Wednesday, 28 August 2013

シリア - 軍事介入の法的枠組み

欧米諸国によるシリア内戦への軍事介入の可能性が日増しに高まってきていますが,その法的正当性が明確になっていません.最もすっきりするのが,国連の安全保障会議の決議が採択された場合ですが,ロシアによる反対によりその実現は期待出来ないというのが現状のようです.

国連の安全保障会議は,第二次世界大戦の終結以降,その決議によって世界における紛争の軍事力による解決に法的根拠を与えることができる唯一の国際機関です.(Cf. 国連憲章第7章第42項.)この決議には,15の理事国のうち9カ国以上の賛成と常任理事国による拒否権の発動がないことが必要です.常任理事国とは,中国,アメリカ合衆国,ロシア,フランス,そして英国のことです.

しかし,2011年の3月のシリアの内戦勃発以来,国際社会はその対応方針で一致を見ることはありませんでした.すでに,2011年10月5日,アサド政権に対して法的拘束力を持つ非難決議案に対しロシアと中国は拒否権を発動しましたが,その後,両国は2012年2月と7月にも同決議案に対し拒否権を発動しています.さらに,ロシアは26日の月曜日,安全保障会議の決議なしの軍事介入は危険な行為であり,国際法違反になりかねないと警告しています.このように,安全保障会議の決議が採択されることはまず考えられません.その場合,軍事介入に対して,どのような法的な枠組みが存在し得るでしょうか.

安全保障会議の決議無しに,国連の枠組みに留まりつつ軍事介入を実施出来る場合が二つほどあります.一つ目は,緊急国連総会を招集し,そこで当該の決議を行うというもの.過去の例としては,1950年,米国に率いられた21カ国による国連の名の下での朝鮮戦争への参戦を可能とした国連決議第377号があります.

二つ目ですが,国連憲章の第51条には,「この憲章のいかなる規定も、国際連合加盟国に対して武力攻撃が発生した場合には、安全保障理事会が国際の平和及び安全の維持に必要な措置をとるまでの間、 個別的又は集団的自衛の固有の権利を害するものではない。この自衛権の行使に当って加盟国がとった措置は、直ちに安全保障理事会に報告しなければならな い。また、この措置は、安全保障理事会が国際の平和及び安全の維持又は回復のために必要と認める行動をいつでもとるこの憲章に基く権能及び責任に対して は、いかなる影響も及ぼすものではない。」 と謳われています.ということは,少なくとも理論上は,例えばトルコ,あるいやイスラエルなどの隣国がシリア国境においてシリアの内戦に起因する何らかの被害を受けた場合,正当な集団的防衛措置を求めることができるわけです.ただ,この選択肢の実現は困難と外交筋はみているようです.

では,国連の枠外での軍事介入としては過去にどのような例があったかというと,1999年のコソボ紛争におけるNATOの軍事介入(スロボダン・ミロセヴィッチの軍に対するNATO軍の攻撃)が挙げられます.このとき,NATO軍の攻撃は安全保障会議の承認無しに実施されました.当時,アメリカの国務長官だったマドレーヌ・オルブライト氏は,”The NATO military intervention was illegal but legitimate",つまり,「NATOの軍事介入は違法だったが正当なものだった.」と述べています.この,コソボにおける軍事介入は,その後も例外的事実として引用されていて,2003年,アメリカのブッシュ政権はこれを根拠に国連の承認無しにイラク侵攻を行っています.そして,今回,問題となっているシリアへの軍事介入についても,国連において影響力のある人々はコソボの例を基にしてその可能性を探っています.

こうした,国連の枠外における軍事介入の選択肢は,"coalition of the willing"(「有志連合」とでも訳されるのでしょうか)と呼ばれ,有志の国々はフランス,英国やトルコなどの周辺国になりますが,例えばトルコはすでに国連の承認が無い場合でも有志連合による軍事介入に参加する意思を表明しています.

現在,国連の調査団がシリアで化学兵器が使用されたか否かの調査を行っていますが,すでにアメリカのケリー国務長官も,また,英国のハーグ外相もシリア政府軍が化学兵器を用いた事は疑い得無いと述べており,彼らにとって越されるべきではなかった一線がアサド大統領によって越された今は,すべての選択肢を検討の対象とする姿勢を見せています.なお,フランスのオランド大統領は,2005年に国連総会で定義された「民間人を守る責任」を引用し,その枠組みにおいて軍事介入は正当化できるのではないかと述べています.

以上,2013年8月27日付電子版Le Mondeの"Syrie : quel serait le cadre légal pourune intervention militaire ?"からでした.下の動画は,Le Mondeの編集長アラン・フラション氏の解説です.


Syrie : " Difficile d'imaginer qu'il n'y ait... 投稿者 lemondefr 

なお,上に紹介した内容と類似したものが,Die Weltの25日付の記事"Kosovo-Krieg soll Blaupause für Syrien-Schlag sein"においても述べられていました.また,関連記事としてやはりLe Mondeの28日付記事"Syrie : les Etats-Unis auraient intercepté des conversations "paniquées" de l'armée"も挙げておきます.

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