2012年11月13日付ポストでお伝えしたように,アメリカが,将来サウジアラビアやロシアを抜いて世界最大の産油国になる公算が大きくなりつつあるようです.そう報じたのはスイスの日刊紙11月12日付Neue Zürcher Zeitungの記事"Amerikanische Prärie vor saudischer Wüste"で,2008年から2012年の間にアメリカにおける産油量は30%増加しているというBP Statistical Review of World Energyのデータを紹介しています.同じ記事は,また,IEAの2020年にはアメリカはサウジアラビアを抜いて世界一の産油国となるという予測も伝えています.近年,このようにアメリカにおいて原油産出量が飛躍的に増大したのは,フラッキングによるシェールオイル採掘の技術が開発されたからですが,もしアメリカがエネルギーを自給できるようになれば,中東から原油を輸入する必要がなくなり,そうなればアラビア湾周辺に艦艇を派遣する必要なくなるだろうと多くの専門家はみています.つまり,アメリカのエネルギー安全保障にとって大きなプラスとなるわけです.(EIAの予測によると,2013年において天然ガスと石油を合わせれば,アメリカは世界最大のエネルギー産出国になるようです.)
しかし,問題がないわけではありません.ひとつは,フラッキングによる採掘には従来の採掘に比べ多額の費用がかかります.そのため,継続してシェールオイルを採掘するには,採算に見合う程度の原油価格が維持される必要があります.1970年代からアメリカでは原油の輸出が禁止されていますが,もし,こうした状況で多量のシェールオイルが北アメリカの市場に供給されれば,当然価格の下落を招き,新たな採掘は採算に見合わないということになってしまいます.もっとも,目下,ワシントンでは原油の輸出禁止を撤廃させるためのロビー活動が盛んに行われているそうですが.そして,もうひとつは,アメリカ各地で巻き起こっているフラッキングによる採掘に反対する市民たちの動きです.そうした動きが,最近ではカルフォルニア州などでも起きているようですが,(Cf. "In Kalifornien wird über Fracking gestritten", Neue Zürcher Zeitung, 2013/7/30)今後,どのような展開になるのか気になるところです.
なお,冒頭で紹介した記事には,1965年以降の国毎の原油生産量と消費量が示された地図が掲載されていますが,そこに世界の産油国と消費国のそれぞれトップ5が挙げられていました.以下にそれらの国を記します.
産油国:
しかし,問題がないわけではありません.ひとつは,フラッキングによる採掘には従来の採掘に比べ多額の費用がかかります.そのため,継続してシェールオイルを採掘するには,採算に見合う程度の原油価格が維持される必要があります.1970年代からアメリカでは原油の輸出が禁止されていますが,もし,こうした状況で多量のシェールオイルが北アメリカの市場に供給されれば,当然価格の下落を招き,新たな採掘は採算に見合わないということになってしまいます.もっとも,目下,ワシントンでは原油の輸出禁止を撤廃させるためのロビー活動が盛んに行われているそうですが.そして,もうひとつは,アメリカ各地で巻き起こっているフラッキングによる採掘に反対する市民たちの動きです.そうした動きが,最近ではカルフォルニア州などでも起きているようですが,(Cf. "In Kalifornien wird über Fracking gestritten", Neue Zürcher Zeitung, 2013/7/30)今後,どのような展開になるのか気になるところです.
なお,冒頭で紹介した記事には,1965年以降の国毎の原油生産量と消費量が示された地図が掲載されていますが,そこに世界の産油国と消費国のそれぞれトップ5が挙げられていました.以下にそれらの国を記します.
産油国:
- サウジアラビア
- ロシア
- アメリカ
- 中国
- カナダ
- アメリカ
- 中国
- 日本
- インド
- ロシア
以上が記事の要約です.ところで,今や,アメリカを抜いて世界一の原油輸入国となった中国も,世界第三位の消費国日本も中東の原油に大きく依存する状況は今後も続くと思われますが,世界のエネルギー分野でのパワーバランスにおけるアメリカのこうした大きな変化は,関係がこじれにこじれている両国にどのような影響を及ぼすのでしょうか.仮に将来,アメリカが中東海域へ派遣する艦艇の規模を縮小,あるいは中止した場合,中国海軍の艦艇が海上交通路の防衛を行うようになるのか,それとも日本の自衛艦がその任に当たるのか,少なくとも両国がこの分野で協力し合うことは現状では考えにくいでしょう.もし仮に中国の軍事力が中東海域の安定を維持するようになった場合の日本はどのような行動をとるのか気になるところです.ただ,こうした状況は,特定秘密保護法に類する法律や規制の制定も含め日本の軍事力増強を目指す政治家や官僚たちにとってうってうけの口実を提供するでしょう.そして,もちろん原子力発電所再稼働を支持する人たちにも.本来,先進諸国としては際立って低い労働効率および生産効率を改善し,エネルギー消費を低く抑えることが何よりも先に取り組むべき課題だと思うのですが,こればかりは日本人が無意識に共有する農耕村落共同体的民族性あるいは本能が見えない障壁となっているため,ほぼ不可能といえそうです.
いずれにせよ,エネルギー輸出国に転換しうる可能性を持つアメリカは,TPPなどの経済連携協定の交渉において特に日本のようなエネルギー弱国に対する優位性を高めることは大いに考えられます.(何となく,上述のEIAのデータはそのために発表されたような感もなきにしもあらずですが.)
最後に,EIAのデータを基に作成されたこちらの地図を見ると中国も相当量のシェールガスを埋蔵しているようです.(各円グラフの中心部の濃い茶色は天然ガスの埋蔵量,周辺部の薄い茶色は(フラッキングによる)採掘が可能とされるシェールガスの埋蔵量です.単位は10億m3です.なお,この地図が掲載されているサイトはこちらです.)
関連ポスト:
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