Thursday 25 July 2013

ドイツSLのナンバープレートのセルフチェック数(Selbstkontrollziffer)とは

日本語では,自己検査数とでも言うのでしょうか.英語では,Self-check digitと呼ばれる数値と思われますので,とりあえず標記の呼び方にさせていただきます.

ドイツの蒸気機関車のなかには,下の写真の01 509(Pressnitztalbahn所有)のようにシリアル番号の次にさらに一桁の数字が付記されているナンバープレートを持つものがあります.以前から気になっていたのですが,最近,ドイツのSelketalbahnのサイト*1)に記載されている詳しい説明を読み,ようやくその意味を知ることができました.それによると,この数値はナンバープレートに表記されている数列(形式番号+製造番号+セルフチェック数)が正しいことを証明するためのものだそうです.

2013年4月27日,ドイツ,コットブスから運行されたポーランド,ウォルスチン行き特別列車の先頭を前補機として往路復路共に飾った01 509.ナンバープレートのシリアル番号(509)の右のダッシュの次の数値(8)がセルフチェック数.同機の後ろに僅かに見えるのは,同じ特別列車を牽引した伝説の駿足機18 201(往路は列車後部の後補機,復路では主務機).ウォルスチン駅にて.この写真も含めて,当日撮影した写真を数枚googleのギャラリーに載せてあります.ご興味がありましたらこちらからどうぞ.

もともと現在のような6桁のナンバープレート表記のシステム(EDV番号)*2)が導入されたのは,西ドイツ国鉄(DB: ドイツ連邦鉄道)においては1968年,そして東ドイツ国鉄(DR: Deutsche Reichsbahn)においては1970年ですが,その際に導入されたようです.その意味と算出の方法を正確に理解するにはSelketalbahnのサイトを参照されることをお勧めしますが,算出の方法を01 509を例にして説明しますと以下のようになります.なお,その際,元の数列がEDVで定められた6桁(プレート表記通りの01 0509)である必要があります.

1.数列(形式番号+製造番号)の各数値を右側から交互に2倍,1倍します.01 0509の場合,次にようになります.
  • 9 x 2 = 18
  • 0 x 1 = 0
  • 5 x 2 = 10
  • 0 x 1 = 0
  • 1 x 2 = 2
  • 0 x 1 = 0
2. 1.の計算で得られた個々の数値のうち,18や10のように二桁のものは,一の位と十の位の数値に分解します.つまり,18→1と8,10→1と0という具合です.

3.  2.において分解された数値のうち,元の数値が十の位のもの,この場合は元のナンバープレート表記における9から得られた1と同じく5から得られた1を使って6桁の数列を作成します.なお,計算の結果が一桁のものは0を置きます.すると以下の数列が得られます.(1.の計算結果と比較するために縦書きにします.)
  • 1
  • 0
  • 1
  • 0
  • 0
  • 0
4.1.の計算結果から二桁となったものの一の位の数値を抜き出し,もうひとつ別の数列を作成します.その際,1.の計算結果の中で一桁となった数値も数列に加えます.
  • 8
  • 0
  • 0
  • 0
  • 2
  • 0
5.3.と4.で得られた数値をそれぞれ合計します.3.の合計数は2,4.では10となります.

6.5.で得られた二つの数値をさらに合計します.

7.6.で得られた数字12(2 + 10)とこの数字より大きく且つそれに最も近い10の倍数(12の場合は20)の差,つまり01 0509では8(20 - 12)がセルフチェックディジットというわけです.

ここで,ドイツの蒸気機関車が好きな良い子の皆さんに問題です.上記の説明を参考にして,試しに,私の手元にある雑誌"LOK Magazin"の2012年10月号の表紙を飾っている01 0523のセルフチェックディジットはいくつでしょうか.答えは,*3)をご覧下さい.

なお,この01.5形式ですが,もともと旧東独国鉄の機関車で,老朽化した01に,ボイラーを高性能のものと交換,ボイラー上部構造物全体を箱形のカバーに収納,除煙板を大型化するなどの改造を施したマシンですが*4),特徴的なエプロン部やアフリカ像の耳のような除煙板*5)などのせいで,太めのボイラーにも拘らずなかなかエレガントな印象を受けます.主な性能諸元としては,2'C1' h2,動輪直径:2000 mm,最高速度:130 km/hです.ところで,やはりドイツやオーストリア各地で特別列車を牽引しているオーストリア鉄道歴史協会所有の動態保存機01 533のナンバープレートには,セルフチェック数は表記されていません.

そういえば,以前ノイエンマルクトの蒸気機関車博物館で観た狭軌用タンクマシンのナンバープレートにもセルフチェックディジットがついていました.すでに以前のポストに載せましたが,下の写真のマシンです.

ドイツの狭軌用機関車の中で一番気に入っているタイプ.現存する蒸気機関車の中で,宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』に登場する異次元列車の牽引機としてもっともふさわしいと勝手に思っております.先日,元気に活躍している姿を一目観ようとドレスデン近郊のDöllnitzbahnを訪れたのですが,仲良くなった地元の男の子と一緒にOschatzの駅でカメラを構えてお目当ての列車を待っているとなんと牽引していたのはディーゼル機.99は運悪く故障してしまったため,ディーゼル機関車による運行となったとのことでした.

6桁の数列にさらにダッシュ付の0が付記されているということは,まさしくEDV番号なのですが,セルフチェックディジットが0になるのはどのような場合でしょうか.なお,ドイツSLの形式番号のうち,99は狭軌用機関車に割り当てられた唯一の形式番号ですが,製造番号が1562なので軌間幅750 mm用機関車です.*6)

では,まず,このマシンのセルフチェックディジット,0が上述した計算で得られるかどうか確認してみましょう.すると,手順3.では,981064,同じく4.では010100が得られ,それぞれの合計数は,28,2です.そして,さらにこれを合計すると30になります.このように二つの数値の合算値自体が10の倍数になる場合,セルフチェックディジットとして0が表記されます.

さらについでなので,やはり狭軌用機関車である99 1789のセルフチェックディジットの9も確認してみましょう.

ドレスデン近郊のLössnitzgrund保存鉄道の少々ごつい印象のタンクエンジン99 1789.Radebeuil付近で撮影.製造番号からやはり750 mm軌間用の機関車であることがわかります.余談になりますが,このようにザクセン州は,まさに狭軌保存鉄道のパラダイス.同州は,これらの動く観光資源や関連観光施設のネットワーク「蒸気機関車街道」(DAMPFBAHN-ROUTE)を積極的に宣伝して観光客誘致に努めています.

例の計算の結果,二つの数列の合計数はそれぞれ38と3になるので,さらにそれを合算して得られる数値は41.それより大きい10の倍数のうち最小である50との差は9なのでやはりこちらも合っていますね.当たり前ですけど.

なお,もっと練習問題が欲しいと言われる向きは,例えばハルツ狭軌鉄道所属の機関車のナンバープレート表記からセルフチェックディジットを算出してみるとよろしいでしょう.(なんだか鉄道ファン向けのSUDOKUみたいですが.)以下,同鉄道のセルフチェックディジット付きの機関車の製造番号を記します.(計算される際には,それぞれの左側に狭軌用機関車を示す形式番号99をつけることをお忘れなく.)
  • 5906
  • 6001
  • 6102
  • 7234
  • 7245
  • 7237
  • 7240
 回答は,ハルツ狭軌鉄道のページでご確認ください.





*1)こちらのサイトでは,当該ページ自体のアドレスが表示されないため,リンク先ページ左側のナビゲーションバーの中から次の順序で当該ページへお進みください.
"Triebfahrzeuge" → "Baureihe u. a. → 本文内の"Begriffe"下のリンク"Selbstkontrollziffer".さらに詳しい説明は,"Selbstkontrollziffer"内のリンク先の"mehr Details zur Berechung der Selbtkontrollziffer"に記載されています.ところで,"Baureihe u. a."下の各ページにはドイツの動力車のナンバープレート表記についてとても詳しい説明が提供されています.
なお,セルフチェックディジットは,もともと国際鉄道連盟による車両ナンバーシステムの中で設けられたものなので,Wikipediaの当該の項目を読んだほうが手っ取り早く理解できますね.後で気がつきましたが.
*2) セルフチェックディジットを副んだElektronische Datenverarbeitung(電算処理)番号は,入力ミスなどを防ぐために導入されたのでしょうが,西ドイツの連邦鉄道においては,3桁の形式番号+3桁の製造番号(例,012 077-4),東ドイツ国鉄においては,冒頭で紹介した01 509-8のように2
桁の形式番号+4桁の製造番号でした.なお,EDV番号については,こちらのポストをご参照ください.
*3) 答えは,9です.こちらの写真で確認されてください.
*4) 詳しくはWikipediaのDR-01.5などをご参照ください.なお,それによると,01 0509の改造前のナンバーは01 143で,製造年は1935年,そして,01 0509へと改造されたのは1963年だったとのこと.
*5) ドイツの蒸気機関車の除煙板というと,もっとも普及しているのがこうした形を持ったヴィッテ除煙板(Witte-Blech)と呼ばれるものです.ヴィッテというのは人の名前で,旧ドイツ連邦鉄道のミンデン中央局(Bundesbahn-Zentralämter(BZA))の局長Friedrich Witteの名前に由来します.実は,この除煙板が最初に装着されたのが,徹底的に省コスト化,省部品化が図られた戦時形機関車52形だったのです.もうひとつの形(国鉄の大半の機関車のものと同じような形ですが,国鉄型よりボイラー方向に長い)を持つものは,ヴァグナー除煙板(Wagner-Blech)と呼ばれます.こちらもその名前の由来は人名で,旧ドイツ帝国鉄道における車両局長であり,統一規格機関車(Einheitslokomotiven)の父と呼ばれるRichard Paul Wagnerを記念してつけられたものです.ところで,ヴィッテ除煙板を上から見ると,ボイラーと必ずしも平行に装着されている訳ではなく,運転室側が若干狭まるように角度がついています.こうすることでボイラーとの間の空気の流れがさらに加速され,煙や蒸気によって運転室からの視界が妨げられるのを効果的に防いでいるわけです.
*6) 以下,Selketalbahnのサイトが紹介している狭軌用機関車の軌間幅毎に割り当てられている製造番号です.(1970年以降DRにおいて採用.)

  • 1000 - 1999 :  750 mm
  • 2000 - 2999 :  900 mm
  • 3000 - 3999 :  600 mm
  • 4000 - 4999 :  750 mm
  • 5000 - 6999 : 1000 mm
  • 7000 - 7999 : 1000 mm

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