Friday, 3 April 2015

インディアナ州議会が可決したある法案でアメリカ中が大騒動に

法案の名称は,"Religious Freedom Restoration Act".この名前を見ただけではあまりよく判りませんが,具体的には,自らが信じる宗教信条に従って行動する権利を保証する法律で,性的指向による差別すら認めてしまう法律なのです.インディアナ州は知事も議会与党も共和党ですが,この法律が可決された背景には,彼らの「今や,伝統的宗教的倫理観が危機的状況に置かれている」という共通の認識があったことも事実です.

さて,この法律の可決を受けて,インディアナ州のあるピザ屋さんの共同経営者の1人がTVのインタビューに答え,キリスト教の倫理に従っている自分たちは,ゲイのカップルから彼らの結婚披露宴へのピザの配達を依頼されても断固拒否するときっぱり言いきったことからアメリカ中を巻き込む騒ぎが持ち上がり,上記のピザ屋が顧客のひんしゅくをかって閉店に追い込まれたのを皮切りに,他の州の知事や名だたる大企業が一斉に猛反発したのです.具体的には,コネクチカット,ヴァーモント,ワシントン,ニューヨーク州の知事達は,州の全職員にインディアナ州への旅行の禁止を通達,さらにニューヨーク,サン・フランシスコ,シアトル,ポートランド各市の市長も同様の通達を市の職員に出しました.また,首都インディアナポリス市のGreg Ballard市長(共和党)でさえ,「私たちの町は,これまで多様性を受容し,尊重して来たからこそ,今日の繁栄がある」という声明を出しています.企業では,シリコンバレーのSalesforce社のCEO,Marc Benioff氏は全社員にインディアナ州への出張を禁止を通達,また,5月にインディアナポリスで開催予定のIndy Big Data会議も参加企業はボイコットする意向を示し,Nike, Levi Strauss, PayPalも,インディアナ州ではビジネスをしないと云っています.さらに,自らもゲイであると云っているアップルのTim Cook氏は"Washington Post"に「このような法律は,我々の国の基盤を成している原則に完全に反している」という文章を寄せましたが,著名な投資家のWarren Buffet氏やマリオネットホテルチェーンのCEO,Arne Sorenson氏もCook氏の考えへの賛同を表明しました.そして,インディアナ州の主要な大企業9社も州知事へ当該法可決に抗議する書簡を送っています.こうした動きは,他の分野にも波及し,NCAA(本部はインディアナポリス)とNBAも当該法への反対を表明.後者に所属する有名選手(例えば,Charles Barkley選手)は,インディアナ州で開催される予定のカレッジバスケットボールの決勝戦を別の場所で開催することを求めています.以下,有名な方々のTweetのうちの数件です.
以上,SPIEGELの4月2日付Widerstand gegen Anti-Schwulen-Gesetz: Shitstorm in Indianaからでした.(Cf. 同じくCharles Barkley zu Anti-Schwulen-Gesetz: "Sie verstecken sich hinter der Bibel") なお,当該法は音楽シーンなどにも影響を与えています.下はその一例.
最後に,この記事を読んで思ったことです.(ポスト自体が長くなったので,折り畳みます.)
他所の国のことでもありますし,問題となった法律の是非はともかく,それに対して大商人のお歴々が猛反発しているということが印象に残りました.自分たちの商いにとって損害を及ぼすかも知れないが,それを覚悟で信念に従う姿勢には好感を抱きました.日本では,落語の「井戸の茶碗」精神とでも言いましょうか.あるいは,同じく「文七元結」の中で長兵衛親方が50両のお金を与えて身投げしようとしていた文七を助けた精神とでもいいましょうか.金銭上の損得を抜きにして人として大切にしなければならない価値があるというのは誠のことだと思います.(もっとも今回の騒動は,賛成する側も反対する側もそれぞれ大切と考える価値観に従った故に起きたことのようですが.) 翻って,今日の我が国の趨勢を眺めるとき,そうした気概,あるいは矜持といったものが一切見あたりません.流れて来るニュースと云えば,やれ株が上がったの,景気が上向いたといった話題ばかり.日本中,漬け物屋と洋菓子屋だらけになるかと思う程です.(それぞれのご商売を中傷する意図はありません.両方とも私自身の生活においてなくてはならないご商売です.)

日本がアメリカに対して戦争を始めようとしていたころ,海軍出身の鈴木貫太郎侍従長(後に首相)は,「日本はこの戦争に勝っても負けても三等国に成り下がる」と漏らしていたそうですが,今や三等国以下でしょう.また,自ら「外道の戦法」と呼ぶ無謀で非合理な体当り攻撃を容認した大西瀧次郎中将(当時,第一航空艦隊長官)は,日本の降伏に際し自殺しましたが,その遺書には「日本人としての矜持を失う事なかれ」と記されていたそうです.鈴木元首相や大西中将が日本の現状を見たら何と仰られるでしょうか.

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