Saturday 9 November 2013

城塞化するヨーロッパ - ランペドゥーザの悲劇を招いたもの

10月26日にARTEで放送された番組"Réfugiés de guerre - L'Europe et ses responsabilités humanitaires"(Yourope)の内容からの抜粋です.

あのような悲惨が事故が起きる原因として,アラブ世界やアフリカの混乱がありますが,同時にヨーロッパ(EU)が域外からの人の移動に対して厳しい制限を設けていることが挙げられます.とりわけイタリアやギリシャにおいて,そうした制限は強化されており,たとえば,イタリアでは市民が不法移民の入国や滞在を援助した場合でも処罰の対象となります.ランペドゥーザ沖で難民を乗せた船が遭難した際,付近を航行中,海に投げ出された人たちを発見した船もあったのですが,少なくともそのうち3隻は何もせずにその場から去っています.処罰を恐れての行動です.結局,遭難者たちは,処罰されようが目の前の惨状を放っておくことはできないと判断した4隻目の船の船長によって救出されたのでした.救助された難民たちは,地中海の小島であるランペドゥーザの専用施設に収容されていますが,生活環境は劣悪です.また,EUの亡命に関する法律であるダブリン法により亡命の申請ができるのは到着した国においてのみのため,彼らの申請はイタリアの移民局によって審査*1)が行われますが,審査の結果申請が認められないケースも多くあります.*2) 

10月3日にランペドゥーザ沖で遭難した難民船に乗っていたのは主にエルトリア人とシリア人でしたが,過去20年間に地中海で命を失った難民約25,000人のうちの大半はシリア人でした.そして,現在もヨーロッパを目指す難民のうちもっとも多いのがシリア人です.シリアからは,内戦が始まって以来およそ200万人が国外へ逃れていて,そのうちレバノンには72万人,ヨルダンには52万人,トルコには44万人が避難しており,これらの隣国におけるシリア難民の受け入れはすでに限界に達しています.他に,ヨーロッパに辿りついて亡命申請を行った人も40,000人いますが,半数以上がスウェーデンとドイツに滞在しています.最近,スウェーデンでは滞在中の8,000人に無期限の滞在許可が,ドイツでも5,000人の2年間の滞在許可が与えられました.ヨーロッパの他の国はというと,フランスでは今年700人が,英国では1000人,そしてオランダでは50人のシリア難民が受け入れられたにすぎません.

こうした状況下でのシリア難民にとっての問題は,比較的待遇が良いスウェーデンやドイツで亡命申請を行いたい場合,上述のEUの法律により亡命申請が到着した(あるいは発見された)国でしか出来ないため,そこまで隠れて移動しなければならず,そのために多額の費用が必要であり,さらに命を失う危険さえあるということです.前者は密入国の請負人に払う費用で,現在の相場は13,000ドルといわれます.そしてシリアからドイツに向かうには,イスタンブールを経由するのですが,イスタンブールからドイツまではトラックの車体の下に取り付けられた狭い箱の中に複数の密入国希望者が入れられるため,中には圧迫で窒息死するケースもあります.このように,EUの亡命に関する法律が強化されたことで,結果的にはアフリカから逃れて亡命を希望する人たちが,目的地にたどり着くためにますますリスクの高い手段を選ばざるを得なくなっています.




*1) イタリアにおける亡命申請手続きの詳細はAsylum Information Databaseのこちらのページにおいて説明されています.また,Dublin IIと呼ばれる2008年に発効した亡命に関するEUの法律についてはWikipediaの関連項目,またはEUのサイトの関連ページをご覧下さい.
*2) EUにおける亡命申請に関する詳しい統計はEUの統計のサイト内こちらのページでご覧になれます.(英語)

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