Sunday 11 June 2017

萬鐡五郎が模写したゴーギャンの黄色のキリスト

下の二枚はGoogleによるところの非営利目的での再使用可の写真です.明らかにこれを模写したものと判る作品(1912年ごろの木版画,岩手県立美術館蔵)が,先日訪れた盛岡の岩手県立美術館の萬鐡五郎展で展示されていました.これまで,別になんとも感じなかったゴーギャンの描くキリストが,萬の白黒の版画になって,何故か心に迫ってきました.それは,その表情のせいです.キリストの磔刑図と言うと,伝統的に,いかにその苦悶の表情を表現できるかが作者の腕の見せ所と相場は決まっていますが,萬が模写したゴーギャンのキリストは,そうではない.どこか,穏やかささえ感じさせるものです.その穏やかさ,あるいは安らぎが,萬の作品では一層強調されているような気がしました.まさに「すべてが終わった」(口語訳新約聖書ヨハネによる福音書19章30節)という安堵感,充足感,または満足感に浸っていると言ってもよさそうな独特のキリスト像です.



なお,葉山の神奈川県立近代美術館でも,『没後90年 萬鐵五郎展』が7月1日から9月3日迄開催されます.

そういえば,萬が高校生のころ,当時,教材として使われていた画集にあったモチーフを模写した作品だそうですが,同じく展示作品の『老婆』の面立ちが杉浦日向子さんの『百物語』に収録されている「猫と婆様の話」に登場する老婆のそれに似ているなとも思いました.

岩手県立美術館

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