Saturday 31 August 2013

シリア内戦 - 遅過ぎた西側諸国の対応

以下は,8月30日付電子版Die Spiegel誌に掲載された論説"Die militärische Intervention kommt zu spät"の抜粋です.執筆者のAbdel Mottaleb El Husseini氏は,主にドイツ語圏の主要ニュースメディアに記事を提供しているアラブ系ジャーナリストです.

論説の中で,彼はまず1989年10月7日,東ベルリンで行われたミヒャエル・ゴルバチョフ氏の演説の中の次の言葉を引用し,それが,連日実施の可能性が伝えられるシリア内戦へへの米国による軍事介入にも当てはまると言います."Wer zu spät kommt, den bestraft das Leben".*1)(「遅きに失する者は人生によって罰せられる」と訳せましょうか.)ようするに,これまで何十万という死者や何百万という避難民の発生を見ておきながら,化学兵器が使用された疑いがあると言ってようやく何らかの行動に移ったとしても遅すぎると言うのです.もちろん,オバマ大統領にしてみれば,ここに来て何もしないことになれば,もはや米国への信頼は完全に失墜することは明らかなので,何らかの行動を取らざるを得ないでしょうが,一口に軍事介入と言っても,具体的にどのような形で実施されるのか,また,最終的にどのような政治的な目標を達成させようとしているのか,あまりにも不透明です.そして,どのような軍事介入が行われるにしても,それが現在の中東が置かれている複雑な状況から見て,もはや予測不可能な結果を招く可能性も十分に考えられます.

確かに,これまでに発生した大量の犠牲者の責任はアサド大統領にあることは事実ですが, 彼は大統領として,もはや以前のように無制限の権力保持者ではなくなっているのです.今やシリアの内戦においては,むしろヒズボラとイランが重要な役割を演じるようになってきています.こうした状況において,アメリカや同盟諸国による攻撃が行われた場合,それが純粋にアサド軍に向けられたものであったとしても,その中のこれらの組織や国から加わった外国人兵士を巻き込まずに終わることなどあり得ません.そのため,結果的にこうした攻撃が引き金となり,イランとサウジ・アラビアによるシーア派とスンニ派の対立を,シリアのみならずイラク,レバノンにおいてもさらに激化させる可能性さえあるのです.

米国とその同盟諸国はアサド政権の崩壊を望んでいないことを明確に表明しており,そうした姿勢での軍事介入は,内戦を継続させるしか作用しないでしょう.そして,もはや軍事介入が西側諸国に残されたシリア問題解決のための唯一の手段であるとしたら,それはとりもなおさず,この地域においての西側諸国の政治力の破綻を意味するもの以外何者でもないでしょう.米国を始めとする西側諸国はシリア内戦を停止させ,その政治的解決のための機会を失ったのです.

以上,Die Spiegelの記事の抜粋でした.

次に,アルジェリアのフランス語主要紙のひとつEl Watanの8月30日付の記事"«Plusieurs responsables militaires et des soldats syriens ont fui»"から上記に関連している箇所をいくつか紹介します.

当該の記事は,元アラブ同盟シリア派遣団のメンバーの一人Anouar Malek氏にEl Watanの記者が行ったインタビューの内容を伝えるものです.

その中で,Malek氏は,アサド政権がイランやヒズボラに支援を要請した理由として政府軍の弱体化を挙げています.同氏は信頼出来る筋からの情報として,化学兵器が使用され,西側諸国の軍事介入が報道されて以降,多くの政府軍指揮官や兵士たちが兵営を脱出したと言います.これらの軍人たちの中には反政府軍に加わったものもいるそうです.また,記者からの「イラクやリビアにおける軍事介入後の混乱に懲りたアメリカはアサド大統領の失権を望んではいないものの,軍事介入により,こう着状態のジュネーブ国際平和会議(ジュネーブ2)を進展させようとしているという見方があるが,反体制の立場をより優位なものにできるか」という質問に対しては,もし軍事介入の目的がアサド政権の転覆でないとしたら,単なる西側諸国のジェスチャーに過ぎず,シリアの惨劇は継続するだろう.ジュネーブ2については,国際法を無視し,人権を踏みにじったアサド政権の参加無しに開催すべきと答えています.なお,軍事介入が行われた場合のハマスの反応について,次のように語っています.ハマスは,アサド政権に対して反対の立場を表明しているものの,現在エジプトで起きている混乱のため,シリアへの介入は行わないだろうと.

ところで,軍事介入の賛否を尋ねた各国の世論調査の結果は,AFP通信社の日本語版のサイトなどに詳しく伝えられていますが,8月29日付Le Mondeの記事"Syrie : des opinions publiques peu favorables à une intervention"でも紹介されていて,その中で興味深く思ったのが,支持政党から見た場合,極右と言われる国民戦線の支持者の81%は反対,また,政権与党のUMP支持者の60%も反対,唯一賛成が過半数を超えていたのが左派の支持者で,46%の反対に対し,賛成は54%だったそうです.何となくわからないことではない結果ですが.



*1) 実際は,"Gefahren warten nur auf jene, die nicht auf das Leben reagieren."というのが正しい模様です.Cf. http://en.wikiquote.org/wiki/Mikhail_Gorbachev

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