2009年のプラハにおいて,オバマ大統領の演説は核兵器の無い世界への期待を膨らませました.さらに,今年の夏にはベルリンで,大統領は,ロシアが交渉に参加した場合,核兵器の数は現状より1/3少なくなると語りました.しかし,現実はこうした演説とは逆の方向へ進みつつあるようです.
以下,10月18日付ドイツのSPIEGEL誌の電子版の記事"Experten werfen US-Regierung Entwicklung neuer Atomwaffen vor"の内容の抜粋です.
アメリカの研究者たちのグループ"Union of Concerned Scientists (UCS)"は,アメリカの核軍備に関する報告書("UCS-Report"*1))を公開しました.それによると,現在,アメリカは既存の核兵器の保有のみに留まらず,実質的に新たな核兵器のシステムを開発しつつあるというのです.
アメリカ政府は,長い間,核兵器をめぐるジレンマに陥っていました.最後の核兵器が開発されたのは1990年,しかも用いられた技術は1970年代のものでした.1992年以降,アメリカは地下核実験を停止し,すべての核実験をコンピューターによるシュミレーションで行ってお り,核兵器の老朽化は着実に進んでいます.(アメリカが現在保有する 核弾頭の数は7700発以上.そのうち2150発がただちに使用可能(active)な状態.)こうした核兵器の性能および安定性を維持するためには,たいへんな額の予算が必要であることは間違いありません.しかし,実際にアメリカ政府が計上している予算の額を見ると果たしてそれだけが目的なのか疑問がわいてきます.今後25年間に,アメリカ政府は600億ドルを核兵器の近代化のために用いるとしていますが,この金額は,同じ期間にアメリカ政府が核兵器のために用いる予算のごく一部であるとも言っているのです.以下は,報告書が挙げている具体的な例ですが,いずれも結果的に当初の見積もりを大幅に上回る額が計上されています.
ロス・アラモスの国立研究所の化学および治金研究セクションへは,2004年において見積もられていた額の7倍から9倍に当たる37億から59億ドルの予算が支出され,新設のウラン加工工場の建設には6億から11億ドルが必要とされていましたが,それも今や75億ドルと言われています.さらに,航空機搭載可能のB61型核爆弾の近代化に必要とされる予算の額は,2010年には20億ドルが担当官庁であるエネルギー省から要求されていましたが,その後40億ドルへと増額され,2012年にはさらに70億ドルという声も聞こえてきています.
最後に挙げたB61型核爆弾の使用期間の延長については,すでに長い間批判の対象となっていて,ヨーロッパに配備されたこの兵器は,今や全く役に立たない冷戦の遺品以外の何ものでもなく,ただちに廃棄するのが望ましいというのが専門家たちの一致した意見です.しかし,アメリカ政府は,これらを無くすどころか高性能化しようとしているのです.
UCSは,アメリカの核弾頭の種類が近代化の過程において7から5に減少するだろうと言っています.しかし,それらを異なる兵器に装着することが可能になると言うのです.すなわち,3種類は長距離ミサイルに,2種類は爆弾および巡航ミサイルに.こうしたプロジェクトは,新たな核兵器を開発しないという政府の約束を反古にするものではないでしょう.しかし,それにより良心が傷つかないのかとUCS報告書の執筆者の一人であるCenter for Arms Control and Non-ProliferationのPhilip Coyle氏は述べています.
2012年に効力が発生した戦略兵器削減条約New Startによると,アメリカとロシアは2018年迄に配備済みの核弾頭の数を4000から1550に減らすことになっています.しかし,もしアメリカがこのような新たな核兵器の配備といった行動に出た場合,ロシア側との新たな交渉がむずかしくなることを恐れる専門家もいます.
アメリカの軍縮の専門家Hans Kristensen氏によると, B61が様々な種類のミサイルなどに装着が可能になるように改良されたものがB61-12だそうですが,この爆弾は,現在の計画によると2019年から400発製造され,その一部がドイツにも配備されるそうです.
UCSの報告書は,また,核兵器の廃棄についての言及しています.ストックホルムの国際平和研究所Sipriの報告*2)ではアメリカは2500発のイナクティブの核弾頭を保有していますが,UCSによると,それにさらに3000発の破壊予定の核弾頭が加わるというのです.というのは,軍事的には,もはや多量のプルトニウムや高濃縮ウランは必要ないからです.実際,National Nuclear Security Administration (NNSA)は,使用できなくなった大量の兵器の核物質を廃棄する計画を立てています.(それでも,アメリカは13000もの核兵器に必要な核物質を保有しています.)それによると,NNSAは余剰のプルトニウムを原子力発電施設で使われるMox燃料製造に使おうとしているのですが,UCSは,Mox燃料は非常に毒性が強いことから,むしろガラスやセラミックにいれてそのまま破棄するべきであるとしています.いずれにせよ,こうした必要なくなった核物質は,盗難されることなく安全確実に廃棄されなければなりませんが,Nuclear Threat Initiative (NTI)は,世界中至る所で核物質の管理が不徹底であると警告を発しています.*3)
以上が記事に内容ですが,日本も否応無しに,こうしたアメリカの核戦略の中に組み込まれているわけです.
*1) 報告書(Making Smart Security Choices The Future of the U.S. Nuclear Weapons Complex)の内容
Chapter 1.
以下,10月18日付ドイツのSPIEGEL誌の電子版の記事"Experten werfen US-Regierung Entwicklung neuer Atomwaffen vor"の内容の抜粋です.
アメリカの研究者たちのグループ"Union of Concerned Scientists (UCS)"は,アメリカの核軍備に関する報告書("UCS-Report"*1))を公開しました.それによると,現在,アメリカは既存の核兵器の保有のみに留まらず,実質的に新たな核兵器のシステムを開発しつつあるというのです.
アメリカ政府は,長い間,核兵器をめぐるジレンマに陥っていました.最後の核兵器が開発されたのは1990年,しかも用いられた技術は1970年代のものでした.1992年以降,アメリカは地下核実験を停止し,すべての核実験をコンピューターによるシュミレーションで行ってお り,核兵器の老朽化は着実に進んでいます.(アメリカが現在保有する 核弾頭の数は7700発以上.そのうち2150発がただちに使用可能(active)な状態.)こうした核兵器の性能および安定性を維持するためには,たいへんな額の予算が必要であることは間違いありません.しかし,実際にアメリカ政府が計上している予算の額を見ると果たしてそれだけが目的なのか疑問がわいてきます.今後25年間に,アメリカ政府は600億ドルを核兵器の近代化のために用いるとしていますが,この金額は,同じ期間にアメリカ政府が核兵器のために用いる予算のごく一部であるとも言っているのです.以下は,報告書が挙げている具体的な例ですが,いずれも結果的に当初の見積もりを大幅に上回る額が計上されています.
ロス・アラモスの国立研究所の化学および治金研究セクションへは,2004年において見積もられていた額の7倍から9倍に当たる37億から59億ドルの予算が支出され,新設のウラン加工工場の建設には6億から11億ドルが必要とされていましたが,それも今や75億ドルと言われています.さらに,航空機搭載可能のB61型核爆弾の近代化に必要とされる予算の額は,2010年には20億ドルが担当官庁であるエネルギー省から要求されていましたが,その後40億ドルへと増額され,2012年にはさらに70億ドルという声も聞こえてきています.
最後に挙げたB61型核爆弾の使用期間の延長については,すでに長い間批判の対象となっていて,ヨーロッパに配備されたこの兵器は,今や全く役に立たない冷戦の遺品以外の何ものでもなく,ただちに廃棄するのが望ましいというのが専門家たちの一致した意見です.しかし,アメリカ政府は,これらを無くすどころか高性能化しようとしているのです.
UCSは,アメリカの核弾頭の種類が近代化の過程において7から5に減少するだろうと言っています.しかし,それらを異なる兵器に装着することが可能になると言うのです.すなわち,3種類は長距離ミサイルに,2種類は爆弾および巡航ミサイルに.こうしたプロジェクトは,新たな核兵器を開発しないという政府の約束を反古にするものではないでしょう.しかし,それにより良心が傷つかないのかとUCS報告書の執筆者の一人であるCenter for Arms Control and Non-ProliferationのPhilip Coyle氏は述べています.
2012年に効力が発生した戦略兵器削減条約New Startによると,アメリカとロシアは2018年迄に配備済みの核弾頭の数を4000から1550に減らすことになっています.しかし,もしアメリカがこのような新たな核兵器の配備といった行動に出た場合,ロシア側との新たな交渉がむずかしくなることを恐れる専門家もいます.
アメリカの軍縮の専門家Hans Kristensen氏によると, B61が様々な種類のミサイルなどに装着が可能になるように改良されたものがB61-12だそうですが,この爆弾は,現在の計画によると2019年から400発製造され,その一部がドイツにも配備されるそうです.
UCSの報告書は,また,核兵器の廃棄についての言及しています.ストックホルムの国際平和研究所Sipriの報告*2)ではアメリカは2500発のイナクティブの核弾頭を保有していますが,UCSによると,それにさらに3000発の破壊予定の核弾頭が加わるというのです.というのは,軍事的には,もはや多量のプルトニウムや高濃縮ウランは必要ないからです.実際,National Nuclear Security Administration (NNSA)は,使用できなくなった大量の兵器の核物質を廃棄する計画を立てています.(それでも,アメリカは13000もの核兵器に必要な核物質を保有しています.)それによると,NNSAは余剰のプルトニウムを原子力発電施設で使われるMox燃料製造に使おうとしているのですが,UCSは,Mox燃料は非常に毒性が強いことから,むしろガラスやセラミックにいれてそのまま破棄するべきであるとしています.いずれにせよ,こうした必要なくなった核物質は,盗難されることなく安全確実に廃棄されなければなりませんが,Nuclear Threat Initiative (NTI)は,世界中至る所で核物質の管理が不徹底であると警告を発しています.*3)
以上が記事に内容ですが,日本も否応無しに,こうしたアメリカの核戦略の中に組み込まれているわけです.
*1) 報告書(Making Smart Security Choices The Future of the U.S. Nuclear Weapons Complex)の内容
Chapter 1.
IntroductionChapter 2. Extending the Life of the U.S. Nuclear Arsenal
Life Extension ProgramsDoes the United States Need a New Facility to Produce Plutonium Pits?Is the Uranium Processing Facility Appropriately Sized?Is the High Explosive Pressing Facility Appropriately Sized?How Much Tritium Does the United States Need?
Chapter 3. Stockpile Surveillance: Assessing the Reliability and Safety of Nuclear Weapons
A Modified Surveillance Program
Chapter 4. Stockpile Stewardship: Acquiring a Deeper Understanding of Nuclear Weapons
Types of Experiments for Stockpile StewardshipExperimental FacilitiesComputing Facilities
Chapter 5. Retaining a Qualified Workforce
Anticipating Shortages of Key Personnel
Reexamining Personnel Challenges
Successful Strategies for Retaining Key Personnel
The Future of the Nuclear Weapons Workforce
Chapter 6. Minimizing the Security Risks of Weapons-Usable Fissile Material
Storing and Disposing of Plutonium
Storing and Disposing of HEU
Chapter 7. Dismantling Nuclear Warheads and Verifying Nuclear Reductions
Dismantling Nuclear WarheadsVerifying Reductions in Nuclear Warheads
*2) 各国が保有する核兵器
国名:アクティブ/総数(括弧内は昨年の数字)
アメリカ:2150 (2150) / 7700 (7700)
ロシア:1800 (1740) / 8500 (8500)国名:アクティブ/総数(括弧内は昨年の数字)
フランス:290 (290) / 300 (300)
中国:不明 / 250 (240)
英国:160 (160) / 225 (225)
イスラエル:不明 / 80 (80)
パキスタン:不明 / 100-120 (90-110)
インド:不明 / 90-110 (80-100)
北朝鮮:不明 / 10以下 (10以下)
2013年10月18日現在.
FASが公開している情報に基づいた数字.
*3) 各国の核物質の管理における安全度(ドイツ語で解説されたインフォーグラフ)
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