Monday 23 February 2015

01 1100とジャン・ジョレスとトンブクトゥを結ぶインドの格言

最近,書棚にあった鉄道雑誌"EISENBAHN KURIER"2010年5月号にふと目がとまり,何気なく取り出してページをめくったところ,この雑誌が発行された25年前の1985年,ドイツにおける鉄道開業150周年を記念して運行された01 1100牽引特別列車の記事が目にとまりました.(何を見るにつけても蒸気機関車の写真にすぐに目が行ってしまうというのは,私のようなポッポオタクたちの逃れられない本能なのです.) 01 1100は,ドイツ帝国鉄道の最初の急行旅客用統一規格形機関車01形の3気筒ヴァージョンで,開発時の形式名は0110.第二次世界大戦後は西ドイツに残り(東ドイツには3気筒の01は存在しません.),1956年に新造缶に交換され,同時に重油燃焼式に改造されました.そのため,1968年のEDV番号導入以降は,3気筒01の重油燃焼機を表す012の形式番号が与えられ,プレート表記はセルフチェックディジット付きの012 100-4となっています.(Cf. Eisenbahn-Museumfahrzeuge, Wikipedia) では,現状はどうかと言いますと,上掲のEisenbahn-Museumfahrzeugeの2012年8月時点の情報によると,所有者はニュールンベルグのDB博物館で,オーバーハウゼン蒸気機関車保存会に貸与されていると書かれています.しかし,同保存会のサイトのどこを見ても01 1100に関する記載はありません.いつか機会があったら訊ねてみようかと思いますが,少なくとも現時点では動態復活には至っていないようです.(Eisenbahn-Museumfahrzeugeの履歴によると2005年までは動態保存機.2009年にはボイラーおよび燃焼設備の耐用年数が切れたとのこと.) それでも,もし動態復活したあかつきには,UEFの01 1066,オランダSL財団の01 1075に続いてヨーロッパにおける3両目の動態保存012形となります.そして,ドイツ帝国鉄道の最強急行旅客用機(3気筒重油燃焼パシフィック)の3重連が実現したら... などと妄想は広がるばかりです.

ところで,この記事の題名"Die deutschen Eisenbahn feiern!"の下にはキャプションとして,"Tradition ist nicht das Bewahren der Asche, sondern das Schüren der Flamme."(「伝統というものは,灰を保持することではなく,炎を燃やし続けることなのだ.」)というフランスの政治家で社会党の機関紙"L'Humanité"の創刊者ジャン・ジョレスの言葉が引用されていました.確かに,ドイツで今も活躍する多くの動態保存機のことを思えば,文字通り当てはまる名言です.

ということは,この人も同国人の作曲家オネゲル先生みたいに鉄道や蒸気機関車のファンのだったのかしらんと思いながら,日本語のWikipediaの説明を読むと一言もそんなことは書いてありません.念のためにフランス語のWikipediaの説明の中で「鉄道」,または「機関車」などといった言葉を探して見ましたが,やはり見つかりませんでした.では,ジャン・ジョレスさんは,どのような文脈でこの言葉を述べたのか,それに対する答えも見つかりませんでしたが,どうやら,元々はインドの格言のようです.そうなると英語の"TRADITION AND HERITAGE DO NOT MEAN TO PRESERVE THE ASHES BUT TO KEEP THE FLAME ALIGHT"の ほうが,ドイツ語やフランス語の訳よりもよりオリジナルに近い可能性もあります.(元を正せばヒンドゥー語?)  それを教えてくれたのは,この言葉がインドの格言として引用されている建築家で都市デザイナー,そししてフランス政府の歴史遺産管理官アラン・マリノスさんのサイトでした.そこには,フランス語の訳も記載されています.

というわけで,ジャン・ジャレスさんも,この格言を何かの機会(演説か記事など)で使ったというのが正解のようです.そして,そのときの文脈も,ほぼ間違いなく鉄道とは全く関係のないものだったとみるのが妥当のようです.とはいえ,このインドの格言を文字通り捉えれば,結果的にもっともよく当てはまるのは,やはり動態保存されている蒸気機関車であることは間違いありません.

さて,このインドの格言が,最近,貴重な文化遺産がテロ集団のDaechによって危うく破壊されかけたトンブクトゥの保存に関するユネスコの資料にも記載されていることを知りました.不便なことにフランス語版しかないようですが,ユネスコのサイトのこちらからダウンロードが可能です.そこでは,この格言は昔の人が生きていたときの姿で保存すべきという文脈の中で引用されています.

2011年の夏にハイルブロンの鉄道博物館で見かけた雨ざらしの我がいとしの"ブルーレディ"(Blue Lady)こと01 1102.もはや動態復活の希望はなさそうです.なお,当初,01.10の流線型覆いは車輪もすべて隠す形状のものでしたが,熱がこもるということで,このように下が切り取られた形になりました.むしろ,このスタイルのほうがスマートに思えます.



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