Thursday 4 September 2014

世界で加速する脱原子力発電の動き

以下は,8月6日付電子版Spiegelの"Der schleichende Atomtod"に基づいています.

理由は,単純にコストがかかりすぎるということです. 確かに,すでに脱原発を決めたドイツでは,電力料金の値上げに国民から悲鳴が聞かれ,中国などの新興国では,その向上しつつある工業生産力を維持するために電力の需要が一層高まっています.では,元々安上がりな電力源として喧伝された原子力発電に再帰,またはそれを推進すべきなのでしょうか.

フランスのエネルギー専門家Mycle Schneiderは,こうしたシナリオは全く考えられないと言います.彼が率いる研究チームが最近公開したリポート"World Nuclear Industry Status Report"によると,現在,世界的に原子力発電が後退しつつあるというのです.

同リポートによると,2002年以降,世界に於ける発電用原子炉は,およそ50基ほど減少し388基となっています.しかも,これら388基のうち43基は少なくとも18ヶ月に亘り未稼働のままです.

さらに,1966年以降,全世界における発電量に占める原子力による発電量は17.6%から10.8%へと減少しているのです.こうした傾向に,福島の核災害が拍車をかけたことは否めないでしょう.しかし,2011の災害発生の前にすでに13%へと減少していたことも事実なのです.(こちらの図をご覧下さい.)

また,新たに建設される施設が少ないため,世界中に存在する原子力発電施設の平均年齢は28.5年となっており,そのおよそ半分が31年以上の稼働歴を持っています.そのため,もし,今後10年間,全世界の発電量における原子力発電の比率を現状のまま維持することは,あらたな原発建設ブームでも起きない限り不可能です.(こちらの図をご覧下さい.)

それでは,経済成長の著しい中国やインドはどうでしょうか.少なくとも,現時点において,両国にはその電力需要を積極的に原子力によって賄う姿勢は見られません.BRICSに於ける例外と言えるのは唯一ロシアのみで,残りのブラジル,インド,南アフリカにおける原子力発電の全発電量に占める比率はパーセントにすると一桁に過ぎません.

こうした状況下,ドイツなどの工業国が脱原発に舵を切った結果,1996年以降,全世界における原子力による発電量は,世界的に高まり続ける電力需要にも拘らず2500テラワットに留まっています.

その一方で,中国などは多くの新たな原子力発電施設を建設しつつあることも事実です.しかし,これら建設中のプラントの3/4では,少なくとも数ヶ月もの工事の遅れが発生しています.こうした遅れは中国に限ったことではなく,世界的に見ても同様で,計画された68もの新規原発建設計画のうち,9件は20年以上も前に着手されたものの未だに竣工に到達していません.少なくともこれら9件は永久に完成しないでしょう.

なお,中国が将来的にその電力需要の殆どを原子力発電で賄うかというと多いに疑問です.絶対量を見る限り,この国は世界において最も多くの電力を原子力発電から得ていることは確かです.(比率的には電力量全体の2%.)しかし,同時に再生可能エネルギーによる電力量は,すでに全体の20%にも達しているのです.(各国毎の原子力発電の比率については,こちらの図をご覧下さい.)

冒頭に述べたことに戻りますが,今や,原子力発電は,少なくとも経済的視点から見る限り,もはや意味がなくなっているのです.実際,過去10年間に於いて,新設される原子力発電施設による発電にかかるコストは,1キロワット時あたり8倍に増加しました.具体的な例として,英国のHinkleyに於ける新規プラントの建設事業が挙げられますが,もはや建設費は増大するばかりです.(Cf. "EDF Energy urged to give up on Hinkley C after bank's report" in Western Morning News, 2014年9月2日付電子版)

同時に,原子力発電自体のコストも,多くの国ですでに実施されている再生可能エネルギーへの財政的援助や核燃料への新たな課税により上昇しており,それらの国ではもはや採算に合わなくなっているのです.そのため,ドイツのE.ONは,運転中のグラーフェンラインフェルトの原子力発電所を政府の計画を7ヶ月前倒しして停止させる意向を示しています.

最後に,新たな発電施設建設への投資額を見ても原子力発電の時代は終焉に向かいつつあることは確かのようです.リポートが伝えるところでは,新たな原子力発電施設の建設への投資額は3%,翻って再生可能エネルギー施設の建設へは57%に昇っているそうです.

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