Wednesday, 4 September 2013

シリア内戦への西側諸国による軍事介入の特異性

パリ政治学大学のBertrand Badie教授へ行われたアルジェリアのEl Watan紙の記者によるインタビューからの抜粋をご紹介します.(9月3日付El Watan«Le bilan des interventions est extrêmement négatif»より)

  • 今回実施される可能性のある軍事介入の特異性

    本来,軍事介入は介入対象地域の状況に変化をもたらすもの.今回,西側列強は対象国の体制は維持しつつ行動を起こしたいと言っていますが,こうした単に限定的な攻撃のみという行動は世界歴史の中で先例を見ません.ということは,今回アメリカなどによって計画されている事は軍事介入などというものではなく,むしろ制裁措置と呼ぶべきものであり,仮にそれを実行したからといって,物事に根本的な変化が生じるとは到底思えません.攻撃が大規模で行われた場合,むしろ現存の体制の振る舞いがさらに過激化する懸念があります.すなわち,体制内部で過激派が穏健派を抑えて主導権を把握してしまう可能性があるのです.また,戦略的に見ても,市民保護と(体制の)制裁を同時に実施することは事実上不可能と言わざるを得ません.
  •  国際協調の法的枠組みの崩壊

    国連における一致を見ない軍事行動は,国際協調の法的枠組みに重大な打撃を加えます.それに関連してBadie氏は次の三点に注目します.
  1. 国際協調の尊重が大きく後退する.

    こうした形で軍事行動がとられた場合,当然この問題における国連の影響力低下を招きます.

  2.  過去の軍事介入は機能しなかった.

    イラク,アフガニスタン,そしてソマリアなど,過去の例において軍事介入が所期の目的を果たすことができなかったことは事実です.もちろん,イスラエルとパレスティナ間の紛争もその例に含まれます.こうした経験から,西側諸国においては軍事的手段による制裁という行動が議論されるようになっています.

  3. 西側列強の国際協調からの実質的離脱が進む.

    今回シリア内戦では,ロシアや中国の反対により国連の下での一致しての軍事行動が事実上不可能となっていますが,このように国際社会が一致して問題の解決に当たるという枠組みが崩壊しつつある中で,西側列強は,国連の外で行動する権利を主張するようになりつつあります.しかしながら,各国の世論はそれに対してむしろ反対の立場を示していることは,英国議会の例から明らかです.逆に,アラブの春以降のアメリカの中東における影響力の拡大を恐れるロシアなどが提唱する他国の内政への不干渉は,すでにシリアの周辺国である現在のエジプトの軍最高評議会議長アブデル・エル・シシ氏の立場でもあります.
  • 攻撃は,イラン政府に対する警告

    今回の軍事行動には,核開発を続けるイランへの西側諸国からの強い警告という意味ももちろんあります.*1)
  • オランダ大統領の好戦的姿勢の背景

    ひとつにはオランダ大統領個人の性格もありますが,ここ数年のフランスの外交政策の変化も挙げられます.すでにシラク大統領の任期末から始まっていましたが,サルコジ大統領の任期中,そしてその後任の現大統領と,それまでの伝統的な他国への非依存という独自の外交路線に変わって,よりアメリカ寄り,しかもとりわけサルコジ大統領に見られたような新保守主義へのある意味における傾倒といった傾向が見られるようになりました.すなわち,世界秩序の変更のための軍事行動の是認されるといった見解です.逆に他のヨーロッパ諸国であるドイツ,英国,スペイン,イタリアなどには,そうしたフランスへ追随する姿勢は見えません.すなわち,これらの国々姿勢は2003年のイラク戦争のときから大きく変化しているということです.



*1) 議会の説得に努めているオバマ大統領は,攻撃を実行しなければ,イランやヒズボラ,さらに北朝鮮に誤ったメッセージを送りかねないと警告しています.(Cf. 4日付L'Expressの"Syrie: Obama gagne du terrain au Congrès en agitant la menace iranienne".なお,この記事によると,ABCとワシントンポストがアメリカ市民に実施したアンケートによると59%がトマホークによる攻撃には反対しており,また,Pewが実施したものによると48%が反対の立場を示しているとのことです.また,この記事によると,反政府軍は過去二日間において化学兵器を搭載した政府軍車両三台が移動中で,近いうちに再びこれらの兵器を用いた攻撃が実施される可能性があると発表したそうです.

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