Sunday 23 March 2014

ガンやリューマチ治療に応用される時間生物学

2012年に中部ドイツ放送によって制作され,先日,ARTEで再放送された番組"Chronobiologie"の内容から特に興味を引かれたものをご紹介します.

なお,時間生物学について,くわしくはwikipediaなどの当該項目をご覧ください.
  • リューマチの原因物質を分泌時にブロック
実践しているは,ベルリンのチャリティー病院のフランク・ブットゲライト医師(Dr. Frank Buttgereit).従来,リューマチの痛みを押さえる薬は起床時,つまり朝の6時から8時ごろ服用しますが,その効果があらわれるまで患者は痛みを我慢しなければなりません.ブットゲライト医師は,リューマチの痛みを引き起こす原因物質が分泌されるのは深夜2時であることから,その時点でその作用を遮断してしまう薬を開発しました.といっても,薬の成分はそれまでのものと変わりませんが,2時になると成分が溶け出して作用を開始するように特殊なカプセルに入れ,患者に就寝前に服用させたのです.実際にこの治療を受けた女性の例が紹介されていましたが,それまでは朝,痛みで指を動かせなかったのが,治療を受けてからまったく問題なく日常の生活を送ることができるようになったとのことでした.
  • 体内時間のリズムを使ってガン細胞のみを破壊
実践しているのは,パリ近郊ヴィルジュイフにあるポール・ブルッス病院のフランシス・レビ医師(Dr. Francis Lévi).人間の細胞にはそれぞれ生物時計が組み込まれていて,健全な状態にある場合,それらは光の中の特に波長の短い青い光に反応して覚醒し,それを受けなくなると休養します.しかし,ガン細胞の生物時計は壊れていてそのようなリズムはもはや存在しなくなってしまいます.そこで,レビ医師は,患者の体内時計に合わせた化学療法を実施してみました.つまり,使用する抗ガン剤の成分は従来どおりですが,健全な細胞が休養しているときにのみ抗ガン剤を注入するようにしたのです.その結果,健全な細胞は抗ガン剤による破壊をまぬがれ,ガン細胞のみが破壊されました.臨床例として紹介されたのは38歳の女性の患者でしたが,彼女に脊椎ガンが発見されたのは5年前.すでに肝臓にも転移していて,彼女の命は12ヶ月も持たないだろうとさえ思われましたが,レビ医師の治療を受けた結果,肝臓のガンは完全に消滅し,現在も元気に仕事をされているとのことでした.

また,糖尿病も体内時計の狂いから生じる場合もあると言えるそうです.というのは,例えばI型糖尿病は血液中のブドウ糖濃度を一定に保つインシュリンの枯渇に起因しますが,インシュリンと眠りのホルモンであるメラトニンは同時に分泌されるものではなく,片方が分泌されるときにはもう片方の分泌は抑えられます.そこで,もし,夜間でも照明やパソコンの画面などから光(特に後者の画面が発するような生物時計が反応し易い青い光)を浴び続けるとメラトニンの分泌は抑えられ,さらに食物を摂取し続けた場合,絶えずインシュリンの分泌が促されるようになり,最終的にはその枯渇を招いてしまうというわけです.

最後に,時間生物学によると,人間の体内時計はそれぞれ異なるそうですが,ドイツではベルリンのシュプリット-フェンネルト老人ホーム(Seniorenheim Splitt-Fennert)のように,一律の生活リズムで拘束せずに個人の体内時計を尊重した生活を送らせる老人ホームもあるそうです.


番組データ:

原題 :
- ドイツ語版:Chronobiologie - Wie tickt der Mensch,
- フランス語版:Chronobiologie L'Homme et ses rythmes
制作:中部ドイツ放送(MDR)
制作年:2012年
時間:53分
ARTEにおける放送日(再放送):
- ドイツ語版:2014年3月14日午前3時10分
- フランス語版: 2014年3月14日午前3時45分


ところで,体内時計で思い出したのが,江戸時代の時間です.日の出を明六つ,日の入りを暮六つとして,その間を6等分していたから,季節によって一刻の時間は異なりますが,考えてみればそのほうが人間の体内時計に合っていたといえそうです.おまけに当時はもちろん,夜でも画面から青い光を発して体内時計を狂わしてしまうコンピュータなどもありませんでしたし...

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