子供向けの教養番組のジェニウスですが,毎回,大人とっても,たいへんためになる内容を提供してくれます.
今回のテーマは,「原子力発電からの脱却 - その方法と課題」.ドイツやフランスにおける,再生可能エネルギーの現状と原子力発電から脱却するために解決しなければならない問題をリポートします.
X:enius(フランス語版)
X:enius(ドイツ語版)
(ドイツ, 2012年, 26分)
バイエルン放送制作
無料視聴可能期間:2012年11月7日08:28から1週間
以下,内容です.
ドイツは,国内のすべての原子力発電所を,遅くとも2022年までに停止させる決定をしました.一方,フランスでは,オランド大統領は,再生可能エネルギーに関心を示しているものの,原子力発電所については,稼働中のもので最も古いFessenheimの施設を2016年に停止させると表明しただけです.
ドイツ.
風力発電.現在,ドイツでは凡そ23000基もの風力発電機が稼働中であり,昨年だけでも900基が新たに設置されています.風力発電は,エネルギーシフトにおいて,中心的な役割を果たすものとして期待されている発電方式です.人口30万人のバイエルン州の町Eichenbühlでも,高さ200 mの最新型の機材の設置が計画されていて,予定された2013年に完成されると,そこから8000万世帯に電力の供給が可能になります.
ドイツは,最大の風力発電国であり,最高の発電効率を誇っています.そして,専門家達は,2020年には,この方法による発電量は二倍になると予測しています.
太陽光発電.風力に次いでに番目のクリーン電力源であり,その発電量は2010年から2011年にかけて50%もの増加を見ました.2020年には,消費される電力全体の3%を占めることになるだろうといわれています.この爆発的な増加は,発電設備の設置に対し認められている経済的な公的補助によるものですが,今年になって,この補助金が大幅に削減されることとなり,関係業者はとまどっています.
水力発電.この方法は,とりわけ,山岳地帯を有する南ドイツにおいて有効です.とはいっても,環境破壊につながるため,新たな発電施設を建設は事実上不可能です.そのため,次善の策として,稼働中の施設を改良し効率を高めたり,停止中のものを再稼働させることが検討されています.
バイオガス発電.昨年建設された1300もの施設も含め,今やドイツには,7000ものバイオガス発電所が存在しています.これらの施設の燃料として,大量のトウモロコシが栽培されるようになりましたが,多くの耕作地を必要とするため,他の植物の使用が検討されています.
このように,ドイツにおいては,さらに多くの電力を再生可能エネルギーから生産することが可能です.しかし,そのためには,政治および社会のそれを積極的に押し進める意思が必要です.
フランス.
現在,フランスの総電力量の78%は,原子力発電によって生産されています.原子力発電所の数も,ドイツの6倍にのぼります.オランド大統領は,大統領選挙の公約として,原子力発電の割合を2025年には25%にまで下げると言いました.しかし,グリーンピースフランスによると,フランス人のほとんどが,再生可能エネルギーは,原子力発電に比べて高価であると信じてしまっているため,彼らの意識を変えるのはむずかしいそうです.
水力発電.フランスでも水力発電は,有効な発電手段で,原子力に次ぐ電力源です.新たな施設の建設は,ドイツ同様,環境保護の視点から不可能ですが,全国におよそ2000ほどあるとされる,稼働中あるいは停止中の小規模な発電施設の設備を改良,停止中の場合は再稼働させるといった試みが,Green Energy Franceなどによって始められています.番組で取り上げられていたのは,Charente県のLa Chapelleという村にある古い水力発電施設ですが,売りに出されていたこの施設をGreen Energy Franceは買い取り,この冬から設備の改良を行うことにしています.改良後の発電量は現在の60 kwの6倍になり,600世帯への電力供給が可能になるといいます.改良の目玉といえるのは,現在のプロベラをアルキメデスのポンプによって置き換えること.後者は,前者に比べてゆっくりとした速度で回転するため,魚たちは,傷つくこと無く,それを通っての移動が可能となります.つまり,発電設備が魚道としても機能するわけです.こうした設備の設置にかかる費用の20%は,欧州連合によって補助されます.Green City Energy Franceによると,現存する同様の2000の発電施設に同様の改良が実施された場合,全国の消費電力の数パーセントを賄うことができるといいます.
風力発電.グリーンピースフランスによると,フランスは,風力発電においてもドイツに次ぐ潜在能力を持っていますが,特に有望な地域は南フランスです.
La Chapelleの発電施設も含め,Green Energy Franceは,地域住民の資金参加を提案していますが,ドイツは,現存のクリーン発電施設のうち,半数が民間資本によるものです.エネルギーシフトへの国民の参加においても,ドイツは先進国なのです.
エネルギーシフトの課題.
蓄電の問題.風力にしろ,太陽光にしろ,こういった再生可能エネルギーによる発電の弱みは天候に左右されるということ.言い換えれば,蓄電ができないということですが,この問題を解決できる唯一の方法が,揚水発電です.ドイツでは,すでに30もの揚水発電所が存在していますが,新たに建設する場合,人工湖を造らねばならないため,環境保護の視点から言うと問題がないわけではありません.また,揚水発電の施設が設置できたとしても,それによって全ての問題が解決するわけでもないのです.この問題を解決するため,蓄電池付きの冷蔵庫など,いろいろな選択肢が研究されています.
原子炉廃炉の問題.専門家へのインタービュー.
1. 6年ないし7年程度かけて燃料棒を冷却した上で搬送.
2. 放射能汚染の激しい圧力容器,蒸気発生器,汚染された冷却水等が流れる管類等を特別な施設に保管(ドイツでは,Gleifswald).
3. 建物の解体.残骸は,放射能レベルを下げるために他の廃棄物と混合し,最後は,道路建設等に用いられる.
すでに上記のプロセスにより,1995年には,Niederaichbachの重水炉の廃炉が実行されています.
送電の問題.蓄電の問題に加え,クリーンエネルギーの問題として指摘されるのは,ほとんどの場合,発電施設と使用者が離れているということです.例えば,風力発電のメッカ北海沿岸で生産される電力を南ドイツの工業地帯まで効率よく送電するために,送電会社は,その流れを管理システムによって制御しなければなりませんが,その作業量が,Tennet一社だけでも,2010から2011にかけて3倍に膨れ上がったそうです.送電の効率化には,あらたな送電網の整備が必要となりますが,それも地元住民の賛同を得るのは容易なことではありません.次善の策として,ガス発電所の建設も提案されたりしているようですが,天然ガスは高価なので,公的補助無しには無理のようです.
このように,果たして2020年迄に,ドイツは,完全にエネルギーシフトを成し遂げることができるのか,今のところ不透明な部分もありますが,面白いことに,ドイツが太陽光発電で生産した電力を,電力不足のフランスに輸出したことがあるそうです.特に寒さが激しい冬だったようですが.(La Tribuneの記事参照.)
以上が,番組の内容ですが,手元の"ATLAS der GLOBALISIERUNG"(グロバリゼーションの地図)*1)という本の92ページから99ページにも関連する情報が載っています.うらやましいと思うのは,適切な送電システムを整備することができれば,将来,ヨーロッパ全域において,相互補完することで電力における自立が可能になりうるということです.*2)
*1) Barbara Bauer, Dietmar Bartz et al., 2010年, taz Verlags- und Vertriebs GmbH, Berlin(オリジナルは,フランス語.)
*2) ibid. pp94f
今回のテーマは,「原子力発電からの脱却 - その方法と課題」.ドイツやフランスにおける,再生可能エネルギーの現状と原子力発電から脱却するために解決しなければならない問題をリポートします.
X:enius(フランス語版)
X:enius(ドイツ語版)
(ドイツ, 2012年, 26分)
バイエルン放送制作
無料視聴可能期間:2012年11月7日08:28から1週間
以下,内容です.
ドイツは,国内のすべての原子力発電所を,遅くとも2022年までに停止させる決定をしました.一方,フランスでは,オランド大統領は,再生可能エネルギーに関心を示しているものの,原子力発電所については,稼働中のもので最も古いFessenheimの施設を2016年に停止させると表明しただけです.
ドイツ.
風力発電.現在,ドイツでは凡そ23000基もの風力発電機が稼働中であり,昨年だけでも900基が新たに設置されています.風力発電は,エネルギーシフトにおいて,中心的な役割を果たすものとして期待されている発電方式です.人口30万人のバイエルン州の町Eichenbühlでも,高さ200 mの最新型の機材の設置が計画されていて,予定された2013年に完成されると,そこから8000万世帯に電力の供給が可能になります.
ドイツは,最大の風力発電国であり,最高の発電効率を誇っています.そして,専門家達は,2020年には,この方法による発電量は二倍になると予測しています.
太陽光発電.風力に次いでに番目のクリーン電力源であり,その発電量は2010年から2011年にかけて50%もの増加を見ました.2020年には,消費される電力全体の3%を占めることになるだろうといわれています.この爆発的な増加は,発電設備の設置に対し認められている経済的な公的補助によるものですが,今年になって,この補助金が大幅に削減されることとなり,関係業者はとまどっています.
水力発電.この方法は,とりわけ,山岳地帯を有する南ドイツにおいて有効です.とはいっても,環境破壊につながるため,新たな発電施設を建設は事実上不可能です.そのため,次善の策として,稼働中の施設を改良し効率を高めたり,停止中のものを再稼働させることが検討されています.
バイオガス発電.昨年建設された1300もの施設も含め,今やドイツには,7000ものバイオガス発電所が存在しています.これらの施設の燃料として,大量のトウモロコシが栽培されるようになりましたが,多くの耕作地を必要とするため,他の植物の使用が検討されています.
このように,ドイツにおいては,さらに多くの電力を再生可能エネルギーから生産することが可能です.しかし,そのためには,政治および社会のそれを積極的に押し進める意思が必要です.
フランス.
現在,フランスの総電力量の78%は,原子力発電によって生産されています.原子力発電所の数も,ドイツの6倍にのぼります.オランド大統領は,大統領選挙の公約として,原子力発電の割合を2025年には25%にまで下げると言いました.しかし,グリーンピースフランスによると,フランス人のほとんどが,再生可能エネルギーは,原子力発電に比べて高価であると信じてしまっているため,彼らの意識を変えるのはむずかしいそうです.
水力発電.フランスでも水力発電は,有効な発電手段で,原子力に次ぐ電力源です.新たな施設の建設は,ドイツ同様,環境保護の視点から不可能ですが,全国におよそ2000ほどあるとされる,稼働中あるいは停止中の小規模な発電施設の設備を改良,停止中の場合は再稼働させるといった試みが,Green Energy Franceなどによって始められています.番組で取り上げられていたのは,Charente県のLa Chapelleという村にある古い水力発電施設ですが,売りに出されていたこの施設をGreen Energy Franceは買い取り,この冬から設備の改良を行うことにしています.改良後の発電量は現在の60 kwの6倍になり,600世帯への電力供給が可能になるといいます.改良の目玉といえるのは,現在のプロベラをアルキメデスのポンプによって置き換えること.後者は,前者に比べてゆっくりとした速度で回転するため,魚たちは,傷つくこと無く,それを通っての移動が可能となります.つまり,発電設備が魚道としても機能するわけです.こうした設備の設置にかかる費用の20%は,欧州連合によって補助されます.Green City Energy Franceによると,現存する同様の2000の発電施設に同様の改良が実施された場合,全国の消費電力の数パーセントを賄うことができるといいます.
風力発電.グリーンピースフランスによると,フランスは,風力発電においてもドイツに次ぐ潜在能力を持っていますが,特に有望な地域は南フランスです.
La Chapelleの発電施設も含め,Green Energy Franceは,地域住民の資金参加を提案していますが,ドイツは,現存のクリーン発電施設のうち,半数が民間資本によるものです.エネルギーシフトへの国民の参加においても,ドイツは先進国なのです.
エネルギーシフトの課題.
蓄電の問題.風力にしろ,太陽光にしろ,こういった再生可能エネルギーによる発電の弱みは天候に左右されるということ.言い換えれば,蓄電ができないということですが,この問題を解決できる唯一の方法が,揚水発電です.ドイツでは,すでに30もの揚水発電所が存在していますが,新たに建設する場合,人工湖を造らねばならないため,環境保護の視点から言うと問題がないわけではありません.また,揚水発電の施設が設置できたとしても,それによって全ての問題が解決するわけでもないのです.この問題を解決するため,蓄電池付きの冷蔵庫など,いろいろな選択肢が研究されています.
原子炉廃炉の問題.専門家へのインタービュー.
1. 6年ないし7年程度かけて燃料棒を冷却した上で搬送.
2. 放射能汚染の激しい圧力容器,蒸気発生器,汚染された冷却水等が流れる管類等を特別な施設に保管(ドイツでは,Gleifswald).
3. 建物の解体.残骸は,放射能レベルを下げるために他の廃棄物と混合し,最後は,道路建設等に用いられる.
すでに上記のプロセスにより,1995年には,Niederaichbachの重水炉の廃炉が実行されています.
送電の問題.蓄電の問題に加え,クリーンエネルギーの問題として指摘されるのは,ほとんどの場合,発電施設と使用者が離れているということです.例えば,風力発電のメッカ北海沿岸で生産される電力を南ドイツの工業地帯まで効率よく送電するために,送電会社は,その流れを管理システムによって制御しなければなりませんが,その作業量が,Tennet一社だけでも,2010から2011にかけて3倍に膨れ上がったそうです.送電の効率化には,あらたな送電網の整備が必要となりますが,それも地元住民の賛同を得るのは容易なことではありません.次善の策として,ガス発電所の建設も提案されたりしているようですが,天然ガスは高価なので,公的補助無しには無理のようです.
このように,果たして2020年迄に,ドイツは,完全にエネルギーシフトを成し遂げることができるのか,今のところ不透明な部分もありますが,面白いことに,ドイツが太陽光発電で生産した電力を,電力不足のフランスに輸出したことがあるそうです.特に寒さが激しい冬だったようですが.(La Tribuneの記事参照.)
以上が,番組の内容ですが,手元の"ATLAS der GLOBALISIERUNG"(グロバリゼーションの地図)*1)という本の92ページから99ページにも関連する情報が載っています.うらやましいと思うのは,適切な送電システムを整備することができれば,将来,ヨーロッパ全域において,相互補完することで電力における自立が可能になりうるということです.*2)
番組とは関係ありませんが,昨年の夏,北海沿岸のドイツの町Husumを訪れた際,ホテルの部屋から写した写真です. |
*1) Barbara Bauer, Dietmar Bartz et al., 2010年, taz Verlags- und Vertriebs GmbH, Berlin(オリジナルは,フランス語.)
*2) ibid. pp94f
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