Monday, 26 August 2013

ノートル・ダム大聖堂にまつわる悪魔の伝説

毎年1,400万人もの人が訪れるパリのノートル・ダム大聖堂は,フランスでもっとも多くの人が訪れる建物です.キリストがかぶったいばらの冠や磔の際に打ち込まれた釘,そして十字架の木片などを一目みるために世界中から多くのカトリック信者も集まります.今年,850歳の誕生日を迎えた大聖堂では,清掃や改修工事が行われていますが,ちょっと変わったパリ案内のブログParis ZigZagを綴っているMichel Faul氏が,西側正面の三つのポータルとそれにまつわる悪魔の伝説を紹介します.(8月4日付L'EXPRESSのニュースレターの記事"850 ans de Notre-Dame de Paris: les légendes diaboliques de la cathédrale"より)


以下,簡単にビデオの内容をまとめました.

まず,Faul氏が最初に案内するのは,向かって右側に位置する聖アンヌのポータル.聖マルセルが一匹の竜を踏みつけている彫像があります.伝説によると,ある罪深い女がパリ近郊に埋葬されたのですが,彼女の墓から突然竜が飛び出し,パリの人を悩ませたそうです.しかし,聖マルセルが杖で竜を叩き,セーヌに身を投げるように命じたため,竜はそれに従い,それ以降姿を見せなくなったとのこと.

同じく聖アンヌのポータルにまつわる伝説です.木製の扉に精巧な鉄の細工が貼付けられていますが,伝説によると,この美しい細工を造るように命じられた見習いの職人は,自らの能力に自信がなかったため悪魔と契約を結びました.悪魔は一夜のうちにこれを完成させ,約束通り職人の魂を奪ったため,職人はベッドの上で死んでいたそうです.

次は,中央の最後の審判を表したポータル.中央の王座にキリストが座し,大天使ミカエルと悪魔が死者の魂の重さを秤にかけて計っています. 面白いことに,彼らの足下で小悪魔がなんとか地獄に引き込もうと秤の片側をひっぱっています.

そして,左(北)側の聖マリアのポータルです.ここには誘惑されるアダムとエバの彫像が見えますが,その間に一人の女性が顔を見せています.これは,ユダヤの密教カバラが伝える最初のエバ,世界中の魔物の母リリト(Lilith)*1)だそうです.つまり,聖書では蛇がエバを誘惑するのですが,ここでは蛇の代わりにリリトが彼女を誘惑しているわけです.

最後は,上方の王たちのギャラリーについてのお話.ここにはキリストの家系に属するユダヤの28王の彫像が据えられています.フランス革命の推進役サン・キュロットと呼ばれる人たちによってこれらの像の首は切り落とされたそうです.それは,彼らが,これらをフランスの王の像と勘違いしたためでした.

ところで,今回の修復工事には,パイプオルガンの12,000ものパイプの清掃や鐘楼の鐘の音の調整も含まれているそうですが,特に後者は,1769年当時の音色を復活させるために行われるそうです.




*1) アダムとエバが悪魔によって誘惑されるシーンでリリトが現れる彫像は,パリのノートルダム大聖堂の他にも,やはり世界遺産のアミアンの大聖堂の西側正面の中央ポータルに見ることができます.この,聖書には言及されていないアダムの最初の妻で後に魔性の母となる存在が,なぜ,このように各地の聖堂の壁を飾っているのか,その理由は判りません.聖化された女性の象徴としてのノートルダム(Our lady=聖母マリア)との対比として描かれているのでしょうか.また,バチカンのシスティーナ礼拝堂におけるミケランジェロ作の天井画のアダムとエバの堕落のシーンにも,やはり下半身が蛇のリリトのモチーフが現れます.

なお,リリトについては,Siegmund Hurwitz著"LILITH Die erste Eva Eine Studie über dunkle Aspekte des Weiblichen"などを参照ください.下の写真は大英博物館所蔵のリリトといわれるリリーフ.(紀元前1950年頃.シュメール出土.)その下がリリト除けのお守り.三人の天使(Sanvai, Sansanvai, Semanglof)の名前が表記されています.リリトは新生児を狙う(特に新月の夜に)ので妊婦の部屋などに置かれます.リリトは,また,女性解放運動のシンボルとしても用いられています.(例えば,こちらのサイトをご覧下さい.)

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