Wednesday, 20 November 2013

世界中で誤解を招いている一枚の写真 - "Fukushima"の核物質によって太平洋全域が汚染?


誤解を招いているのは下の写真です.Googleの画像検索などで,例えば"Nuclear contamination of Pacific Ocean by Fukushima"といったキーワードで検索すると表示される,今やおなじみとなっている画像です.


次にもう一枚,似たような画像をご覧下さい.


上掲の二枚の写真はもともと同じものですが,二枚目には一枚目に含まれていない数字や言葉が載っています.実は,二枚目のほうがオリジナルなのです.この写真は,アメリカ海洋大気庁(NOAA)が作成したもので,2011年の3月に東北から関東を襲った津波の太平洋周辺における最高値を記録されたデータをもとにプロットしたものです.すなわち,黒で示された地点では2.4 m以上,同様に黄色は20 cm以下,そして赤は40 cm,オレンジは20 cmから40 cmといった具合です.何故か,この画像が世界各地の情報サイトなどに説明や数値が削除された状態で掲載され(一枚目の画像),福島の原子力発電所から漏れ続けている放射性物質が太平洋全域に拡散しているといった解説が付けられているのです.果たして意図的なものかどうかは判りません.以下にそういったサイトでこの画像に付けられたキャプションのいくつかを紹介します.なお,これらは最近公開されたものですが,実は,この画像はすでに2012年においていくつかの環境保護運動のサイトで"放射能の悪夢"といったキャプション付きで公開されています.
  • 膨大な量のストロンチウム,トリチウム,セシウムが福島から漏れ出してた模様で,海流,降雨,風などによって北半球全体に拡散している.」(Smx(アンチル),10月17日)
次は少々物騒なもので,
  • 福島の放射能はすでに北アメリカに暮らす人々の命を奪いつつある.」(Nodisinfo,10月10日)
  • 今後の数年間で,現在も進行中のこの災害は北半球の数百万人の住民の健康に潜在的な悪影響を及ぼしかねない.そして,最も悲しむべきことは,これらの人々は彼らの健康上の問題の本当の原因を知らないことだ.」(Le Nouveau paradigme,10月26日)

以上,人騒がせと言えば言えないこともない話ですが,火の無いところに煙は立たないのも事実で,福島第一原子力発電所では現在も放射能を含んだ冷却水が地下水や海に流れだしていることは事実です.10月に発行された専門誌"Deep-Sea Resarch"では福島からのセシウム137の海洋における拡散路についての研究結果を報告していますが,それによると,この物質は来年の始めにはアメリカの北西岸に到達すると予想されています.なお,健康に被害を及ぼす量ではなく,専門家たちはオレゴン州とワシントン州沿岸で2014年から2020年までの期において10から30 Bq/m3程度,カルフォルニア州沿岸では2016年から2025年までの期間において10から20 Bq/m3を予想しています.

ところで,下の画像はセシウム137の海面下200 mまでの濃度の予測値を示すものですが,フランスの国立の研究機関IRSNのDominique Boustによると,仮にセシウム137の濃度が福島の原発事故以前の10倍になったとしても,その地域の生物や海産物の消費に危険をもたらすものではないそうです.実際,平均で20 Bq/m3の海水中に生息する魚の場合,1 kgにつき2ベクレルの放射能が検出されますが,これはヨーロッパの基準の500 Bq/kgでも日本の基準の100 Bq/kgを下回る値です.
a:2012年4月,b:2014年4月,c:2016年4月,d:2021年4月
以上,Le MondeのBlogの10月29日付ポスト"Hoax écolo : la contamination massive du Pacifique par Fukushima"からでしたが,それでも日本政府も東京電力ももう少し情報公開への努力を示すべきでしょう.(例えば,Japan Timesなどが報じた元東電技術者の木村俊雄氏の情報開示請求には全面的に応じて,炉心崩壊の真の原因の調査に真摯に取り組むべきです.*1))いずれにせよ福島の原子力発電所の事故が引き起こした核災害は現在も進行中であり,私たちは危機の真只中にいることを忘れるべきではないことは言う迄もありません.そして,こうした風評も原子力発電所の事故の結果として捉えられるべきだと思うのです.





*1) 海外では,例えばドイツのDeutsche Wirtschafts Nachrichtenの12月14日付"Tepco-Ingenieur: Japanische AKW sind bei Erdbeben akut gefährdet"などがJapan Timesの当該記事を内容を伝えています.

No comments:

Post a Comment