Friday 19 October 2012

アメリカ軍兵士の凶悪性犯罪増加(続き)

更新記録:
・2012.11.11 - 脚注*2)を追加しました.

さらに気になったので,もう少し標記の問題についてウェブ上で公開されている情報を探してみました.

そして,見つけたのが,"Bulletin of Atomic Scientists"*1)に記載された文化人類学者のHugh Gusterson氏による2009年3月10日付けの記事“Empire of bases"でした.同氏によると,現在,世界中に存在する米軍の基地の総数は,軍の公表では865ですが,イラクやアフガニスタン所在のものも含めれば,1000を超えるそうです.これは,世界の自国の領土以外の場所に置かれた軍事基地の95%に相当し,ケチャップと云えばハインツというように,軍事基地といえばアメリカといえる状況なのだそうです.過去において,ヨーロッパの植民地化の方法と云えば,植民地として支配する国を完全に従属させ,統治するというものでしたが,アメリカが世界を《植民地化》のために採用した方法と云えば,海外基地を用いるというものでした.しかし,この方法は,費用が非常に高くつきます.世界中に所有している基地を維持するために,米国は毎年1020億ドルを支出しています.しかも,この額には,イランやアフガニスタンにおける基地の維持費用は含まれていません.そして,現在,米国はドイツに227*2)もの基地を所有していますが,この数は,冷戦時代には意味がありましたが,冷戦の終結後の今日の不安定地域といえば,アジア,アフリカ,そして中東であり,もはやそれらをそのまま維持する意味はなくなっているのです.

この後,Gusterson氏は,こうした基地の維持費用削減のための政府の取り組みや,議員たちの提案を紹介していますが,それでも,彼らにとって,このように世界中にアメリカ軍基地が存在することは極めて自然なことであり,疑問を持つといったことありません.しかしながら,アメリカ国内において,アメリカ軍の海外基地の問題への関心も高まっていることも事実であり,Gusterson氏は,この問題を扱った以下の三冊の書物を紹介しています.
  • Catherine Lutz著『Bases of Empire』, NYU Press
  • Kate McCaffrey著『Military Power and Popular Protest』, Rutgers University Press
  • David Vine著『Island of Shame』, Princeton University Press
最初の『Bases...』は,米軍基地の問題を調べている研究者や,基地に反対の立場を表明している活動家たちの意見を紹介していて,二冊目の『Military...』は,プエリト・リコのViequesというところにある米軍基地についての調査報告で,当該の基地が地域住民による抗議活動の結果閉鎖に追い込まれた経緯等について述べています.そして,最後の『Island of Shame』は,米国と英国の密約により,Diego Garcia島を丸ごと軍事基地にすべく,そこに暮らすChagossianという先住民族がモーリシャスおよびセイシェルに移送されたこと,また,彼らが飼っていた犬がすべて米軍によりガスで殺されたこと,彼らが受けた被害について米国や英国で訴訟を起こしたことを記しています.Chagossianたちは,現在,欧州人権裁判所にも訴訟を起こしています.

米軍の海外基地が,現地にもたらす主な問題といえば,基地から出される有害廃棄物による環境汚染や地域住民に対する犯罪行為です.前者について云えば,例えば,ガム島では,そうした有害廃棄物による環境汚染により,19を下らない場所がスーパーファンド法*3)の適用地域となりました.こうした状況は,当然,地元住民の反感,場合によっては,全住民による反基地運動まで発展します.実際,『Military... 』の中で取り上げられているViesques基地は,そうした状況をつくり出しました.そこでは,年間180日間にも及ぶ実弾を使った爆撃演習が行われた結果,2003年,基地が閉鎖された時点において,そこには爆弾の残骸や不発弾,劣化ウラン弾,重金属,潤滑油などの油類,溶剤,酸性物質などが廃棄されていて,地元の反対運動に携わる人によると,Viequesの住民のガンの発生率は,プエリト・リコの他の地域に住む人のそれに比べると30%も高いといいます.

そして,米兵による地域住民に対する犯罪行為については,米国政府が,犯人たちが基地が置かれた国の司法機関に起訴されることを望まないことで,地元住民の反感はいやがおうにも増幅します.2002年,韓国において,二人の10代の女性が米兵によって殺害されました.それは,1967年から2002に発生した52000件もの米兵による犯罪の一つでしたが,犯人の二人の米兵は,さっさと本国に戻ってしまい,韓国の司法当局による起訴を免れてしまったのです.

こうして高まった地域住民の反感により,最近では,エクアドル,プエルト・リコ,キルギスタンにおける米軍基地が閉鎖に追い込まれましたが,こうした状況は,今後,さらに増えることが考えられます.そして,Gusterson氏は,最後に,今後50年の間に世界において,海外の軍事基地は,過去50年において植民地がその正当性を失ったと同じ道をたどることになるだろうと結んでいます.

以上,一部割愛して要点をまとめてみました.



*1) アメリカにおいて核兵器の開発のためのマンハッタン計画に参加した物理学者たちによって始められた.原子力の利用に関する問題や核兵器などの大量破壊兵器の脅威,さらにそれら以外の,人類を取り巻く問題について一般市民に情報提供や提言を行っている.(詳しくは,Wikipediaなどでご確認ください.)

*2) Global securityのサイトによると,現在,ドイツに存在する米軍基地の数は,訓練施設等も含め117程度のようです.
*3) 米国の環境法規の1つで,過去の土壌汚染に関わる広範囲の関係者に,対策修復コストの負担を求める法律.(cf. http://www.exbuzzwords.com/static/keyword_218.html)

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