Saturday, 27 October 2012

フランケン小紀行 - ニュールンベルグの公共交通から見えたもの

ニュールンベルグでは,只今,生姜パンマーケット(Lebkuchenmarkt, Gingerbread Market)なる催しが開かれているそうです.(11月5日迄)  開催場所のDie Lorenzkirche am Wetterhäuschenには,生姜パンやホットチョコレートなどを売るブースのほか,実際に生姜パンを焼くことができる体験コーナーも設けられていて,ヘンデルとグレーテルのお話に登場するお菓子の家や魔女,そしてヘンデルやグレーテルの人形などが訪れる人を出迎えているとのこと.詳しくは,こちらから.(ドイツ語のみ)

ヘンデルとグレーテルの物語は,ドイツでは,よくクリスマスの時期にテレビで放送されますが,このたびは,時期的に少々早い登場のようです.そういえば,グリム兄弟の博物館がKasselにありますが,今年は,グリム兄弟が編集した"Kinder- Hausmärchen"が出版されてから200年ということで,それに因んだ特別な展示が行われているようです.詳しくは,こちらから.(ドイツ語のみ)

ところで,先日,ニュールンベルグを訪れた際,折角来たのだから,滞在中に少なくとも一回ぐらいは,土地の料理が味わえるレストランで夕食をとりたいものと,Bayern-online.deで見つけたLutzgartenというお店に行くことにしました.宿泊したホテルが市心から少し離れたところに位置していたため,バスや地下鉄を乗り継いで行ったのですが,着いてみるとこちらも町中から離れた静かな住宅街にありました.創業1705年ということで,どれほど古い造りの家なのだろうと,興味津々でドアを開け,入ってみると,確かに古そうではありましたが,ラジオから流れてくると思われるD-Popらしい音楽のためか,際立って古めかしいとう雰囲気はありませんでした.

表に立っている看板に書かれた今日のお薦め料理をひととおり眺め,ある程度的をしぼっていたのですが,結局,スターターとして,体が温まりそうな,カボチャのクリームスープ,メインには,牛肉のブラムとわさびのソースかけ,ジャガイモのソテー添えなる一品を注文.両方とも中々のお味で十分満足できました.

ヨーロッにおいて,市中に出るのにバスか電車を使う必要があるホテルに泊まった場合はもちろんですが,中に位置しているホテルに滞在しも公共交通機関を使う機会はないわけではありません.例えば,上述したレストランに出かけるためには,ホテル前のバス停から乗ったバスでニュールンベルグ中央駅まで行き,そこで地下鉄に乗り換え,下車した駅からさらにバスに乗る必要がありました.ここで,気がついたのは,これらの公共交通機関の乗車券仕組みです.日本なら,例えば,私が住んでいる横浜の場合,こうした経路で移動した場合,それぞれの交通機関を乗る際に乗車券を購入する必要があります.つまり,3枚の乗車券を購入する必要があるわけです.しかし,ニュールンベルグでは,たった一枚.最初のバスに乗る際,運転手に行き先,または移動範囲(この場合は,Stufe A)と片道か往復かを申告して購入した乗車券のみで,次に地下鉄,そして最後にまたバスと乗り継ぎ最終目的地迄行くことが出来るのです.これは,以前に訪れたウィーンや,ミュルーズでも同様で,考えてみれば,パリも同様のシステムです.ようするに市内や近郊へ移動する際に使える公共交通機関がすべて統一された運賃制度に従っているわけです. こうした仕組みは,我々外国人旅行者にとって実に便利です.ということは,もちろん地元の人たちにとってみても便利であることは論をまたないでしょう.おまけに,これらの乗車券は,ドイツ鉄道の駅の券売機,ニュールンベルグ市営地下鉄の駅の券売機,そして,市営バスの運転手のいずれからでも購入することができるのです.また,駅の券売機ではクレジットカードが使えることはもちろん,英語を始め,フランス語,スペイン語などヨーロッパの主要な言語で操作が可能です.まさにいたれりつくせり.さらに便利と感じたのは,れに加えて一日乗車券,二日乗車券といったお得な乗車券も多数用意されていること.以前,ルネサンス様式の荘厳なお城で有名なアシャッフェンブルグ(Aschaffenburg)*1)という町を訪れたとき,やはり町外れのホテルに宿泊しましたが,そこから町中へ出る際に乗ったバス内で乗車券を購入する際,片道を求めたのですが,今日中にここに戻るのであれば,一日乗車券を購入した方が得だからそちらを買いなさいと運転手さんからいわれ,一日乗車券を購入したことがありました.なお,念のために付け加えますと,私の知る限り,私鉄も,ほとんどの場合,こうした統一された運賃体系の中に組み入れられています.こうした,統合的な運賃制度のみならず,だれでもが利用しやすい車両やインフラ,そして自動車の市内乗り入れ制限や公共貸自転車の提供なども含めた都市全体の交通システムは,利用者にとって便利であることはもちろん,環境保護においても好ましい効果をもたらすことは間違いなさそうです.*2)

マイン川畔に聳えるアシャフェンブルグの城.昨年の夏訪れた折に.

日本で,例えば首都圏ではPASMO,SuicaといったICカード乗車券がJRや民鉄各社から提供されていてどちらか一枚持っていればいちいち乗車券を購入することなく,電車やバスに乗ることができます.しかし,この仕組みは外国人観光客にとって,便利といえるものか,大いに疑問があります.まず,これらのICカードを購入する際には,数百円の保証金を払わなければなりませんし,チャージする手間もかかります.そして,払い戻しの手続きなどもわずわらしいものです.しかも,払い戻しの際,保証金はそのまま返金されますが,チャージ残額のうち210円は,払い戻し手数料として徴収されてしまいます.恐らく,ほとんどの外国人旅行者は,こうした,煩雑な手続きを必要とする乗車券を購入することはないとは思いますが,となると,やはり現行の運賃制度は,少なくともヨーロッパのものと比較した場合,外国人旅行者にとって極めて使い勝手が悪く,不親切といわざるを得ません.日本では,個々の利用者の利益より,個々の利益共同体がそれぞれの取り分をもれなく受け取ることが優先されてしまうという社会構造の顕著な例のひとつといえるでしょう.2012年から2013年へ向けての国別ブランド指標リポート*3)のなかで,日本は,観光の分野においてフランス(3位)やスイス(4位)を抜いて2位だったのに残念です.と申しますか,こうした状態でどうして2位になれるのだろうと首を傾げてしまいます.なお,日本において,ヨーロッパのような消費税の分野別税率の設定ができないのも,個々の利益共同体が,他の利益共同体に比べて不利益を被る制度には承服できないからであり,そうした主張を止揚することができる理念や制度構築することが日本人にはできないからなのでしょう.

ニュールンベルグでも見かけた公共レンタルサイクル(Norisbike)のスタンド.夕食のため訪れたレストランからの帰り,バスから地下鉄に乗り換えた駅で.


*1)  ニュールンベルグは,ミッテル・フランケン郡(あるいは県)に属し,アシャフェンブルグは,ウンター・フランケンに属します.両方ともバイエルン州の都市です.なお,ドイツやスイスなどの地名で,ウンター,オーバーといった言葉が付される場合,ウンターは,その地方が,ある川の下流部に位置していることを,そして,オーバーは,同じく上流部に位置していることを意味します.フランケン地方の場合,マイン川部,あるいは下流部ということです.また,ニュールンベルグが属するミッテル・フランケンは,その中間部という意味です.(地図を見ると,下に位置していますが.) 
*2) 今年の9月24日付シュピーゲル誌の電子版"Deutschlands Luft wird besser"によると,1990年から2010年までの間に,ドイツにおける大気の汚染状況は飛躍的に改善したそうです.例えば,硫黄化合物は,91.5%,また,一酸化炭素は,73.1%減少しています.
*3) Country Brand Index (100%信頼できるものかどうか判りませんが,それなりの説得力があり,かなり参考になります.)

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