Friday 5 October 2012

アルザス小紀行 - 博物館の町ミュルーズ

今回の旅行の目的の一つは,ミュルーズ(Mulhouse)の鉄道博物館で開催される国際模型サロン*1)を訪れることでした.(なお,サロンの様子は,次回の鉄道博物館についてのポストの中で報告します.)

9月29日,パリ近郊のアレキサンドル・デュマの館(Le Château de Monte-Cristo)を訪れた後,夕刻,パリ・リヨン駅からTGVリリア号に乗りミュルーズへ向かいました.久しぶりに訪れるアルザスには,一年ほど留学したことがあるため,どことなく懐かしさを覚えます.地元の人曰く,このあたりの人たちは概して日本人などの北東アジア人や東南アジア人に親しみを持っているとのこと,実際,歩いているとそれを肌で感じます.以前,日本のインターナショナルスクールで教師をされていたフランス人の方から,フランス人は皆お高くとまっていて,つんつんしているといったことを伺いましたが,アルザス以外でも(特に私の場合,いかにも土地不案内の旅行者でございといったように,しばしば街中に立ち止まって地図とにらめっこしているせいかもしれませんが),道に迷った場合などは,パリも含め,地元の人から声をかけられて助けていただくことがよくあります.そんな経験を思い出すと,あながちフランス人は皆つんつんしているとは思えません.(場合によっては,英語で話しかけられることもあります.) ただ,確かに土地による差異はあるかも知れません.ドイツなどでも,北方の人たちは排他的というイメージを抱きがちですが,以前,作家シュトルムの故郷フーズムを訪れたとき,地元の人たちから本当に親切にしていただきました.(道を教えていただいたことはもちろん,どしゃぶりの中を歩いていると,目の前に自動車が止まり,ずぶぬれの私を駅まで乗せていってくださった方もいました.ときには,町のスーパーで地元のご婦人からおいしいバナナの種類を教えていただいたことも.)

さて,チューリヒ行きTGVリリア9223列車はミュルーズに21:06に到着.いつものように道に迷いながらも,何とか10時前に市内のブリストルホテルにたどり着くことができました.TGVの車内でふと予約確認書を眺めると「この部屋はスイートルームです.」との記載があることに気づきましたが,日本のビジネスホテル並みの料金で泊まれるスイートルームなんてあるわけがない,記載ミスだろうとたかをくくっていったところ,割り当てられた303号室は,大きな植木が飾られた広い浴室を含め三部屋が連なるまごうかたなきスイートルーム.こんなこともあるのだと少々あっけにとられたものの,おかげで二泊,かなり贅沢な滞在ができました.チェックインを担当してくれたのは大女将だったようで,観光地図を広げ,てきぱきと見所を教えてくれました.客層はというと,ドイツ語圏からの団体客が多く,エレベーターの中などでの挨拶はおしなべてドイツ語でした.もっとも,アルザスという土地柄,別に違和感はありませんが.(昔,ストラスブールに住んでいたとき,街中でも,よくドイツ語で話しかけられたことがあったもので.)

翌日,久しぶりにありつけたトーストパンとアルザス名産のチーズなどで朝食を済ませ,早速,お目当ての鉄道博物館へ.大女将からのレクチャーで市電を使って行くことはわかっていたのですが,土地柄日曜日の公共交通機関は使い勝手が相当悪くなることを忘れていて,ホテルの最寄の停留所で黄色いモスラ形の低床式路面電車の撮影に熱中していたところ,乗るべき電車に乗りそこねてしまいました.次の電車が来るのは一時間後.仕方がないので,とりあえず博物館目指して歩き始めましたが,少し歩いたところで広い歩道に設けられた公共レンタルサイクルのスタンドで一組の若いカップルが自転車を借りているところに遭遇し,この手があったと,早速挑戦.めでたく一台を借受けることに成功し,冷たい風を受けながらペダルを漕ぎ続け,開館時間の10時を少し過ぎたところで到着することができました.

老若男女が多数詰め掛けている鉄道博物館を後にしたのは,午後2時ごろだっと思いますが,再び自転車にまたがり,今朝,借りたスタンドに返した後,今度は徒歩で旧市街にある美術館へと向かいました. 入場料無料で閑散とした館内でしたが,展示作品中,特にWilliam BouguereauによるFlore et Zéphyr, 1905と,その反対側,向かい合う形で展示されているHirsch AlexandreによるSamuel ouvrant la porte du Templeが特に印象に残りました.そのほか,アルザス地方がドイツに占領された際の状況を描いた絵画など,なかなか見ごたえのある作品と出会うことができました.

その日の夜は,聖マリア教会で催されたミュルーズ少年合唱団とコルマール少女合唱団のジョイントコンサートを聴きに行きました.入場料無料でしたが,先日,聴いたウィーン少年合唱団のコンサートに比べても決して遜色がない見事な歌唱力で,特に男性合唱のみによるヘンデルのメサイアのハレルヤコーラスは迫力と清廉さを併せ持った素晴らしいものでした.ミュルーズ少年合唱団のサイトはこちら.とりあえず,クリスマス音楽のCDをお土産に求めましたが,クリスマスの雰囲気を最高に盛り上げること間違いなしです.*2)

翌日は,市電とバスを乗り継ぎ,近郊のRixheimの壁紙博物館を訪れました.ホテルで頂いた観光地図には,何故かこの博物館だけ《必見》(must see)と書かれてありましたが,その割には,そこまで行くバスは1時間に一本で,おまけに当の博物館もたっぷり2時間の昼休みをとるため,下手をするとその見学も一日仕事になりかねないという,少々末恐ろしい博物館です.でも,確かに必見といわれるだけのことはある展示内容であると感じました.博物館は村役場の建物の中にあり,工事中のため,中庭に面した普段の出入り口が閉鎖されていて,一時的に設けられた出入り口がどこかわからずまごまごしていると,工事関係者の方が丁寧に出入り口の場所を教えてくださいました.受付では学校の教師風の女性の担当者から,来たからにはしっかり見て行っていただきますといった口調で見学の順序等に関する説明があり,それに従って見て回りました.特に,壁紙の歴史やその印刷技術の進歩に関するビデオはとても分かりやすく丁寧につくられていました.Rixheimは壁紙の生産地として有名で,1797年から壁紙が作られているそうです.一時期は500名もの職人が働いていたそうですが,今ではわずか数名にまでその数は減少してしまいました.それでも,彼らは200年にも及ぶ伝統の技を守り続けています.展示の中で特に目を惹かれたのは,世界各地の風景が描かれたパノラマ壁紙(Scenic Wallpaper)と呼ばれるもので,19世紀,金持ちや上流階級の家のサロンなどを飾ったそうです.日本の銭湯の壁絵のより精巧なものといっては,両方に対し失礼でしょうか.日本の家屋の場合,部屋を仕切るのは襖や障子のため,西洋のような壁紙は需要はありませんでしたが,襖絵や屏風絵が発達したことを思い出しました.

上述した鉄道博物館(Cité du Train)や美術館(Musée des Beaux-Arts)のほか,ミュルーズには,下記の博物館が存在します.詳しくは,www.musees-mulhouse.frをご覧ください.

  • 歴史博物館
  • 自動車博物館
  • 電気博物館
  • 布地印刷博物館
  • 布地エコロジー博物館
  • アルザス・エコロジー博物館

鉄道博物館からの帰り道で見つけた自転車用の信号
市内のあちこちにある公共レンタルサイクルのスタンド
旧市街の聖エチエンヌ教会の脇にも
週末に開かれたミュルーズ少年合唱団とコルマール少女合唱団のジョイントコンサートのチラシ
コンサートのプログラム
会場の教会は超満員
男声合唱団 ハレルヤコーラスが素晴らしかった.
二つの合唱団の息もぴったり 途中の短い休憩のときの様子
壁紙博物館が入っている村役場の入り口
役場の中庭
市電3路線が走るミュルーズの街
黄色いモスラ形低床式車輌
後ろにそびえるのは,ヨーロッパタワー 最上階の展望台にはレストランがある.
 
投宿したホテルブリストル チェックアウトのときに見送ってくれたのは若女将らしい女性 ブレザーを着ていたため,出張かなにかで訪れたものと思ったらしく,今度はゆっくり観光でいらして下さいと笑顔でいってくれた.


*1) LE SALON INTERNATINAL DU MODELISME 9月29日,30日の週末に開催された.
*2) 合唱団のサイトのCONTACTからBOUTIQUEを選ぶとCDのリストが表示されるが,オンラインの注文はできなさそう.

No comments:

Post a Comment