Saturday, 30 March 2013

国境なきリポーターによる表現の自由度ランキングを見て思った事

まず,この団体の審査の結果を示した地図を見ると,『良好」("Good situation")というランクに含まれているのは,北中南米ではカナダ,ジャマイカ,コスタ・リカ,ヨーロッパではアンドラ,アイスランド,アイルランド,オランダ,ベルギー,リュクセンブルグ,ドイツ,スイス,リヒテンシュタイン,オーストリア,チェコ,北欧4国とエストニア,アフリカではナミビア*1),オセアニアでは,ニュー・ジーランドの上位21カ国です.

なお,我が国はというと,北東アジアの自由主義国の韓国(50位)や台湾(47位)より低いランクに置かれてはいるものの53位で,それなりに健闘しているように見えますが,前回の22位から31位も落ちています. これは,解説を読むと判るように,福島に於ける核災害についての情報開示の不徹底(関連情報の入手を希望しても,ほとんど不可能)が大きく響いたようです.

そして,最近接したニュースから特に気になったのは,第148位のロシアと179位(最下位)のエリトリアでした.

ロシアについては, 近年,同性愛者などのセクシャル・マイノリティーと呼ばれる人々を取り囲む環境が以前に増して厳しくなってきたといいます.元々,ロシアでは,伝統的に同性愛を精神病のひとつと考える風潮が支配的だったのですが,2012年,サンクト・ペテルスブルグの統一ロシアに所属する市議が提出した,未成年者に対して同性愛などのプロパガンダを行う事を禁止した条例案が可決された結果,同市においての同性愛者によるデモ行進やレインボーフラッグの掲示,さらに公衆の面前でのキスなどは一切禁止され,違反者には最高1000ユーロの罰金が科せられることになりました.事実上,公衆が行き交ったり集う場所で「同性愛」などという言葉を発したとたん,逮捕されるという事態も起こり得る状況のようです.こうした条例の制定が,やがてロシア全土に拡大してゆくことが懸念されています.ところで,この条例の施行後,アメリカ人シンガーのマドンナによるコンサートが,このロシアで最も西欧的と言われる都市で開催され,彼女は,ステージの上から,コンサートに集った多くのセクシャル・マイノリティーに所属する人々に対し,彼らにも他の市民と同等の権利が認められるべきと熱弁をふるったところ,直ちに訴えられ,彼女に830万ユーロもの罰金が科せられそうになりましたが,裁判所は最終的にはこの訴えをしりぞけたそうです.いずれにせよ,こうした状況は,今の大統領が支持を集める国では,なんとなく合点がゆくような気もします.

ところで,同性愛というと,イスラム圏では宗教法により公には禁止されていますが,古来,男性同士の恋愛の伝統は存在しています.最近,パリに,同性愛などのセクシャル・マイノリティーのイスラム教徒たちが集う事のできるモスク(といっても場所は秘密にされていますが)が開設されました.主催者は,"L'Association des Musulmans Progressistes de France"という団体です.*2)

次は,エリトリアについてです.鉄道好きとしては,紅海に面した港湾都市マッサワと内陸部の首都アスマラを結ぶ950mmゲージの路線の雄大な車窓風景に限りない憧れを抱いていますが,30年にもおよぶエチオピアからの独立戦争の結果,独立国に復帰したこの国には,事実上表現の自由など存在しないといわれています.現代アフリカ史においてもっとも長い戦争といわれる独立戦争も,元はと言えば,戦後,エチオピアを西側に取り込んでおくために,そのエリトリア併合をアメリカが黙認したことに端を発したものでした.さらに,歴史を遡れば,エリトリアは,東アフリカにおいて大ローマ帝国の再建を目論むムッソリーニによって1890年に征服されています.そして,戦後は,前述したようにエチオピアに併合され,言ってみれば,大国の思惑に翻弄され続けた小国です.アフリカで最も貧しい国のひとつと言われ,平均寿命も55歳にかろうじて届く程度.それでも,独立国家としての尊厳をかたくなまでに守り(大国に国土を踏みにじられ続けて来たわけですから十分うなづけますが),外国からの援助は一切拒否しつづけています.首都アスマラのメデベル市場(Medeber market)では,いたるところで廃棄物から再利用可能なパーツを取り出して加工し,新しい製品に組み直す光景が見られ,さながら脱経済成長社会の手本といったところです.表現の自由がないというのは,もちろん国民全員が望んでいることとは思いませんが,独裁的との批判を受ける大統領が,表現の自由を解禁したとたん,再び大国の餌食になるのではないかという恐れを多かれ少なかれ持っていたとしても,この国の歴史を知ると,あながち無理もないのではないかと思えてしまいます.*3)



               
*1) 一生のうちに,いつかは乗ってみたい砂漠急行("Desert Express")が走っています.
*2) 以上の内容は,2013年3月16日にARTEで放送されたYouropeの内容に基づいています.
*3) エリトリアについては,2013年3月19日にARTEで放送された"Un billet de train pour l'Érythrée"に基づいています.(2008年,ドイツ南西放送局制作)

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