Wednesday, 31 July 2013

ほとんど飽和状態のヨーロッパの空の交通

7月30日付swissinfo.chの記事"Mehr Sicherheit und weniger Treibstoffverbrauch" によると,今や,ヨーロッパの航空路はほぼ飽和状態.欧州委員会は,今後10年ないし20年間に現在の交通量のおよそ50%の増加が見込まれていて,何の対応がなされない場合,カオス状態に陥ってしまうと危機感を強めています.

ヨーロッパの空の交通の安全を管理しているEurocontrolによると,現在, ヨーロッパ上空を飛行する航空機は毎日平均26,000機.そのうちの大半が,440ものヨーロッパの空港のいずれかから離陸,あるいはそれに着陸しているそうです.

それでは,今後増え続ける空の交通への対応策として何が必要かというと,現在,各国毎に行われている航空管制と飛行空域の一元化です.現在,EU域内の飛行空域は,100もの空域に分割され,60におよぶ各国の管制機関によって管制されています.そのため,たとえばチューリヒからブリュッセルへ向かう場合,パイロットは大きなカーブを描いて飛行しなければならないなど,各航空機は最短のコースを採ることができません.そのため,無駄な時間と燃料が消費されています.もし,ヨーロッパの航空管制と飛行空域を一元化できれば,直線の飛行コースを採ることが可能となり,その結果,欧州委員会に試算によると,平均で一回の飛行距離は42km短縮され,燃料もおよそ10%程度節約が可能になります.これにより,各航空会社では一年あたり50億ユーロもの経費削減が可能になり,それはまた利用客にも還元されることでしょう.

下の動画は,YouTubeに公開されているもので,24時間の世界の航空機の動きを1分に縮めて示しています.



これを書いたあと,ふと思ったのですが,日本の,特に関東の上空はアメリカ軍が制空権を握っているので民間機は勝手に飛行できないとのですが,そのために日本の民間機が強いられている経済的損失はさておき,もし横田基地にオスプレイが配備された場合,横田ラプコンと呼ばれるこの空域下に確かあったと思う天皇の墓(武蔵陵墓地)は大丈夫でしょうか.もっとも,万が一のことがあっても,今の日本とアメリカの関係は,実質的に大日本帝国憲法の第一条第三項の天皇という言葉をアメリカ合衆国に入れ替えて,それに従っているようなものでしょうから,何も変わらないでしょうが.しかし,その割には,政府も官庁も,何ら歴史的根拠のない神話を基にした紀元節を復活させたし,さらに,天皇の地位を,できるだけ昔の憲法で規定されているものに近づけるために憲法を変更しようとしているようですが...ところで,今日,8月1日はスイスの建国記念日です.少なくとも建国記念日については,スイスのほうが歴史的事実に基づいていて,日本のそれよりはるかにすっきりしているので,その点についてはスイスがうらやましく思えます.

Tuesday, 30 July 2013

ベアテ・シロタさんについての新刊書 - "Le dernier bateau pour Yokohama, Les Sirota : une odyssée politique et culturelle"

ウクライナ出身のユダヤ人ベアテ・シロタさんというと,日本国憲法の人権に関する条項の執筆したことで知られています.彼女は,東京音楽学校で教鞭をとっていた世界的ピアノ演奏者レオ・シロタ氏を父に持ち,日本で育ちました.そして,第二次世界大戦中はアメリカの大学で学び,戦後,憲法起草委員会のメンバーとして再び来日したのでした.*1)

昨年,2012年の12月30日,89歳で亡くなられましたが,彼女や彼女の両親について書かれた新刊書の存在を知り,早速求めました.フランス語で書かれていますが,興味深いことに,巻末に1889年の大日本帝国憲法と1946年の日本国憲法のフランス語訳が掲載されています.

フランス語を学ばれている方にお薦めしたい一冊です.(比較的平易なフランス語で書かれています.)

後ろに写っているのは,横浜の山下公園に係留されている氷川丸ですが,本書の内容とは関係ありません.

以下,本書のデータです.

著者:Michel Wasserman, Nassrine Azimi(共著)
(序文は,ベアテさんが執筆しています.)
書名:Le dernier bateau pour Yokohama, Les Sirota : une odyssée politique et culturelle
発行年:2013年
出版社名:Le Ver à Soie
ISBN : 979-10-92364-02-6

ところで,タイトルの『横浜行きの最後の船』というのは,以下のエピソードから付けられたようです.1939年,それまで両親とともに日本で暮らしていたベアテさんはアメリカのサンフランシスコ近郊のMills Collegeへ入学するため,両親に伴われてアメリカに向かいますが,1941年,両親は彼女をアメリカに残して日本に戻ります.その際に彼らがハワイから乗船した横浜航路の客船は,日米開戦のため,当時としては横浜行きの最後の船となりました.そして,両親と娘は,ベアテさんが1945年,敗戦後の日本に研究者として戻るまでお互いに会うことはありませんでした.つまり,親子の運命を別けてしまった船だったのです.



*1) 詳しくは,Wikipediaのベアテ・シロタ・ゴードンの項目をご覧下さい.

Monday, 29 July 2013

プルマン編成特別列車の旅 - レティカ鉄道ベルリーナ線

今年の8月18日にPontresina – Poschiavo - Tiranoの間で運行されるプルマンカー編成の特別列車の乗車券が,今ならSüdostschweizのサイトから通常より50%安い80スイスフランで購入できるそうです.くわしくは,こちらを参照ください.予定されている牽引機は,最近修復された電気機関車Ge 4/4 182"ベルニーナ・クロコダイル"です.*1)なお,当該列車についてのくわしい運行情報はレティカ鉄道のサイトのこちらのページをごらんください. さらに,ベルニーナ・クロコダイルについてのくわしい情報はこちらから.また,プルマン氷河急行については,レティカ鉄道のこちらのページをご覧下さい.(英語)(プルマン氷河急行は,ドイツ南西放送局の番組"Eisenbahn Romantik"で取り上げられています.)

ベルギュンのアルブラ鉄道博物館に展示されているGe 6/6 I形電気機関車407.シュミレーターを使っての模擬運転体験が可能.
アルブラ鉄道博物館の展示車両407の運転台で,実物の制御ハンドルを握ってアルブラ渓谷を進む15分間の模擬運転は迫力満点.
以前,Oberwaldで見かけたレティカ鉄道のプルマンカー.
同上


最後に,ヨーロッパ内の標準軌の本線を走る豪華列車のサイトをいくつかご紹介します.(予約は日本語のページからできますが,ツアープランについての詳しい情報は英語版をご覧下さい.)


英国:
Venice Simplon Orient-Express(日本語)
Venice Simplon Orient-Express(英語)
同名の列車を始め,British Pullman, Northern Belleを運行しています.

BELMOND BRITISH PULLMANN(英語)
SL牽引列車も運行されます.

Royal Scotsman(日本語)
同名の列車を含む,様々な列車の旅を主催しています.(ロイヤル・スコッツマンは,ドイツ南西放送局の番組"Eisenbahn Romantik"で取り上げられました.)

Raileurope(英語)
フランス国鉄の英国支社.上記の列車の予約が可能です.(日本語のページもあるのですが,上記の列車は記載されていないようです.)

ヨーロッパ及び世界各地:
The Luxury Train Club(日本語)
The Luxury Train Club(英語)
オーストリアの豪華列車Majestic Imperatorを運営する会社.世界中の豪華列車の予約が可能です.

DNV Tours(ドイツ語)
豪華客車から構成されるClassic Courrierを運行しています.

AKE-Eisenbahntouristik(ドイツ語)
伝説の国際特急ラインゴールド号でヨーロッパ各地を訪ねるパッケージ旅行を主催しています.

Skandinaviska Jernbanor Blue Train
(英語)
デンマークのヨーテボリとスウェーデンのウプサラを結ぶ豪華列車ブルートレイン.
なお,伝説の国際列車オリエント急行の車両6両が来年2014年4月からパリで展示されます.実際に展示された車両はこちらのポストで紹介しています.



*1) ところで,スイスの機関車の形式番号ですが,1992年に国際鉄道連盟の規格を考慮した新しいルールが導入されたものの,それ以前に製造された車両については,現在でも以前の形式番号が使われているようです.たとえば,Ge 4/4の場合,最初の大文字のGは狭軌粘着牽引を表し,次の小文字のeは電気機関車であることを表しています.そして,4/4は,分母が総軸数,そして分子が動軸数です.なお,よくみかけるSBBのRe 4/4のRは,高速(110km/h以上)での曲線通過が可能な標準軌用車両であることを示しています.(詳しくは,Wikipediaのこちらのページをご参照ください.英語版もあります.)

Thursday, 25 July 2013

スイス国鉄の急行ラインタール号用新車両RABe 511 / Regio-Dosto

ラインタール号は,チューリヒ,クール間で運行されている急行列車(Regio Express)です.最近新しく導入されたボンバルディア社製の二階建て車両に関する情報など詳しくは,こちらのページをご覧いただくこととして,以下,バードラガーツ,マイエンフェルト間で,たまたま見かけた折に撮影したものなど数枚をご紹介させていただきます.*1)

Heerbrugg駅で見かけた新しいラインタール急行の無料試乗の案内.普通,「試験走行」は,ドイツ語では"Probefahrt"でしょうが,スイスでは,"Schnupperfahrt"といいます.もともと"Schnuppen"という言葉は,クンクンにおいを嗅ぐと言った意味の方言(普通のドイツ語では"Schnuppern"ですが,こちらも口語)で,そこから「試しに〜してみる」という意味が派生したのだそうです.そのほか,"Schnupperlehre"などと使われます.

バードラガーツ駅に停車中のDosto.

車内.

バードラガーツ,マイエンフェルト間.マイエンフェルト付近.

同上


*1) スイスの車両の形式表示については,Wikipediaのこちらのページをご覧下さい.

ドイツSLのナンバープレートのセルフチェック数(Selbstkontrollziffer)とは

日本語では,自己検査数とでも言うのでしょうか.英語では,Self-check digitと呼ばれる数値と思われますので,とりあえず標記の呼び方にさせていただきます.

ドイツの蒸気機関車のなかには,下の写真の01 509(Pressnitztalbahn所有)のようにシリアル番号の次にさらに一桁の数字が付記されているナンバープレートを持つものがあります.以前から気になっていたのですが,最近,ドイツのSelketalbahnのサイト*1)に記載されている詳しい説明を読み,ようやくその意味を知ることができました.それによると,この数値はナンバープレートに表記されている数列(形式番号+製造番号+セルフチェック数)が正しいことを証明するためのものだそうです.

2013年4月27日,ドイツ,コットブスから運行されたポーランド,ウォルスチン行き特別列車の先頭を前補機として往路復路共に飾った01 509.ナンバープレートのシリアル番号(509)の右のダッシュの次の数値(8)がセルフチェック数.同機の後ろに僅かに見えるのは,同じ特別列車を牽引した伝説の駿足機18 201(往路は列車後部の後補機,復路では主務機).ウォルスチン駅にて.この写真も含めて,当日撮影した写真を数枚googleのギャラリーに載せてあります.ご興味がありましたらこちらからどうぞ.

もともと現在のような6桁のナンバープレート表記のシステム(EDV番号)*2)が導入されたのは,西ドイツ国鉄(DB: ドイツ連邦鉄道)においては1968年,そして東ドイツ国鉄(DR: Deutsche Reichsbahn)においては1970年ですが,その際に導入されたようです.その意味と算出の方法を正確に理解するにはSelketalbahnのサイトを参照されることをお勧めしますが,算出の方法を01 509を例にして説明しますと以下のようになります.なお,その際,元の数列がEDVで定められた6桁(プレート表記通りの01 0509)である必要があります.

1.数列(形式番号+製造番号)の各数値を右側から交互に2倍,1倍します.01 0509の場合,次にようになります.
  • 9 x 2 = 18
  • 0 x 1 = 0
  • 5 x 2 = 10
  • 0 x 1 = 0
  • 1 x 2 = 2
  • 0 x 1 = 0
2. 1.の計算で得られた個々の数値のうち,18や10のように二桁のものは,一の位と十の位の数値に分解します.つまり,18→1と8,10→1と0という具合です.

3.  2.において分解された数値のうち,元の数値が十の位のもの,この場合は元のナンバープレート表記における9から得られた1と同じく5から得られた1を使って6桁の数列を作成します.なお,計算の結果が一桁のものは0を置きます.すると以下の数列が得られます.(1.の計算結果と比較するために縦書きにします.)
  • 1
  • 0
  • 1
  • 0
  • 0
  • 0
4.1.の計算結果から二桁となったものの一の位の数値を抜き出し,もうひとつ別の数列を作成します.その際,1.の計算結果の中で一桁となった数値も数列に加えます.
  • 8
  • 0
  • 0
  • 0
  • 2
  • 0
5.3.と4.で得られた数値をそれぞれ合計します.3.の合計数は2,4.では10となります.

6.5.で得られた二つの数値をさらに合計します.

7.6.で得られた数字12(2 + 10)とこの数字より大きく且つそれに最も近い10の倍数(12の場合は20)の差,つまり01 0509では8(20 - 12)がセルフチェックディジットというわけです.

ここで,ドイツの蒸気機関車が好きな良い子の皆さんに問題です.上記の説明を参考にして,試しに,私の手元にある雑誌"LOK Magazin"の2012年10月号の表紙を飾っている01 0523のセルフチェックディジットはいくつでしょうか.答えは,*3)をご覧下さい.

なお,この01.5形式ですが,もともと旧東独国鉄の機関車で,老朽化した01に,ボイラーを高性能のものと交換,ボイラー上部構造物全体を箱形のカバーに収納,除煙板を大型化するなどの改造を施したマシンですが*4),特徴的なエプロン部やアフリカ像の耳のような除煙板*5)などのせいで,太めのボイラーにも拘らずなかなかエレガントな印象を受けます.主な性能諸元としては,2'C1' h2,動輪直径:2000 mm,最高速度:130 km/hです.ところで,やはりドイツやオーストリア各地で特別列車を牽引しているオーストリア鉄道歴史協会所有の動態保存機01 533のナンバープレートには,セルフチェック数は表記されていません.

そういえば,以前ノイエンマルクトの蒸気機関車博物館で観た狭軌用タンクマシンのナンバープレートにもセルフチェックディジットがついていました.すでに以前のポストに載せましたが,下の写真のマシンです.

ドイツの狭軌用機関車の中で一番気に入っているタイプ.現存する蒸気機関車の中で,宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』に登場する異次元列車の牽引機としてもっともふさわしいと勝手に思っております.先日,元気に活躍している姿を一目観ようとドレスデン近郊のDöllnitzbahnを訪れたのですが,仲良くなった地元の男の子と一緒にOschatzの駅でカメラを構えてお目当ての列車を待っているとなんと牽引していたのはディーゼル機.99は運悪く故障してしまったため,ディーゼル機関車による運行となったとのことでした.

6桁の数列にさらにダッシュ付の0が付記されているということは,まさしくEDV番号なのですが,セルフチェックディジットが0になるのはどのような場合でしょうか.なお,ドイツSLの形式番号のうち,99は狭軌用機関車に割り当てられた唯一の形式番号ですが,製造番号が1562なので軌間幅750 mm用機関車です.*6)

では,まず,このマシンのセルフチェックディジット,0が上述した計算で得られるかどうか確認してみましょう.すると,手順3.では,981064,同じく4.では010100が得られ,それぞれの合計数は,28,2です.そして,さらにこれを合計すると30になります.このように二つの数値の合算値自体が10の倍数になる場合,セルフチェックディジットとして0が表記されます.

さらについでなので,やはり狭軌用機関車である99 1789のセルフチェックディジットの9も確認してみましょう.

ドレスデン近郊のLössnitzgrund保存鉄道の少々ごつい印象のタンクエンジン99 1789.Radebeuil付近で撮影.製造番号からやはり750 mm軌間用の機関車であることがわかります.余談になりますが,このようにザクセン州は,まさに狭軌保存鉄道のパラダイス.同州は,これらの動く観光資源や関連観光施設のネットワーク「蒸気機関車街道」(DAMPFBAHN-ROUTE)を積極的に宣伝して観光客誘致に努めています.

例の計算の結果,二つの数列の合計数はそれぞれ38と3になるので,さらにそれを合算して得られる数値は41.それより大きい10の倍数のうち最小である50との差は9なのでやはりこちらも合っていますね.当たり前ですけど.

なお,もっと練習問題が欲しいと言われる向きは,例えばハルツ狭軌鉄道所属の機関車のナンバープレート表記からセルフチェックディジットを算出してみるとよろしいでしょう.(なんだか鉄道ファン向けのSUDOKUみたいですが.)以下,同鉄道のセルフチェックディジット付きの機関車の製造番号を記します.(計算される際には,それぞれの左側に狭軌用機関車を示す形式番号99をつけることをお忘れなく.)
  • 5906
  • 6001
  • 6102
  • 7234
  • 7245
  • 7237
  • 7240
 回答は,ハルツ狭軌鉄道のページでご確認ください.





*1)こちらのサイトでは,当該ページ自体のアドレスが表示されないため,リンク先ページ左側のナビゲーションバーの中から次の順序で当該ページへお進みください.
"Triebfahrzeuge" → "Baureihe u. a. → 本文内の"Begriffe"下のリンク"Selbstkontrollziffer".さらに詳しい説明は,"Selbstkontrollziffer"内のリンク先の"mehr Details zur Berechung der Selbtkontrollziffer"に記載されています.ところで,"Baureihe u. a."下の各ページにはドイツの動力車のナンバープレート表記についてとても詳しい説明が提供されています.
なお,セルフチェックディジットは,もともと国際鉄道連盟による車両ナンバーシステムの中で設けられたものなので,Wikipediaの当該の項目を読んだほうが手っ取り早く理解できますね.後で気がつきましたが.
*2) セルフチェックディジットを副んだElektronische Datenverarbeitung(電算処理)番号は,入力ミスなどを防ぐために導入されたのでしょうが,西ドイツの連邦鉄道においては,3桁の形式番号+3桁の製造番号(例,012 077-4),東ドイツ国鉄においては,冒頭で紹介した01 509-8のように2
桁の形式番号+4桁の製造番号でした.なお,EDV番号については,こちらのポストをご参照ください.
*3) 答えは,9です.こちらの写真で確認されてください.
*4) 詳しくはWikipediaのDR-01.5などをご参照ください.なお,それによると,01 0509の改造前のナンバーは01 143で,製造年は1935年,そして,01 0509へと改造されたのは1963年だったとのこと.
*5) ドイツの蒸気機関車の除煙板というと,もっとも普及しているのがこうした形を持ったヴィッテ除煙板(Witte-Blech)と呼ばれるものです.ヴィッテというのは人の名前で,旧ドイツ連邦鉄道のミンデン中央局(Bundesbahn-Zentralämter(BZA))の局長Friedrich Witteの名前に由来します.実は,この除煙板が最初に装着されたのが,徹底的に省コスト化,省部品化が図られた戦時形機関車52形だったのです.もうひとつの形(国鉄の大半の機関車のものと同じような形ですが,国鉄型よりボイラー方向に長い)を持つものは,ヴァグナー除煙板(Wagner-Blech)と呼ばれます.こちらもその名前の由来は人名で,旧ドイツ帝国鉄道における車両局長であり,統一規格機関車(Einheitslokomotiven)の父と呼ばれるRichard Paul Wagnerを記念してつけられたものです.ところで,ヴィッテ除煙板を上から見ると,ボイラーと必ずしも平行に装着されている訳ではなく,運転室側が若干狭まるように角度がついています.こうすることでボイラーとの間の空気の流れがさらに加速され,煙や蒸気によって運転室からの視界が妨げられるのを効果的に防いでいるわけです.
*6) 以下,Selketalbahnのサイトが紹介している狭軌用機関車の軌間幅毎に割り当てられている製造番号です.(1970年以降DRにおいて採用.)

  • 1000 - 1999 :  750 mm
  • 2000 - 2999 :  900 mm
  • 3000 - 3999 :  600 mm
  • 4000 - 4999 :  750 mm
  • 5000 - 6999 : 1000 mm
  • 7000 - 7999 : 1000 mm

Tuesday, 23 July 2013

『アベノミックスと日本の防衛政策における優先事項』 - スイス国際関係及び安全保障研究所

先日の参院選挙の結果について,何か面白い解説記事が無いかと思い,フランスやドイツ,そしてスイスの主要なメディアサイトを眺めてみましたが,これといって目に止まったものはありませんでした.ドイツでは,"Die Welt"が経済記事として自由民主党の勝利を扱い(cf. "Nach der Wahl in Japan bleibt der Jubel aus"),その中で,シティグループのエコノミストのインタービューを引用しながら,持続的な経済成長のため刺激策が不足しているといいながらも,ドイツの投資家も日本を投資先として検討できるかもしれないなどと書いています.同じくドイツの"Spiegel"も,7月21日付電子版の"Erfolg für Japans Regierung: Abes Koalition gewinnt Oberhauswahl"でごく簡単に伝えたのみ.*1)(なお,同誌は,福島第一原子力発電所の原子炉の汚染水が海に流れ出していたというニュースは,しっかり伝えていました."Fukushima: Radioaktiv kontaminiertes Wasser ist ins Meer gelangt"系列誌の"Manager Magazine"の電子版の"Abes Koalition gewinnt die Wahl in Japan"は,同誌の性質上経済的視点から書かれたもので,果たして構造改革が進展するかなどといった内容.なお,同誌サイトに掲載された"Droht das Abegeddon?"は,選挙前7月19日付の記事ですが,結論としては安倍内閣が行っている市場への大規模な資金投入により短期的には経済は上向くだろうが,農業分野や年金制度を対象とする,支持層からは歓迎されない構造改革は先送りされるのではないか.そうなれば,結果としてさらに国の負債は増加する.安倍首相は構造改革よりもむしろ憲法改定に積極的に取り組むのではないか.それは東アジアのさらなる不安定化を招くだろう.スイスのUBS銀行のアナリストAlexander Friedmanは,こうした日本が将来置かれかねない状況をハルマゲドンならぬ"Abegeddon"(アベゲドン)という言葉で表現している.

ところで,冒頭にフランスのメディアにも面白い記事が無かったと書きましたが,それでも"L'EXPRESS"の記事"Japon: Shinzo Abe remporte le Sénat et tous les moyens de sa politique"の中でひとつ気になったことがありました.安倍内閣になってから防衛予算が増額されたというもので,そういえば,そんなニュースもあったっけと思い出しながら,それについての解説はないものかとあちこち眺めていると,スイスの連邦工科大学(ETH)内の国際関係及び安全保障研究所(ISN)の研究員による短い記事が目に止まりました.判り易い英語で書かれていて,論理も至って明解.以下リンクです.内容は,安倍内閣の保守的日本の再生への取り組みは無視出来ないが,今回の防衛予算の増額はそれを反映したものかというとその可能性は低いというもの.とはいっても,今回の選挙において首相の所属政党が勝利し,結果的に憲法改訂へのワイルドカードを手にした場合,そうも言えなくなる可能性もあることも最後に書かれていました.(当該記事の日付は,2013年6月27日.)その他にも興味深い記事がいくつかあったので,リンクを載せておきます.
ご参考迄に,"Abenomics and..."の大まかな内容を以下に記します.

今回の日本の防衛費の増額は,軍事的に強い国を目指すためという理由によるものなのか,そして,それは経済の再生が成功した時点で継続的に実施されるのだろうかというと次の三つの理由から疑問がある.

一つ目は,今回計上された防衛予算は,現行の防衛政策を遂行して行くにあたって必要な額と思われるもので,さらに,防衛費の対GDP比1%の枠は簡単にははずされないだろうというもの.

二つ目として,中国を始めとする対アジア防衛政策における予算配分を見る限り,自衛隊を増強して周辺国からの脅威に対抗する姿勢は見えにくい.実際,予算の増加からみた場合,むしろ国土交通省に属する海上保安庁に向けられた予算の増額のほうがおよそ40%と顕著であり,特に那覇の第11管区海上保安本部に割り当てられた予算の額が目立っている.
 
さらに,一つ目の理由に関連することだが,米国の戦略国際問題研究所(CSIS) のAsian defense expendituresなどが分析しているように,現在,防衛予算のうち隊員の人件費は実にその45%にのぼっており,そのため研究開発や武器の調達はおろそかにされ,こうした状況が継続すれば従前の防衛力を維持すること自体が困難になるだろうといわれている.こうした構造を修正するために安倍内閣は隊員の人件費をおよそ4.5%削減したものの,根本的な問題を解決しようとする姿勢は見えない.これらのことから,日本の対アジア防衛政策における現今の周辺国からの脅威への対抗策としては,自衛隊よりむしろ直接的に関係する海上保安庁の警備力の充実強化を進めていると判断できる.

最後に三つ目の理由として, 今年6月,安倍首相は訪日したフランスのオランド首相と原子力技術研究に加え,防衛装備品開発においても協力することで同意したが,これも防衛費の増額との関連性は薄い.同様の協定はすでに民主党の野田内閣時代,英国との間で調印されており,むしろ日本の軍事産業界の要求に応えるためのもの,すなわちほぼ純粋に経済的な理由によるものというべき.

以上です.

なお,個人的には,選挙の争点にするしないは別として,真剣にアジア,特に北朝鮮からの脅威への対抗手段について議論をするのであれば,日本から同国へ流れる資金の問題を取り上げるべきと思うのですが,最大の資金源と言われるパチンコを全廃することについての議論は,日本ではタブーのようですね.自民党議員や野党議員の中には,献金元としてのパチンコ業界と強固な絆で結ばれている方もいるようですし.また,様々なパチンコ関連団体が天下り先である警察組織にとっても全廃など想像もできない措置でしょう.そもそもパチンコの存在自体,日本が法治国家でないことの証だと思っているのですが,米国から文句でもいわれない限り現状は変わりそうもなさそうです.米国から文句をいわれたら直ちに全廃するのでしょうが...不思議な国です.(cf. 若宮 健 著『なぜ韓国は,パチンコを全廃できたのか』(詳伝社新書 226),詳伝社,東京,2010年.日本を理解するため,次期駐日米国大使Her excellency Caroline Kennedy氏に是非ご一読されることをお勧めしたい一冊です. 


*1) このポストを書いた時点で,Spiegelには参院選の結果についての記事が掲載されていないと書きましたが,再確認したところ関連記事が見つかったのでそれに沿う形で内容を変更させていただきました.お詫びしてご報告させていただきます.

Saturday, 20 July 2013

良い子の皆さんへ - 夏休みの自由研究のテーマの提案 "各国憲法の比較"

明日は,参議院選挙の投票日なので,皆さんのおうちでも選挙に行かれる方がいらっしゃると思います.

今回の選挙では,日本の国の憲法の内容の変更も争点となっており,例えば自民党は独自の改正案を提示しています.そこで,良い機会なので,他のいくつかの国の憲法と,現在の日本国の憲法や自民党,あるいは他の政党が提示している改正案を比較してみてはいかがでしょうか.もちろん,すべてを比較するのはたいへんなので,前文のみ,あるいは基本的人権などといった項目にテーマを絞って比較してみると良いと思います.

以下,とりあえず,ドイツ連邦共和国,フランス共和国,そしてスイス連邦の政府が運営しているウェブサイト内の英語訳された各国憲法が閲覧,またはダウンロードできるページ(英語)へのリンクです.
なお,比較する対象として,例えば自民党が提示している改正案を閲覧したい場合は,自民党憲法改正草案」 などといったキーワードで検索すると,当該党のウェブサイトからPDFファイルがダウンロードできます.但し,日本語のみですが.ところで,上記の三か国の憲法の英語訳ですが,各国政府が公開しているものとはいえ,スイス連邦政府のページの断り書きに書かれているように,英語はそれぞれの公用語ではないため,法的な効力はありません.あくまでも参考情報です.その点をお忘れなく.

もちろん,米国の合衆国憲法なども比較するのも有意義なことでしょう.こちらは,当然英語なので,関連のサイトのアドレスは,ご自分で頑張って調べてみてください.ヒントとして,アメリカ合衆国憲法を英語でいうと, つまりもともとはConstitution of the United Statesです.

それでは,熱中症にかからぬよう気をつけて,良く遊び,良く学んでください.

Monday, 15 July 2013

戦時下の英国を追体験 - セバーンバレー保存鉄道のイベント"Step back to the 1940's"

スイスで知り合った英国人の鉄道愛好家の方から,バーミンガムに行くのであれば,是非訪れるべきと薦められたセバーンバレー鉄道(Severn Valley Railway).そこで,毎年6月末から7月初めにかけて行われている催しですが,国全体が勝利に向かって懸命に耐えた時代を懐かしむといった堅苦しいものではなく,どこか英国人特有といえそうなユーモアを感じさせるところもあり,軍服に身を包んだ多数の参加者や居並ぶ軍用車両にもかかわらず,全体にながれる雰囲気は,むしろみんなで楽しもうという和気あいあいとしたものでした.

主催するセバーンバレー鉄道は,中部イングランドを代表する保存鉄道で,前身はグレートウェスタン鉄道の一支線.英国の保存鉄道では珍しいことではありませんが,もともと駅等の施設が時代がかっていて,しかも運行される列車がすべて蒸気機関車牽引で客車も旧型車両となると,まさに舞台設備としてはこれ以上は望めないというほどの完璧さ.

当日,滞在中のバーミンガムから乗ったChiltern Railwaysの 近郊線の列車(ボンバルディア社製の気動車)をセバーンバレー鉄道の起点であるキッダーミンスターで降り,すぐそばのセバーンバレー鉄道の同駅へ歩いて向かったのですが,駅前にはオールドタイマーやジープが並び,これから自分が足を踏み入れようとしている世界が日常とは相当異なるものであることは十分想像がつきました.それでも,窓口で一日乗車券を購入して構内に入るやいなや,その場を支配している異様な雰囲気にこれ迄経験した事のないような戸惑いを覚えざるを得ませんでした.そこは,再現などという生易しいものではなく,まさに戦時下1942年7月の英国そのものだったのです.当時,枢軸国として英国と交戦状態にあった国の人間としては,身の置き場所に困ったほどだったのですが,ほどなくその自分で勝手につくってしまった気まずさも氷解し,観客の一人として楽しく過ごせた一日でした.さらにいえば,このイベントを通じて英国人の民族性の一面にも触れることができたような気がします.その意味で貴重な経験だったと思っています.機関車の写真のキャプションに記したGWRは,Great Western Railwayの略です.セバーンバレー鉄道の機関車のほとんどが元GWR所有車両です.(WikipediaのGWRの機関車の項目へはこちらからどうぞ.)

(最後に,バーミンガムとストラトフォード・アポン・エボンを結ぶシェークスピア急行の写真も掲載します.ご笑覧ください.)

ではまず,手渡されたフライヤーから.(サイトから予めダウンロードもできました.)


キッダーミンスターの駅に向かうと駅前はこのとおり.

キッダーミンスター駅(SVR)の駅前広場にはオールドタイマーが勢揃い.



もちろん,軍用車両もぬかりなく..

Kidderminster駅の構内 1942年への時間旅行の入口

同上

Kidderminster駅の検閲所 当時はどこへ移動するにも身分証明書の検閲があったようです.

一日乗車券とともに渡されたIDカード(外側)
同上(内側)

乗り込んだ列車の牽引機は34053 Sir Keith Parkという3気筒パシフィック機(英国式表示における車輪配置は4-6-2,動輪直径は6 ft. 2 in.なのでおよそ1.89m,最高速はというとテストランの記録では116 km/h(72 mph)程度は出たようです.)

まずは機関車博物館(Engine House)のあるHighley駅で下車. 

Highley駅での英国軍との戦闘シーンのために待機中の独軍兵士(でも皆さん,ブリティッシュのようです.実際の戦闘シーンでは最初はへんなドイツ語で,そのあとは英語で号令をかけていましたので.)

中央に腰掛けている男性を除けば,ほんとうに当時に迷い込んだよう.

Highleyの機関車博物館(Engin House)のそばに展示されていた名機スピットファイアの原寸大の模型

笑顔がすてきな二人のRAFの制服姿のgentlemen. スピットファイアの前でポーズ

Highleyを出発したKidderminster行きの列車 牽引機はタンクエンジンの5643 (GWR 5600クラス:0-6-2T)

同じ5643に牽引されたBridgnorth行き列車

こちらは,Bridgnorth行き列車を牽引する5164(GWR 5101クラス:2-6-2T)

ハーレイの機関車博物館内に展示されている48773.ロイヤルエンジニアの記念機関車です.フランスで運用するため陸軍省によって発注され,1940年に製造されました.フランスがドイツの支配下に入った後,英国に一旦戻りましたが,ソ連参戦後は,イラン横断鉄道でロシアへの戦時物資輸送の任にあたりました.1942年8月9日には,らくだと衝突して脱線.その後はエジプトのスエズ運河周辺の路線で活躍しました.車輪配置は,2-8-0.
巨大な青い機関車ゴードン号.名前の由来は,General Gordon of Khartoumから.第二次世界大戦中,戦時機関車として,とにかく早く安く造られたモデル.(ドイツの52形みたいに.)ボイラーも低品質の石炭の使用を前提に設計されています.戦後は,ハンプシャーのロングムーア軍用鉄道(Longmoor Military Railway)で機関士の訓練用に使用されました.(側面のLMRの表記はそのため.)1957年のスエズ危機のときは,ロングムーアとサザンプトンの間で秘匿物資の輸送にあたりました.その後,SVRで活躍しましたが,1998年,ボイラーが故障したため,それ以降静態保存されています.車輪配置は,2-10-0(やはり,ドイツの52と同じ.)
世界記録保持車のマラード号(Type A4)を設計したグレスレイ卿(Sir Nigel Gresley)の帽子も展示されています.
グレスレイ卿の名前がつけられたA4形機関車Sir Nigel Gresleyは保存財団の所有ですが,実際の運用管理はNYMRによって行われています.なお,A4形機関車の運行については,こちらのポストをご覧下さい.

Shrewsbury College of Art & Dramaの演劇科の学生さんたちが機関車博物館内(Highley Engine House)で1940年代の歌,踊りなどを披露.さすがはプロを目指しているとあって素晴らしいパーフォーマンスでした.

Highley駅に進入するBridgnorgh行き列車 牽引機は2857(GWR 2800クラス:2-8-0)

同上

いよいよ戦闘開始
以上が,Highley駅の様子でした.次は,Bridgnorth駅へ.

Bridgnorth駅で行われていた1940年代風のコンサート(すみません.ピントが後ろに合ってしまいました.)

Highley駅で英軍と独軍との戦闘シーンのあとに演説を行ったMr Winston Churchill.Bridgnorth駅にて.

Bridgnorth駅

石炭と水をたっぷり補給してもらう7812.(GWR 7800(Manor)クラス:4-6-0)Bridgnorth駅

同上

帰りの列車の個室でご一緒したご家族のお祖父様.戦争当時の思い出話を聞かせてくださいました.話がご持参されたガスマスクに及び,ご親切にも実際に装着してみせてくださいました.そのうえ,娘さんからはお手製のスコーンまでごちそうになり,当時,日本は枢軸国であり英国とは敵同士だったのにと恐縮すると,今はもう敵ではないし,また,来年もいらっしゃいと笑顔で仰ってくださいました.加えて,たまたま同じ個室に乗り合わせていた方が相当鉄道に詳しい方だったので,いろいろとお話を伺う事ができたのも幸運でした.しかし,英国の鉄道愛好家の方たちの鉄分は冗談抜きで半端ではありません.

Kidderminsterの駅のビュフェの入口.入口に置かれた看板の文章と奥のRAFの制服の男性を見るとここも1942年で時間が止まってしまったかのよう.暑かったのでほとんどのお客さんはビールを注文していましたが,お酒がだめな私はいつものようにソフトドリンクを注文.ところで,あちこちで目にするARPとはAir Raid Precautionの略.

以下は,バーミンガムから乗ったシェークスピア急行で訪れたストラトフォード・アポン・エボンでのスナップです.(実を言うと,はるか昔ロンドン近郊の大学で英語の夏期講座を受講した折に遠足で一度訪れたことがあるのですが,そのときと比べると相当様変わりしているように思えました.)
ストラトフォード・アポン・エボン シェークスピアの生家のそばで

シェークスピアのお墓がある聖三位一体教会

市内

ストラトフォード・アポン・エボンに入線するシェークスピア急行

ストラトフォード・アポン・エボン駅

バーミンガムに向かう途中の車窓風景

バーミングアム・ムーア駅に戻ったシェークスピア急行の牽引機(旧Great Western Railway 4900 Class ,車輪配置は英国式表示で4-6-0) 気のせいか,おしなべて英国の蒸気機関車の排気音は異様に大きく聞こえます.元気が良くていいなとは思いますが.
セバーンバレー鉄道は,風光明媚な路線としてThe Times社の"BRITAIN'S SCENIC RAILWAYS"*1)でも紹介されていて,撮り鉄の方々にも推薦できる路線です.レンタカーで沿線を巡るならThe Ordnance Survey map of the area, “Landranger 138”(ISBN 0-319-22138-5)という地図がお薦めだそうです.(現地の鉄道ファンの方からの情報.)

ところで,Step back to 1940'sの催しからバーミンガムに戻る途中,何故日本はこんな国と戦ったのだろうという疑問がやたらに現実味を帯びて頭に浮かんできました.質実剛健でありながらユーモアも忘れない,そんな英国の人々.戦争自体の善悪は別として,うらやましいと思ったのは,当時,彼らはウィンストン・チャーチルというリーダーのもとに結束していたということです.同じ事は米国民とフランクリン・D・ルーズベルトとの関係についても言えますが,それに比べて日本はどうだったのか.顔の見えるリーダーの下,国民は同じ価値を共有し一丸となって戦争に臨んでいたのか,おおいに疑問です.

なお,こうした戦争当時の雰囲気を再現する催しは,例えばNorth Yorks Moors Railwayのように英国の他の保存鉄道でも開催されますが(Railway in Wartime),それを思うと,英国の人たちを理解するのは,自分にはやはり少し難しいかもしれないななどと考えてしまいます.

最後になりますが,英国の保存鉄道では基本的に転車台を備えていないため,機関車の向きの変換はありません.撮影する場合は,その点に留意する必要があります.また,ドイツとフランスの機関車の重連運転等が観られるスイスにおいても事情は同様です.以上,老婆心ながら.



*1)英国を鉄道(保存鉄道も含めて)で旅する際に役に立つ一冊.ハードカバーの大型本のため携行はできませんが,写真,地図,解説が充実していて旅行の計画を立てるときの参考書としてはもってこいの本です.(著者:Juian Holland, David Spaven; ISBN 978-0-00-747879-8).英国の保存鉄道を訪ねる旅に必携の本は,やはりなんといってもこちら.そう,毎年刊行されている"Railways Retored"です.もちろん,セバーン・バレー鉄道もしっかり紹介されています.