Monday, 18 March 2013

ARTE Reportageが伝えた福島の子供たちの健康への懸念(続き)

3月9日にヨーロッパのテレビ局ARTEが独仏語で放送した報道番組「ARTE Reportage」の中で,原子力発電所の事故後の福島における子供たちの健康状態に関するリポートが紹介されていたので,以下,その内容をまとめてみました.(取材を受けた一般市民の方の名前は,番組では実名が伝えられていましたが,ここでは,ボランティア団体の代表の方などを除き,イニシャルのみとさせていただきます.)

リポート本編が始まる前に,プレゼンテーターが,現在,福島において子供たちの健康に関する限り,「問題は無い*1)」というのが日本政府の見解であることを伝えていました.

まず,リポートの冒頭で,一人の男の子が診療所の診察台に寝かされ,医師により喉の周辺の超音波検査を受けている様子が映され,モニターには,甲状腺の異常(多数の結節の存在)がはっきりと表示されていました.その際,担当の医師は,取材を受けた検査が行政当局の許可の範囲外で行われているため匿名でならということで取材に応じたそうで,顔にモザイク処理がほどこされていました.こうした,行政当局が実施することを認めていない検査の数は,増加し続けているとの事でした.

次に,福島第一原子力発電所と福島市ならびに郡山市の位置が示された地図が表示され,現在,放射能汚染を受けた地区の住民の数は100万人以上,その大半は福島市内および郡山市内で生活しているというナレーションが入りました.

そして,2011年4月から翌2012年の9月末までの期間において, 福島県内の11万人の子供たちに対し,国の管理下において福島医科大学によって実施された検査の結果が紹介され,それによると,検査対象となった子供のうち,42%以上に甲状腺の異常(嚢胞,または結節)が発見されたそうです.そして,検査の一ヶ月後,その結果が,行政側から被験者の家に郵送されましたが,そこには心配は無いという内容が記載されていました.

この通知を受け取った親たちは,こうした行政側の見解および対応にに疑問に抱き,その中の一人,自らの子息の甲状腺に多数の結節が検出されたTokiko Noguchiさんは,定期的に会合を設けて子供たちの健康についての情報や意見交換を行うAssociation 3A(3a!郡山)というグループを立ち上げました.インタビューに答える彼女の言葉は,独仏語に訳されていましたが,途中,吹き替えの音声が途切れたとき,「行政はやってくれないので,行政を待っているわけにはいかないんですね.」というオリジナルの日本語の音声が聞こえました.

検査を実施した福島医科大学は,結節など甲状腺に異常が検出された子供については,2年ほど待ってから再検査することを勧めていますが,多くの専門家たちは,6ヶ月ごとの検査の実施は不可欠との意見を持っています.

現在,日本政府は,福島から他の地域への移住に対しては一切援助は行っていません.そのため,高濃度の放射能汚染を受けた地域を去りたくても,大半の家庭は特に経済的理由などで,その希望を叶えることができないでいます.

日本政府は,原子力発電所の事故の発生以前は,1ミリシーベルトとしていた,一人当たりが年間に浴びる許容放射線量を事故後,20ミリシーベルトに引き上げました.

ここから,番組は,当該のテーマについて三人の専門家に取材した結果を紹介します.

一人目は,上述の子供たちの甲状腺検査を実施した福島医科大学において,福島市民の追跡健康調査の責任を負っているDr. Shunichi Yamashita.Yamashita氏の見解によると,年間の許容被照射線量を5倍,つまり100ミリシーベルトに引き上げても問題はないそうで,そのため,同氏につけられた異名は"ミスター・100ミリシーベルト"とのことでした.実際,インタビューの中で,福島における被照射線量は,殆どの場合が20ミリシーベルト以下であり,健康に問題を生じさせる程度ではない.福島を危険な地域とするのは,完全に誤っていると述べていました.そして,福島の子供たちの42%以上に甲状腺の以上が発生していることに関連して,チェルノブイリで行われた同様の検査の結果との比較についての意見を求められた際,同氏は,42%を越える数の子供たちに甲状腺の異常が発生しても何ら心配は無い.チェルノブイリにおける検査との比較については,検査の時期や,検査に用いられた装置やその感度の相違等により,比較する事自体意味をなさないと述べていました.

取材班は,次に二人目の専門家の意見を求めて,フランスへ向かいます.取材先は,フランスで最も権威のあるガン医療研究所Institut de Cancérologie Gustave Roussy.マイクを向けたのは,国立健康医学研究所(INSERM*2))の研究者Florent de Vathaire氏.同氏の見解は,Yamashita氏のそれと全く異なり,まず,被照射線量とガンの発生率の関係については,(年間)10ミリシーベルトを越えるレベルからガンの発生率が増加する懸念があるとしています.福島の子供たちのケースについては,まず,他の地域の同年齢の子供たちに同じ方法で実施された検査結果と比較する事が重要と述べていました.

そして,最後に登場する専門家は,日本人医師で,行政との関係を持たない福島県内の民間の診療所*3)で医療に従事しているDr. Hiroto Matsue.50年に渡ってガンの研究に携わり,定年退職後,こちらの診療所に勤務しているとのことでした.番組では,母親のSさんに伴われ診療所を訪れた二人の男の子をMatsue氏による検査を受ける様子が映され,その結果,福島医大の検査では長男にのみ発見されていた甲状腺の結節が,次男にも見つかったことが伝えられていました.Matsue氏も,前述のVathaire氏同様,最初に取材を受けたYamashita氏とは異なる見解を持っており,しかも,そうした自らの見解を公表してはばからない数少ない医師の一人と紹介されていました.インタビューへの答えの中で,Matsue氏は,チェルノブイリでは,多くの白血病や心臓疾患が発症した.福島でも,同様の問題が生じるのではないかと心配していると語っていました.

取材班は,次に汚染地域の放射線量を取り上げ,事故発生当時,福島第一原子力発電所から25km離れた地域に住んでいて,事故後,同発電所から65km離れた郡山市内に移住したMさん一家を訪ねます.Mさんは,自ら放射線量計を用いて,自宅周辺の放射線量を継続的に調べていますが,取材時の値は,毎時4.5から4.7マイクロシーベルト*4).これは,国際基準の40倍の量に相当します.Mさんによると,以前は,5マイクロシーベルトだったとのこと.市による除染が実施された地域だったそうですが,その効果は期待されたほどではなかったようです.Mさん家族の心配のたねは,こうした高いレベルの放射線量が検出される場所を毎日子供たちが通学のために通らざるを得ないということです.

こうした状況をふまえ,仙台などでは,行政による子供たちの移住を求める声が上がっていますが,司法の判断を仰いだケースではことごとく住民側が敗訴しています.

現在,福島県では,公立学校の給食への地元産食材の再導入など,子供も含めた市民生活には問題が無いことをアピールしていますが,私立の保育園などでは,依然として地元産食材を避けている施設も少なくないことが最後に紹介されていました.

以上が番組の内容ですが,一言個人的な意見を述べさせていただくと,最近,よく,「日本を普通の国にしなければならない」といった言葉を報道で目や耳にしますが,そもそも,そこで政治家などが言っている普通の国とはどういう国なのか,よくわからないのですが,それより,この国をもう少し「まともな国」にして欲しいというのが率直なところです.さらに言うならば,原子力発電のような,それが一旦事故を起こすと,非常に長い期間において環境や人間の健康に影響を及ぼすような装置はつくるべきではないということです.恥ずかしいことですが,私も,今回の事故が起こって,ようやくそのことに気がついた人のうちの一人なのですが,特に日本人の民族性からそれがいえるのではないかと思うのです.日本人は,全体として過去にこだわらない民族です.別の言い方をすれば,忘れっぽいということです.古代から地震,台風,火山噴火などの自然災害に見舞われ,一つの災害の対応が一息ついても,いつまた次の災害がやってくるか分かりません.場合によっては,前者の対応の途中で容赦なく後者がやってくるかも知れません.そうした条件の下,過去を忘れられるという事は,この国の住民にとって,その生存のために,かなり有利に機能した特性であったと思います.別の言い方をするなら,私たち日本人は,過去に捉えらず,むしろ,それと決別することでこれまで生き延びて来たと言えると思います.しかも,純粋な自然災害の場合,人口の建造物や人命は被害を受けますが,自然自体は,その形状を変化させることはあっても,そのことでそれらに継続的な影響を与え続ける事はありません.純粋な自然災害の被害は,人間が忘れても,自然自体が年月をかけてそれを修復してしまうのです.しかし,今回の原子力発電所の事故でも示されましたが,こうした核災害は,それが環境や人体に与える影響が自然の回復力によって消滅し,その影響の結果が完全に回復される事はほぼ無いのです.上にまとめたARTEの番組で伝えられたように,今,政府や県は,今回の事故について,その影響をできるだけ多くの国民の記憶から懸命に消し去ろうとしているように見えます.日本人の民族性から言って,無理もないことでしょう.明治維新前であれば,まず,間違いなく改元が実施されていたと思います.なにしろ,中国から元号の制度を導入してから,リセット好きなこの国民は,明治政府により,元号が元首,すなわち天皇の在位期間に一致させる迄(それが,本来の元号制度だったのですが),何かいやなことがあると,一人の天皇の在位中であっても,こだわることなく且つ際限なくさっさと改元し続けてきたのですから.

以上のような日本人の民族性を踏まえ,立法,行政はあくまでも安全側に立ってエネルギー政策を立案,実施していただければと思うものです.*5)


*1) フランス語版では,"Tout va bien"(=Everything is OK), ドイツ語版では,"Alles unter Kontorolle"(=Everything under control)と若干ニュアンスの異なる言葉が使われていました.
*2) Institut National de la Santé et de la Recherche Médicale
*3) 「ふくしま共同診療所」という看板が映されていました.

*4) 例えば,毎時4.5マイクロシーベルトを期間を一年とし,単位をミリシーベルトとして換算した場合,39.447ミリシーベルトとなります.つまり,年間20ミリシーベルトさえも越えているのです.4.5 Microsievert per hour [µSv/h]   =   39.447 Millisievert per year [mSv/y], cf. : http://www.convert-measurement-units.com/conversion-calculator.php?type=radiation-dose)
*5) とは,いうものの世界に冠たる博打好きの国民ですものね...一か八かで勝負に打って出る,あるいは勝負は時の運と,偶然に委ねてしまうのも,私たち日本人の特性であることも事実であり,結局,この先も,やることは変わらないかもしれません.今年の参議院選挙で現在の政権与党が大勝まで行かなくても過半数を獲得,結局,原発の再稼働へと進んで行くのではないかといささか暗い未来を思い描いています.それに,全原子炉の廃炉など,アメリカの機嫌を損ねる事は避けようとするでしょうし.中には領土問題を持ち出して,アメリカとの同盟関係が傷つく事を懸念する向きもおられるようですが,そもそも,今のアメリカの世界に対する安全保障政策は妥当,すなわち合理的なものであると証明することが可能でしょうか.それよりなにより,福島の子供たちの健康が,アメリカの政財界のために犠牲とされるようなことがあったらとんでもないことです.干ばつやその他の理由で生きた子供を犠牲として捧げたマヤやアステカの民族ではないのですから.日本でも,人身御供という習慣はあったようですが.)江戸時代,あるいは,第二次世界大戦前位までであれば,こうしたギャンブルに打って出て,仮にその結果が期待に反して被害が生じたとしても,何世代にもわたって,環境や人の健康に影響をおよぼすことはありません.つまり,最悪の人災とも言える災害(Nuclear disaster)と自然災害とでは,質的に全く異なるものであることを,私たち日本人全員が明確に認識することが必要であると思います.

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