Monday, 3 September 2012

アメリカ軍兵士の自殺者急増とオスプレイ配備の懸念

すでに日本のメディアでも取り上げられている話題ですが,ふと気になって,以前目にしたLe Mondeの記事をもう一度読み返してみました.

記事の見出しは,L'armée américaine enregistre un suicide par jour depuis janvier.*1) 上掲紙の電子版2012年6月18日付に掲載されました.米国Associated Pressからの情報に基づくものです.

 それによると,

アメリカ国防総省の月報によると,アメリカ軍内部に置いて,155日間で少なくとも154名もの兵士の自殺者が記録されているそうです.*2) 1月から6月にかけては,平均一日当たり1名の割合で自殺者が出ており,その数は,同じ期間におけるアフガニスタンで死亡した兵士の数,127名を50%上回っています.

これは,2011年の同期間のアメリカ軍兵士の自殺者数130名に比較して,18%の増加であり,さらに,過去最も高い自殺者数を記録した2009年の統計をも上回る数字です.

その後,2010年と翌2011年においては,米兵の自殺者の数は際立った増減を見せることなく推移しましたが,2012年は,米軍のアフガニスタン侵攻開始以来,これまでにないほどの増加に転じました.今や,米兵の自殺者数は,戦闘よる死亡の数に続き,二番目に多い死亡原因となっています.

国防総省の月例医事報告書(Medical Surveillance Monthly Report)の2012年5月版*2)によると,2011年の統計では,米軍兵士中,戦闘で死亡したのは,その26.4%,自殺によるものが19.5%,そして,17.3%が車両で移動中の事故によるものがだったそうです.5年前の2006年においては,戦闘による死亡は,40.5%,そして車両で移動中の事故によるものが24.3%で,自殺によるものは11.4%でした.このように,2005年以降,自殺による米兵の死者は,10%の増加を示しています.

こうした,米兵の自殺者の急激な増加は,2001年から2011年の間の統計をもとに,2012年の1月から5月にかけての兵員の自殺者数を136.2名と推算していた国防総省の上層部を,少なからず驚かせました.BBCの報道によると,国防総省のスポークスマンは,この問題は,彼らに最も迅速な対応が求められているもののひとつであることを認めています.*4)

Associated Pressによると,さらに気がかりなことは,こうした兵員の自殺者の増加の原因がいまだに明確に把握できていない事です. それでも,国防総省は,その原因として,心的外傷後ストレス障害(PTSD),医薬品の不適切な使用,また個人的な経済問題などを挙げています.同通信社によると,実戦に配置されていなかった兵士の自殺者も無視できない数ですが,さまざまな作戦に参加した兵士が自殺するリスクは,やはり非常に高いそうです.

国防総省の報告書によると,米三軍のうち,もっとも多くの自殺者を記録しているのは空軍で,今年1月以来,32名の自殺者を出しており,去年の同時期の23名に比べて大幅な増加を示しています.反対に,海兵隊では,過去4年間に比較して,自殺者の数の目立った増減は示していないとのことです.

さらに,アメリカ軍内部での自殺以外の問題も増加傾向にあります.性的虐待や家庭内暴力,また,アルコール依存といった問題です.Associated Pressによって紹介された,1月公表の軍の報告書は,10年に及ぶアフガニスタンにおける戦闘で,アメリカ軍の兵士全体が被っているストレスが増加しつつあるとしています.そして,同報告書において,国防総省は,過去数年にわたって実施した様々な予防策の結果は,未だ見えてこないとも述べられています.*5)

こうした予防策の一環として,暫く前からアメリカ軍は,兵士達に対し,心理的,または精神的な問題を抱えている場合は,適切な援助を受けることを勧めています.BBCによると,問題に悩む戦場の兵士たちが電話での相談を受けられるように,彼ら専用の「命の電話」とでも呼べる"DStress line"を開設したそうです.

しかし,国防総省のスポークスマンが,BBCの記者に伝えたところによると,こうした電話相談を利用することができるのは,どちらかというと勇気がある人で,そうではない人人は,このような形の支援にすがることは,軍隊の中で自分の弱さを露呈させてしまうことになるので利用したがらないようです.

今年の1月,ダナ・ピッタード少将(Dana Pittard, MG)は,自身のブログの中で,兵士たちに向けて,「自殺という行為は,全くの自己中心的行為です.」というメッセージを送り,続けて「大人になりなさい.皆がやっているように,自分の問題は自分で解決しなさい.」と加えたため*6),物議をかもしだしたそうです.彼のこの発言は,すでに消去されたそうですが,同じブログにおいて,彼は,「結果として,他の兵士にその処理をさせる,自殺兵たちにはもううんざりだ.」とも書き込んでいたそうです.

以上,かなり以前の記事ですが,これを読み返して気になったのは,最近,沖縄の米軍基地に配備が計画されている海兵隊仕様垂直離着陸輸送機オスプレイ(Osprey: MV-22)のことです.米軍にしろ,その報告をオウム返しに繰り返す日本政府にしろ,当該機種の事故は人為的ミスによるもので,設計上は問題ないとしています.しかし,今,みてきたように,アメリカ軍全体において精神的に病んでいる兵士たちが急増しているわけですから,極めて常識的に考えて,人為的ミスといえども決して無視できない問題です.さらに,(想像したくないことですが),もし仮に自殺願望を抱いた兵士が,この,事故率の高いとされるエアクラフトを操縦し,意図的に墜落を招くような操縦を行い,結果としてその個人的な目的を達成する事に成功したとしても,単に操縦上のミスということで片付けられてしまう可能性も,理論的にはないとはいえないでしょう.

ただ,最後になりますが,このように,しっかりと情報を公表する米国国防総省の姿勢および,真に必要な情報を聞き出そうとする米英のジャーナリストたちの姿勢に関しては敬意を表さざるを得ません.もっとも,それは日本人の好きな国際標準に照らせば至極当然のことなのでしょうが.


*1) Its English translation would be "The U.S. military records one suicide per day in January".
*2) http://www.politico.com/news/stories/0612/77188_Page2.html
*3) http://www.afhsc.mil/viewMSMR?file=2012/v19_n05.pdf#Page=02
*4) http://www.bbc.co.uk/news/world-us-canada-18371377?utm_source=dlvr.it&
utm_medium=twitter

*5) http://www.armyg1.army.mil/hr/suicide/default.asp 
*6) http://battleland.blogs.time.com/2012/05/22/listen-up-general-pittard/

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