Wednesday 10 July 2013

ドイツ啓蒙主義者たちの肖像 - アントン・グラフ展

スイス出身の画家アントン・グラフ(Anton Graff, 1736-1813)は,フリードリヒ大王やシラー,レッシングなどドイツや英国の啓蒙主義運動の多くの重要な人物たちの肖像がを描いたことで有名ですが,現在,彼の作品の展覧会が出身地のヴィンタートゥール(Winterthur)のオスカー・ラインハルト美術館で今年(2013年)の9月29日まで開催されています.詳しくは,こちらから(日本語版ページ).なお,会場内の説明はすべてドイツ語です.

英国で始まった啓蒙主義運動は,その後大陸へ伝わり,フランス革命(1789)にも影響を及ぼしたと言われています.そして,西洋近代市民社会の形成において,その精神的基盤を提供したとも言われています.当時の啓蒙主義者たちの国際的なネットワークの中に自らの身を置き,彼らと個人的な親交を結んだグラフの肖像画は単なる外面(res extensa)の描写に終わることなく,モデルの内面あるいは魂(res cogitans)をも含めた存在そのものを表現していると高く評価されています.古典主義,ロマン主義などと平行して18,19世紀ドイツの精神風土を形成した潮流のひとつ啓蒙主義をその国際的な文脈の中で捉えることもできる展覧会です.
AUFKLÄRUNG ist der Ausgang des Menschen aus seiner selbstverschuldeten Unmündigkeit. Unmündigkeit ist das Unvermögen, sich seines Verstandes ohne Leitung eines anderen zu bedienen. Selbstverschuldet ist diese Unmündigkeit, wenn die Ursache derselben nicht am Mangel des Verstandes, sondern der Entschließung und des Mutes liegt, sich seiner ohne Leitung eines andern zu bedienen. Sapere aude! Habe Mut, dich deines eigenen Verstandes zu bedienen! ist also der Wahlspruch der Aufklärung.
啓蒙とは人間が自ら招いた未成年状態から抜け出ることである。未成年状態とは、他人の指導なしには自分の悟性を用いる能力がないことである。
 この未成年状態の原因が悟性の欠如にではなく、他人の指導がなくとも自分の悟性を用いる決意と勇気の欠如にあるなら、未成年状態の責任は本人にある。
 したがって啓蒙の標語は「あえて賢くあれ!」「自分自身の悟性を用いる勇気を持て!」である。(福田喜一郎訳,『カント全集 14』,岩波書店, 2000年, p25)
上記は,会場で目にしたイマニュエル・カントによる啓蒙("AUFKLÄRUNG")の定義.西洋近代市民が持つべき理想的な精神的姿勢と言えるでしょう.こうした考えが生まれるに至ったのは,例えば我が国などは経験することがなかった,ルネサンスにおける人間の自由意志の発見や宗教改革における既存の権威への合理的な手段を用いての実証的な批判など,過去の精神的遺産の累積があったからに他ならないでしょう.個人において未成熟性が克服されるには,長い年数とさまざまな体験が必要であるように,ひとつの国家や国民においてもそれらは必要なのでしょうね.

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