ式に言うとDecapodの1'Eの車軸配置が支配的だったのです.*11) その意味では,ミカド形の41はドイツでは例外的なタイプと言えるでしょう.また,国鉄E10のように5動軸を持ったタンク機関車もドイツには存在していますが,1'E2'はないようです.*12)
ところで,ドイツ最大のタンク機関車というと旧バイエルン国鉄のGt 2x4/4形で動軸数は8,シーフェエーベネを通過する列車の牽引機などとして活躍しました.(後の96形)日本の国鉄の形式番号をつけるとするとH形になるでしょうか.
Wikipediaの蒸気機関車の項目に掲載されているワルシャート式弁装置あるいはホイジンガー式弁装置のイラストレーション.何故かボックス車輪とスポーク車輪が一緒に描かれているが,仕組みが非常に良く判ります. |
*1) 奇妙な事に,ドイツ語では,私たちがタンク機関車と呼んでいるものはTenderlokomotiveと呼ばれます.また,炭水車がついた機関車はLokomotive mit Schlepptenderと呼ばれます.面白いことに,フランスでも同様の呼び方がなされていて,タンク機関車はLocomotive-tender,テンダー機関車はLocomotive avec tenderです.日本語における呼び方の元である英語では,いうまでもなく前者はTank locomotive(または,"Thomas the Tank Engine"のようにTank engine),後者はTender locomotive(またはTender engine)です.
*2) 現在,私たちが目にするドイツの機関車の形式表記は1926年に採用されたものですが,それまでの,例えばバイエルンで採用されていた形式表記については,WikipediaのList of Bavarian locomotives railbusesなどをご覧下さい.また,Selketalbahnのこちらのページにもかなり詳しく説明されています.
*3) スイスの機関車の形式表記については,Wikipediaのこちらの項をご覧下さい.
*4) フランス語版の内容が最も充実しているようです.それによると,UIC方式を採用しているのは,ドイツ,イタリア,ユーゴスラビア,そして大半の東欧諸国であり,また,ホワイト方式はアングロサクソン諸国およびスペイン語圏,そしてアメリカ大陸のすべての国によって採用されているそうです.日本で用いられているのは簡易式UIC方式といえるもので,曲線に沿って車体に対する角度が変わる先輪や従輪をあらわすダッシュは,通常,付記されません.
*5) 試作機の19 1001のみ製造されました.
*6) 重油燃焼方式に変更されたマシンは,1968年以降042形の形式番号(EDV番号)が付けられましたが,それまでは41形として登録されていたので,042は敢えて独立した形式としては挙げないことにしました.なお,この年以降残りの41形機のナンバーも041と変更されます.また,ドイツ国鉄には戦時形の42も存在しますが,こちらの車軸配置は1'Eでミカドではありません.
*7) "1D1 "Mikado"" in Baureihe 41 (Eisenbahn JOURNAL, Special), 1.2013, p15
*8) ドイツ語では,Lokalbahnlokomotiven.といっても,地方の小規模な私鉄の機関車という意味ではなく,限られた地域に配置されていた機関車という意味.
*9) Cf. Liste der Lokomotiv- und Triebwagenbaureihen der Deutschen Reichsbahn (1920–1945) in Wikipedia
*10) 当初は,ザクセン,プロイセン,あるいはバイエルンといった旧領邦鉄道の貨物機に割り振られていた番号ですが,後に50形,52形のようにEinheitslokに用いられました.
*11) 42, 43, 44, 50, 52.なお,45形は1'E1'.といっても,1'Eは,決してドイツの機関車だけに用いられていた車軸配置ではなく,フランスの機関車にも150形(= 1'E)はいくつも存在しています.(例えば,旧東部鉄道の150 Eなど.)ただ,英国の機関車では数は少なく,Great Western Railway,Midland Railway,North Eastern Railway,Southern Railwayの機関車のリストにおいては見つからず,あるとすれば,戦時形のWD Austerity 2-10-0(90750–74,WDはWar Department(陸軍省)の略)とドイツのEinheitslokに相当するStandard classesの中のClass 9F(92000–250)くらいです.このうち現在でも目にする事が出来るものといえば,セバーン・バレー鉄道のハイレイの機関車博物館に保存されている戦時形のGordon(WD Austerity 2-10-0)です.なお,動輪直径は,ドイツの5動軸機においては1400mm,そして,英国の5動軸機では,戦時形機においては1435mm,Class 9Fにおいては1524mmでした.また,日本の5動軸機E10では1250mmの動輪直径が採用されました.このサイズは大正期に開発された国鉄9600(1'D)のものと同じです.この1250mmというのは,ドイツの急行旅客用機19 1001でも採用されたサイズでした.
ところで,先に挙げた日本のD形機の動輪直径もドイツの殆どの1'E機同様1400mmだったのですが,ドイツの標準軌用ミカド機についていうと,19形が1905mm,19.1形が1850mm,そして,41では1600mmでした.41は用途からいうと貨客両用のC58(1'C1')に近い位置にいた機関車のようですが,因みに後者の動輪直径は1520mmでした.もっとも,C58が亜幹線や支線用だったのに比べて,41は1930年代,幹線における急行旅客列車のスピードアップのネックだった貨物列車のスピードアップのために開発されたマシンで設計最高速度も90 km/hでした.(100 km/hでの走行も実用上は問題はなかったようです.)フランスのミカド機はというと,今でもミュールーズ鉄道博物館で展示され,また,スイスで動態保存されている141Rが1650mmですが,カナダ製でボックス車輪をはいています.
*12) いずれも標準軌用貨物機の84(1'E1'),85(1'E1')87(E),94(1'E1'),97.5(E),そして狭軌用の99.18(E, 軌間=1000mm),99.19(E, 軌間=1000mm),99.22(1'E1', 軌間=1000mm),99.43-44(E, 軌間=785mm),99.64-71(E, 軌間=750mm),99.73-76(1'E1', 軌間=750mm).
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