Saturday 14 March 2015

ムスリムの理想郷にほど遠いDaechの現実

少し前(3月10日)にSPIEGELの掲載された"Islamischer Staat": Realitätsschock im Kalifatの抄訳です.

まず,Daechの内輪の問題3つが挙げられています.情報源は,シリア内に広域的な情報網を持つSOHR(シリア人権監視団.拠点は英国のCoventry)です.
  • 敵前逃亡:
9日の月曜日,少なくとも9名のDaechの戦闘員が他の戦闘員によって殺害されたそうですが,理由は前者がトルコへ逃亡しようとしたため.
  • 捕虜の脱走:
10日の火曜日には,Daechに捉えられていた100名の捕虜が脱走しました.このように多くの捕虜が脱走できたということは,内部に彼らを援助した者がいることを示唆しています.(Daech内部に裏切り者が存在している可能性.)
  • 夜間の外出禁止令:
"カリファ"の住民たちの管理が思うように行かないためにとられた措置のようです.

以上3つの問題のうち,もっとも深刻なのは敵前逃亡で,昨年の10月から12月までの3ヶ月間だけで,120名ものDaechの戦闘員がそのために処刑されています.こうした事態を受けて,今年の1月,DaechはRakkaにおいて50歳以下の男性が町から出ることを禁止しました.

先週,Wall Street Journalは,Daechから逃亡した4名に元戦闘員へのインタビュー記事を掲載しました.その中で,彼らは組織の腐敗や戦闘員間の嫉妬について言及し,外国人戦闘員は地元出身の戦闘員に比べ高待遇を受けており,また,戦利品なども減少しており,戦闘員達の士気が低下していると述べています.彼らは,また,罪の無い人さえもプロパガンダのために処刑するDaechの残忍性にショックを受けたそうです.

さらに根本的な問題として,自らをカリフとして宣言したDaechの首領Baghdadiが樹立したというイスラムの帝国であるカリファ(あるいはカリファート)が凡そ国の体裁を持っていないということがあります.Daechは,世界中のムスリムにとって理想郷などでは無く,現実においては豊富な軍資金を持った民兵組織(正確にはテロ集団)に過ぎません.しかし,1つの国を運営するには物質的に貧しすぎるのです.それは特に人材面に云えることで,本来必要な様々な知識や技能を身につけた人々は居着きません.例えば,Daechの規則によると,夜間における病院での男女同時勤務は禁止されており,こうした極端な(彼らの理解する)イスラムの実践に耐えかねて多くの医療従事者達が離れています.(Cf. Terror im Krankenhaus: Dem "Islamischen Staat" laufen die Ärzte davon in SPIEGEL)

今や,Daechはその勢力範囲の中心であるイラクやシリアで敗退を重ねており,果たしてBaghdadiの野望が成就するかは全く未知数と云えそうです.

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