Friday, 27 March 2015

誰も信じないネタニヤフ首相が選挙後に示唆した二国共存の実現性と中東問題の複雑性

かなり以前のポストで,21世紀の中東は,オスマントルコが崩壊した後,第一次世界大戦勃発前のバルカン半島の状況に似ているという,アルジェリアのフランス語紙El Watanの記事を紹介したことがありましたが,そう思える面もなくはありませんが,現状は,当時に比べ,更に複雑になっているようです.複雑化した要因で一番大きなものは,云うまでもなくDaechやボコ・ハラムなどのカリファティズムという錦の御旗を振りかざし数限りない外道行為を続けるテロ集団の台頭です.もし,仮にアラブの春を経験した国々において西洋諸国に近い形で民主化が実現し,さらに,イスラエルとパレスティナの二国共存が実現すれば,WWI前の2ブロックの対立(フランス,英国,ロシア,トルコ vs ドイツ,オーストリア,イタリア(後に前者へ合流))に近い構図(西洋諸国+親欧米の石油産出国および民主化されたアラブ諸国 vs テロ集団)となるかもしれませんが,それが近い将来に実現することは,まず考えられないのではないでしょうか.以上に加えて,現状を複雑化しているもうひとつの要因は,何といってもロシアの振る舞いです.今や,連日の報道で伝えられているようにNATOとロシアの関係は冷戦時代以来最悪となっていますし,今後もすぐに改善するとも思えません.EU首脳のプーチン大統領への信頼は,クリミア併合以来,完全に消え失せています.そして,国際社会において,しばしばロシアと歩調を合わせる中国の存在も無視出来ません.そうなると,もはや2ブロックの対立と云った簡単な図式は成り立たなくなり,歴史は繰り返すという説は今日の中東には当てはまらないようです.強いて云うならば,三つ巴,つまり上記3つのブロックの対立とも云えないこともありませんが,例えば,対Daech戦における地上戦での主要な戦力となっているクルド人部隊は,トルコ,イラク,シリアにおける各民兵組織が緊密な連携のもとに行動しています.つまり国籍より同じ民族に所属していることが彼らのまとまりを形作っているのです.(それぞれの国で迫害されて来たわけですから当然と云えば当然です.皮肉なことにユダヤ人と同じ様に.) その意味では,現状の国境を認めないDaechなどのカリファティズムと同じと云えます.さらに加えれば,トルコのように表面上は西側(NATO)に組しているような顔を持っていても,実際にはDaechの志願戦闘員や物資のシリアへの入国や搬入に対し取締も行わず,それらの国境通過を見逃している国もあります.そして,キリスト教とイスラム教の対立,あるいはそれらを基盤とした文明同士の対立と云った簡単な図式も全く意味をなさないことも,イスラム教の各宗派間の対立(単に多数派のスンニ派と少数派のシーア派と云った単純なものではない)を見れば明らかです.このように,今や,かつてのように国境によって隔たれた国毎の対立,あるいはそれらの集合体同士の対立という図式は,もはや成り立たなくなっているというのが,今日の世界の現実と云ってよいでしょう.

(イスラエルとパレスティナ二国共存については,NZZの3月22日付«Die Ära des Postzionismus»をご覧下さい.)



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