まだ,実物にお目にかかった事がないため,手元に画像がありません.というわけで,まずは,こちらへどうぞ.また,イタリア語のみのようですが,741形蒸気機関車120号機のページもWikipediaにありましたので,そちらへのアクセスはこちらから.
上掲のリンク先,Wikipediaのページに当該機の写真が掲載されているので,一目見てその特徴がおわかりと思いますが,このマシンの煙突は,見慣れた場所についていません.
実は,この風変わりなSLの特徴は,何よりそのボイラーにあります.フランコ・クロスティ式ボイラーというのですが,二つのボイラーを垂直方向に積み重ねた構造になっていて,下の小さなほうは,その上に位置するメインボイラーに供給される水を予め加熱するためのもの,つまり,給水加熱器*1)と呼ばれている装置です.
給水加熱器というと,私たちになじみのある国鉄の機関車で,すぐに頭に浮かぶのはD51やC58など,それを煙室の上,煙突の前方にボイラーと直角方向に置いた形式だと思います.また,旅客用機関車のC57やC62などでは,ボイラーの前,エプロン部分に置かれています.
ところで,ドイツの機関車においても,D51やC58のような配置がされている場合が多いのです.例えば,下の画像に写っているのは01 10と03 10ですが,両方とも三気筒パシフィック(2C1)の急行旅客用機です.赤い矢印で示した装置が給水加熱器(Oberflächenvorwärmer der Bauart Knorr)ですが,前者の日本の二形式に比べて違いがあるとすると,これらの画像から判るように,当該装置の上のレベルがほぼ煙室のそれと同じレベル,あるいは若干低くなるように,つまりD51やC58などにおいてよりも,ボイラーに対してより深い位置に,はめ込まれるような形で配置されていることです.実は,こうした配置は,ドイツ帝国鉄道(DRG)時代に開発された統一規格形,あるいは標準型(Einheitslokomotive)と呼ばれる形式すべてにおいて採用されたものだったのです.*2)
フランコ・クロスティ式ボイラーとは,こうした給水加熱器のやたらにサイズを大きくしたものが,メインボイラーの直下に,それと平行に設置されている構造を持つボイラーなのです.
なお,フランコ・クロスティー式ボイラーを備えた機関車は燃料や水の消費が一般の形式に比べて少なく,エネルギー効率が良いといわれますが,速度は比較的遅く,例えば,紹介した741 120の最高時速は60〜65kmだそうです.イタリアの蒸機の花形といわれる685形(4気筒,最高速度120km)などに比べると,その点で少し劣りますが,その特徴ある姿を一度この目で観てみたいマシンです.現在,741 120は,Associazione Toscana Treni Storici Italvaporeにより動態保存されていて,時折運行されるイベントトレインの牽引に活躍しているそうです.(下の"Eisen Bahnromantik"で17:50ごろから本機の走行シーンを視聴できます.)
ところで,ドイツの機関車にもフランコ・クロスティー式ボイラーを備えたものがあったことをお伝えしておきます.まず,貨物用機の42形の二両,9000号機と9001号機です.*3) 元はヘンシェルが戦後に製造した40両の52形のうちの二両でした.googleなどの画像検索で40 9000というキーワードで検索するとその独特の形状の正面を見ることができます.
そして,50形の1954年,1958年,1959年に改良された31機で,改良後は50 4001から4031のナンバーが与えられ,50 40番台と呼ばれているようです.*4) こちらも画像検索で,Baureihe 50 40, Baureihe 50 Franco-Crosti-Rauchgasvorwärmer(あるいは,単にBaureihe 50 Franco-Crosti)といったキーワードで検索すると当該機の写真が表示されます.
フランコ・クロスティー式ボイラは,イタリアとドイツを除き,ヨーロッパの他の国ではあまり採用されず,他にはスペイン国鉄(RENFE)の一両,英国国鉄(BR)の10両が知られている程度です.*5)
*1) Feedwater heater (英), der Vorwärmer (独)
*2) Die Dampflokomotive - Technik und Funktion, Teil 1, Der Kessel und die Geschichte der Damplokomotive, Eisenbahn Journal, 1994, pp49f
*3) 042形という形式も存在していますが,万能ミカド機の41形の重油燃焼式に改造したヴァージョンに与えられたEDV番号であり,ドイツ帝国鉄道の形式42形とは異なります.(EDV番号についてはこちらのポストをご参照ください.)
*4) "BAUREIHE 50 Erfolgreichste Einheitslok" in LOK Magazin, Oktober 2012, p53
*5) Idem, Die Dampflokomotive - Technik und Funktion, Teil 4, Sonderbauarten deutscher Dampflokomotiven, Eisenbahn Journal, 2003, pp32f
上掲のリンク先,Wikipediaのページに当該機の写真が掲載されているので,一目見てその特徴がおわかりと思いますが,このマシンの煙突は,見慣れた場所についていません.
実は,この風変わりなSLの特徴は,何よりそのボイラーにあります.フランコ・クロスティ式ボイラーというのですが,二つのボイラーを垂直方向に積み重ねた構造になっていて,下の小さなほうは,その上に位置するメインボイラーに供給される水を予め加熱するためのもの,つまり,給水加熱器*1)と呼ばれている装置です.
給水加熱器というと,私たちになじみのある国鉄の機関車で,すぐに頭に浮かぶのはD51やC58など,それを煙室の上,煙突の前方にボイラーと直角方向に置いた形式だと思います.また,旅客用機関車のC57やC62などでは,ボイラーの前,エプロン部分に置かれています.
ところで,ドイツの機関車においても,D51やC58のような配置がされている場合が多いのです.例えば,下の画像に写っているのは01 10と03 10ですが,両方とも三気筒パシフィック(2C1)の急行旅客用機です.赤い矢印で示した装置が給水加熱器(Oberflächenvorwärmer der Bauart Knorr)ですが,前者の日本の二形式に比べて違いがあるとすると,これらの画像から判るように,当該装置の上のレベルがほぼ煙室のそれと同じレベル,あるいは若干低くなるように,つまりD51やC58などにおいてよりも,ボイラーに対してより深い位置に,はめ込まれるような形で配置されていることです.実は,こうした配置は,ドイツ帝国鉄道(DRG)時代に開発された統一規格形,あるいは標準型(Einheitslokomotive)と呼ばれる形式すべてにおいて採用されたものだったのです.*2)
ハイルブロンの鉄道博物館で屋外展示されているブルーレディこと01 1102.メインロッドが外され,復活は期待できそうにない. |
03 1010は,ウィッテ式除煙板を除き,煙室扉の中央の円形開閉ハンドルや完全に覆われたエプロン部など,ドイツ帝国鉄道時代に開発されたEinheitslokとしての形状をとどめている数少ない動態保存機の一両.(旧東独国鉄所属機.一旦は重油燃焼式に改造されたが,その際のEDV番号は,東独国鉄の規則に従い,製造番号の最初の数が重油燃焼式を表す0に変更されたため,03 0010.後に再び石炭燃焼式に戻された.現在のナンバープレートは,セルフチェックディジットが付されていないので,オリジナル,つまりEDV番号以前のものに戻されたらしい.)HalleのDB博物館所蔵. |
フランコ・クロスティ式ボイラーとは,こうした給水加熱器のやたらにサイズを大きくしたものが,メインボイラーの直下に,それと平行に設置されている構造を持つボイラーなのです.
なお,フランコ・クロスティー式ボイラーを備えた機関車は燃料や水の消費が一般の形式に比べて少なく,エネルギー効率が良いといわれますが,速度は比較的遅く,例えば,紹介した741 120の最高時速は60〜65kmだそうです.イタリアの蒸機の花形といわれる685形(4気筒,最高速度120km)などに比べると,その点で少し劣りますが,その特徴ある姿を一度この目で観てみたいマシンです.現在,741 120は,Associazione Toscana Treni Storici Italvaporeにより動態保存されていて,時折運行されるイベントトレインの牽引に活躍しているそうです.(下の"Eisen Bahnromantik"で17:50ごろから本機の走行シーンを視聴できます.)
ところで,ドイツの機関車にもフランコ・クロスティー式ボイラーを備えたものがあったことをお伝えしておきます.まず,貨物用機の42形の二両,9000号機と9001号機です.*3) 元はヘンシェルが戦後に製造した40両の52形のうちの二両でした.googleなどの画像検索で40 9000というキーワードで検索するとその独特の形状の正面を見ることができます.
そして,50形の1954年,1958年,1959年に改良された31機で,改良後は50 4001から4031のナンバーが与えられ,50 40番台と呼ばれているようです.*4) こちらも画像検索で,Baureihe 50 40, Baureihe 50 Franco-Crosti-Rauchgasvorwärmer(あるいは,単にBaureihe 50 Franco-Crosti)といったキーワードで検索すると当該機の写真が表示されます.
フランコ・クロスティー式ボイラは,イタリアとドイツを除き,ヨーロッパの他の国ではあまり採用されず,他にはスペイン国鉄(RENFE)の一両,英国国鉄(BR)の10両が知られている程度です.*5)
*1) Feedwater heater (英), der Vorwärmer (独)
*2) Die Dampflokomotive - Technik und Funktion, Teil 1, Der Kessel und die Geschichte der Damplokomotive, Eisenbahn Journal, 1994, pp49f
*3) 042形という形式も存在していますが,万能ミカド機の41形の重油燃焼式に改造したヴァージョンに与えられたEDV番号であり,ドイツ帝国鉄道の形式42形とは異なります.(EDV番号についてはこちらのポストをご参照ください.)
*4) "BAUREIHE 50 Erfolgreichste Einheitslok" in LOK Magazin, Oktober 2012, p53
*5) Idem, Die Dampflokomotive - Technik und Funktion, Teil 4, Sonderbauarten deutscher Dampflokomotiven, Eisenbahn Journal, 2003, pp32f
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