Sunday 4 November 2012

ARTE+7おすすめ番組 "リポルタージュ - 米国の学生債務のバブル/オハイオ州,最大の関心は経済"

 米国の学生債務のバブル
 2011年秋,アメリカ連邦準備制度理事会(FRB)は,米国における全学生の債務が,1兆ドルを超えたと発表しました.これは,クレジットカード債務を上回る額ですが,10年を経ないで2倍になったというのです.この発表を受けて,今年の大統領選挙では,両候補とも年々高額となり続ける高等教育費の問題を取り上げざるを得なくなりました.

ARTEの取材班は,《高等教育のシリコンバレー》と呼ばれるアリゾナ州のフェニックスを訪れました.そこには,学生数72000人という米国最大の公立大学アリゾナ州立大学(Arizona State University)とやはり米国最大の私立大学フェニックス大学(University of Phoenix)がありますが,後者は,近年,学生たちに多額の債務を強いているという批判を受けています.そして,全米で学生の債務額が最大なのもこの州なのです.

番組では,債務を返済したくても,思うような就職ができないのではと不安がる現役の学生や債務を返済できずに集金代行業者に追われる卒業生へのインタビューを通じて,崩壊すれば,サブプライムローンの破綻時を上回る被害をもたらしかねないとも言われる,学生債務のバブルの根本的な原因を明らかにします.

オハイオ州,最大の関心は経済
大統領選において,"Swing states" と呼ばれる州のうち,もっとも決定的な役割を持つといわれるオハイオ州は,人口1200万人.アメリカの政治のバロメーターと言われ,過去50年にわたり,オハイオ州で勝利した候補者が必ず大統領に選出されてきました.

両候補にとって,重要な意味を持つオハイオ州の住民の最大の関心事は,なんといっても経済.2008年末の州の失業率は,7%を超え,リーマンブラザーズの破産のあおりを受けた2010年1月には,12%近くまで上昇しました.同時に,多くの製鉄所や自動車工場が閉鎖に追い込まれています.

とはいえ,少し前から経済の復活の兆しも見え始めました.それは,比較的安価なエネルギー源として様々な工業分野に恩恵をもたらすシェールガスの採掘によるものと言われます.このように,工業地帯であるオハイオでの勝利の鍵は,健康改革でも環境保護でもなく,エネルギーと自動車工業についての政策なのです.

ARTE Reportage(フランス語版)
ARTE Reportage(ドイツ語版)

(フランス,2012年,52分)
ARTE制作
 
無料視聴可能期間:2012年11月3日18:38より1週間

番組を視てわかったこと:
米国の学生債務のバブル
まず,番組内で紹介された数字で印象に残ったものをお伝えします.その一,現在,アメリカの若者で大学卒業時に就職が決まっている人の割合は,全体の13%.そのニ,大学教育を受けた人とそうでない人の生涯受け取る給与の差は,100万ドル.その三,学生が借りるローンの利率は,年率6.8から7.9%.その四,学生ローンが返済できない学生の割合は,全米で6から9%.取材地のアリゾナ州では,実に15%にのぼるとのことでした.

学生ローンには連邦政府から借りられるもの,州政府から借りられるもの,そして民間の金融機関から借りられるものがありますが,それらの支払いの免除はいかなる場合にも認められないという法律が,1996年,銀行のロビー活動によって国会において承認されたこことにより,銀行にとってみれば,学生ローンは,他のローンに比べてリスクが少ないローンなのです.今日,銀行は,かつて持ち家を望む人々にサブプライムローンを組ませたように,学生たちにできるだけ多額の学生ローンを利用させようとしています.

現在,共和党国会議員の大多数は,連邦政府の学生ローンの利率を現行の二倍に引き上げることに賛成しています.そして,学生ローンの肥大化の対策として,共和党のロムニー候補は,金融機関より家族などから借りることを奨励する程度であるのに対し,オバマ大統領は,利率の引き上げに反対の意を示し,さらに奨学金のための予算も増やす意向を表明しています.そのため,学生たちは,どちらかというと後者の支持に回る人が多いとのことです.

番組では,最先端の情報通信技術を駆使した教育を行っている私立のフェニックス大学も取材していますが,この大学については,学生の債務問題に取り組んでいる民主党のTom Harkin上院議員が提出したリポート*1)に,その予算の収入源についての調査結果が記載されています.それによると,同大学の予算は,2010年にはおよそ40億ドルに達しましたが,その89%が国の奨学金や州の学生ローン,つまり公的資金であり,その1/4,10億ドルが,フェニックス大学の親会社Apollo Group, Incの投資家たちに配当金として支払われたそうです.公的資金の使い途として少々問題があるのではということのようです.

Tom Harkin上院議員のサイト

オキュパイウォールストリート運動の参加者の中には,こうした学生ローンの債務に苦しむ人もいるそうです.

オハイオ州,最大の関心は経済
オハイオ州は,その社会や人口構成から,アメリカの縮図といえるそうで,その意味で,ここでの勝敗がそのまま大統領選の勝敗になるのもうなづけます.この州は,また,地下に豊富なシェールガスや原油を有していますが,今や,それこそが,オハイオを貧困から救う打ち出の小槌というわけです.しかし,こうした天然資源の採掘には,水圧破砕(hydraulic fracturing)という手法が使われますが,この手法は,鉄鉱石や石炭の採掘による環境汚染を経験しているこの地域における新たな環境汚染を招くと危惧する人たちも少数ながらいます.もともとオハイオ州は,有害廃棄物の処理に関する法律(州法)が全米中もっとも緩い州のひとつであり,そのため,例えば規制が厳しいペンシルバニア州などから放射性廃棄物やその他の有害廃棄物がわざわざオハイオ州まで運ばれ,地下水脈に注入放棄されるそうです.こうした法環境において,シェールガスなどを採掘した場合の残土が新たな環境汚染を引き起こすと環境保護活動を続けている人たちは考えています.彼らによると,オバマ大統領も天然資源の採掘に対し,好意的な姿勢を示していて,彼が再選されても状況の改善は期待できないそうです.


*1) For Profit Higher Education: The Failure to Safeguard the Federal Investment and Ensure Student Success, フェニックス大学については,Part IIのApollo Group, Inc. (470,800 students, based in Phoenix, AZ)の項参照.

No comments:

Post a Comment