Tuesday, 25 March 2014

史上最多を記録した2013年のアメリカの冤罪判明数

2月4日付電子版Le Mondeに掲載された"Un nombre record d'erreursjudiciaires aux Etats-Unis en 2013"によると,過去25年において冤罪が判明したおよそ1300名の受刑者のうち87のケースが2013年中に判明したものだったそうです.これは,2009年以降,最も多い件数で,それらはNational Registry of exonerationsというミシガン大学の法学部やオースウェスタン大学のCentres on Wrongful Convictionsの協力を得て実施された調査によって明らかにされたものでした.(詳細なレポートはこちらからダウンロード可能です.)

なお,興味深い事実としては,これらの冤罪が判明した決め手がDNA鑑定結果だったものは比較的少なく,むしろ,38%という数字が示すように,司法当局による再捜査によるものが多数を占めています.この結果について,調査に係わったGros教授は,「 近年,多くの警察官,検察官,裁判官,弁護士,さらに国民全体が冤罪の危険性を認識するようになったため」と言っています.

このアメリカにおいて冤罪が発生する原因のひとつとして有罪答弁制度があります.(訳注:被告が起訴事実を認めれば,直ちに量刑の言い渡しへと進む制度.)つまり,「無実であっても,被告が,さらに重い刑を,場合によっては死刑を言い渡されるのを恐れて起訴事実を認めてしまうケースがある」と同教授は,アメリカにおける有罪判決の95%は有罪答弁によるものであることを強調しつつ,述べています.

冤罪が判明した具体的な例として,ミズーリ州のReginald Griffin氏のケースがあります.彼の冤罪も25年に亘る再審査の結果,やはり2013年に判明し,米国全体で死刑を言い渡された被告の無実が判明した件数は143になりました.彼が誤った有罪判決を受けた原因は,2013年に冤罪が判明した他の56%のケース同様,嘘の証言によるものだったのです.また,誤った証言によるケースは,38%,そして捜査官の適切さを欠いた捜査手法も冤罪を発生させる要因の一つのようです.

以上が, 当該記事の内容ですが,日本でも冤罪は発生しています.そうしたケースを取り上げた報道によると,日本の司法制度の場合,容疑者は密室で言葉による拷問とでも呼べるような取り調べを受け,意に反して容疑を認めてしまったために罪に定められたという事例が多いようです.江戸時代以来の自白を強制する手法ですが,人間の心理の弱さを突くという点においては,アメリカの有罪答弁制度と根本的な構造に変わりはなさそうです.つまり人権が十分に尊重されていないのです.とはいえ,アメリカにはこうした研究機関を巻き込んでの冤罪究明のシステムが存在するというのはうらやましい限りです.日本での実現はほぼ永久に不可能でしょう.

ところで,冤罪による死刑の執行は司法の最大の罪と言ってよいと思いますが,以前,目にした電子版Die Weltの2013年12月12日付"Bei Hinrichtungen macht Japan kurzen Prozess"は,執行予定時刻をその僅か数時間,場合によっては数分前に受刑者に伝える日本の死刑の執行方法についてアムネスティー・インターナショナルが非人道的と強く非難していると伝えていました.なお,下の地図は,同団体が公開している死刑制度が存在している国と執行数を示したものです.(Keyをクリックすると凡例が示されます.)この地図を見ても判りますが,執行数で断然トップはなんといっても中国の8000人です.(Cf. 2014年3月25日付manager magazine"China Hinrichtungsstaat Nummer eins"


最後に,先日,日瑞国交樹立150周年を記念して日本を訪れたスイスのブルクハルター連邦大統領は,日本の岸田外務大臣と会談した際,日本においても死刑制度が廃止されることを希望している旨を伝えたそうですが,別に死刑制度を擁護するわけではありませんが,日本人の精神性,民族性から視た場合,暫くは廃止されることはないでしょう.恐らく永遠に.*1)(Cf. 2014年2月4日付電子版Neue Luzerner Zeitungの記事"Burkhalter: Japan soll Todesstrafe aufgeben")



*1) 日本人が特別野蛮獰猛な民族だからというわけでは,もちろんありません.思うに日本人の恐らく99%前後が実質的に心霊信仰(御霊信仰 = Spiritualism)を信じています.つまり,日本人の殆どは,亡くなった人は別の形(例えば,魂などとして)存在し続けており,生前の記憶,意識や感情を持ちながら自分が生存に所属していたこの世界を関心を持って観察しているという考えているのです.そうした信仰に従えば,もし理不尽な状況によって招かれた死によってこの世を去らざるを得なかった場合,死者の魂は,その無念な感情,ようするに怨念を持ち続け,その結果この世に暮らす人々に好ましくない影響さえ及ぼしかねません.死刑には,死者のこうした怨念を鎮める効果が期待されているのではないでしょうか.日本人の死刑制度に対する姿勢を理解するには,このような彼らの宗教性も考慮されるべきでしょう.

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