Tuesday 9 September 2014

鉄道ファンのための便利メモ(IV)- ドイツの主な変わり種蒸気機関車

普段,慣れ親しんでいるものと異なる外観,あるいは構造を持つ,言わば《変わり種》蒸気機関車をすべて挙げるとなるとたいへんな作業となるので,取りあえず,ドイツの蒸気機関車の中で,比較的よく知られている以下のものを紹介したいと思います.
  • マレー式
    8動軸を備えたドイツ最大の貨物用タンク機96形(旧バイエルン国鉄 Gt 2 x 4/4)が有名.(なお,別に変わり種というわけではありませんが,マレー式ではなく,通常の配置で最も多い動軸を持った機関車というと,59形(旧ヴュルテンベルグ国鉄のK クラス)という6動軸機(1'F h4v)でした.なお,動輪直径は,国鉄D51形やドイツの主要な貨物用統一規格機などの1,400 mmより50 mmほど小さい1,350 mm.*1)
  • メイヤー式
    狭軌(750 mm)用の99.51-60(旧ザクセン国鉄IV K形).飽和蒸気機関車ですが,車両の両側それぞれにおいて向かい合う2つのシリンダは,後部に設置されたものが高圧用,前部のものが低圧用です.(高圧用,低圧用シリンダの配置順序は,上記のマレー式96形でも同様.)
  • フェアリー式
    狭軌(750 mm)用のザクセン国鉄II K形,狭軌(1,000 mm)用99.16(旧ザクセン国鉄I M形)
  • タービン機
    T 18.10, T 09 001/002
  • 高圧蒸気使用機:
    H 17 206(58.8 bar), H 02 1001(120 bar)
  • フランコ・クロスティ式ボイラー装備機:
    42 90, 50.40
  • 蒸気モーター機:
    19.10 8気筒の4動軸機(1'Do1' h8).2基のシリンダが装着された各動軸に,それらの往復運動が直接伝えられ,それぞれ独立的に駆動させるというもの.動輪直径は,国鉄9600形と同様1,250 mmにも拘らず,最高速度は,少なくとも186 km/h.(写真はこちら.)1両しか製造されなかった19 1001は,戦後,アメリカで廃車にされました.
  • 復水式
    52.18-20(腹水式テンダー及びそれを備えた車両の写真はこちら.)
  • キャプフォワード式
    高速走行時における運転を容易にする目的で,機関車本体を180度回転させ,運転台が先頭に配置した構造の車両.ドイツでは,05 003などに採用されました.05 003の場合,燃料は粉炭で,炭水車から高圧空気によって,ボイラーの下に設置された長い2本のパイプを通して先頭に位置する火室へ運ばれる構造でした.しかし,粉炭によるパイプの目詰まりが頻繁に発生する等,問題が多く,結局1944年末には通常の形状に戻され,1957年9月9日までケルン,ハンブルグ間で長距離急行列車の牽引機を務めましたが,翌年の1958年6月16日に廃車にされています.

それぞれ珍しい車両のため,実機の写真は,あまりウェブ上に公開されていないようです.それらの写真も含め,さらに詳しい情報をご希望の場合は,雑誌"Eisenbahn JOURNAL"の特別号Die Dampflokomotive  - Technik und Funktion, Teil 4 ・Sonderbauarten deutscher Dampflokomotivenをご覧下さい.(本体価格10 €.日本からでも購入可能.)


蒸気機関車ではありませんが,ICEの先祖と言われるシーネンツェッペリンのNゲージ(?)模型.こちらも相当変わってます.トッゲンブルグ鉄道模型博物館にて.



*1) そもそも,こんなムカデのような機関車が,どうしてカーブを曲がれるのかというと,Wikipediaの解説にあるように,第1動軸と第6動軸は左右にずれることができる構造になっていて(ゲルスドルフ式動軸),その他の動軸は台枠に固定されてはいるものの,第3,第4動軸の車輪のフランジが15 mm程短くされているためです.59形は,世界遺産のゼンメリング鉄道や,ハンガリー,ユーゴスラビアなどでも活躍しました.

また,最初に紹介したマレー,メイヤー,フェアリー式は,カーブにおけるスムーズな走行性を確保するためさらにラディカルな方法を採用しています.すなわち,マレー式では,2つの動軸群のうち,高圧蒸気用シリンダーにより駆動する後部動軸群は台枠に固定されていますが,低圧蒸気用シリンダーにより駆動する前部動軸群は台車に取り付けられていて,カーブ通過時,動軸群全体がレールに沿って向きを変えられる構造になっています.さらに,メイヤー,フェアリーでは,前部と後部の各動軸群がそれぞれ独立した別の台車に取り付けられています.そのため,96形の軸配置表記はD'Dですが,99.51-60および99.16では,B'B'となっています.(ドイツ式の軸配置表記,あるいは車両のタイプ表記におけるアポストロフィは,その前の数字やアルファベット文字によって表されている車軸が,カーブ走行の際などに,車体に対して向きを変えられる構造となっていることを示しています.なお,表記において左端が車両の先頭です.)また,単に2両のI K形の後部を向かい合わせてつなげたのみのII K形を除き,マレー,メイヤー,フェアリー式は,飽和式,過熱式に拘らず,すべて高圧用シリンダで使用した蒸気を再び低圧用シリンダで使用する複式です.

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