Monday 9 February 2015

冷戦時より深刻なNATOとロシアの緊張関係 - ロシアが進めるHybrid Warfareのリスク

1995年,東西間で核戦争が勃発しかけたことがあります.世に言うNorwegian rocket incidentという事件で,ノルウェイとアメリカの研究者がオーロラ調査の目的で発射したロケットが,ロシアによって速度と弾道からアメリカ軍のトライデントミサイルと誤認され,当時のボリス・イェルチン大統領は核ミサイルの発射を決断しかけたというものです.結果として,ロシアの核ミサイルは発射されませんでしたが,下手をすれば核戦争を招きかねない事態でした.当時は,ロシアとアメリカの間に十分な信頼関係が築かれていたため,最悪の結果が避けられたが,今日の両国の関係は冷戦時以上に悪化しているため,もし1995年に起きたものと同様な事件が起きたら前回のようには行かないだろうと警告を発しているのは, アメリカの軍事専門家Theodor Postol氏.元ロシア外相Igor Iwanow氏も,ミュンヒェンで開かれた安産保障会議の席上,当時米ロ間に存在していた緊急連絡の手段が,今は殆ど機能していないことを指摘しています.

両国の互いへ対する不信は核軍備の安全性確保における協力姿勢を見ても明らかで,2014年11月,ロシアは2016年にアメリカで開催が予定されている核兵器の安全に関する首脳会議への不参加を表明しており,アメリカ議会も,昨年12月にロシアへ対する核兵器の保守費用援助の打ち切りを決定しています.数日後,ロシアは,それに対し,今後,アメリカとは核兵器の安全確保のための如何なる協力も行わないことを表明しています.

こうした状況下,米露両国は,それぞれの核軍備の近代化のために膨大な予算を支出しているのです.(ELNの代表Browne氏,Iwanov元ロシア外相,軍縮のエキスパートで元アメリカ上院議員Sam Nunn氏の3人は共同で現状を分析したリポートを公開しています.) 現状をより深刻にしているのはロシアが進めている,Hybrid Warfare(複合戦略)と呼ばれるもので,従来の定義による戦争ではなく宣伝工作,サイバー攻撃,分離独立勢力への資金提供,秘密裏の軍事行動といった,文字通り何でもありという戦術です.(訳注:アメリカが昔から実施してきたものと思いますが.)いずれにせよ,NATO条約の5条には集団的防衛義務が明確に規定されているので,例えばパルト3国が,現在のウクライナと同様ロシアの標的となった場合,NATO加盟国すべてはロシアとの戦争に突入することを余儀なくされます.

以上,SPIEGELのNato-Russland-Krise: Das nukleare Gespenst kehrt zurückの抄訳でした.

英国,フランス周辺海域で多発しているロシア戦闘機の挑発行動については,L'OBSのDes chasseurs russes observés près des côtes françaisesなどを参照ください.

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