Saturday, 10 March 2018

フランス語を知っていてよかったと思った映画 - "Les enfants de la chence"と"Le métis de Dieu"

いずれも実話に基づいた作品です.前者の英語の題名は"The Children Of Chance"で,IMDbのレーティングでは6.5ですが,個人的には少なくとも9はつけたいと思った作品です.理由は,とにかく素晴らしいにつきるからです.(なんとなくジャック・タチ風と思えるシーンや演出もありました.) あらすじは,あえて述べません.フランス,フランス語,そしてフランス映画が好きな方は是非ご覧になることをお勧めします.(Amazon.frのDVDの購入ページ) 次に,後者の英語の題名は"The Jewish Cardinal".ホロコーストのメモリアルであるアウシュビッツ収容所内に自らの政治目的のため女子修道会の施設を設置したカトリック教会とそれを容認したポーランド政府と,そうした動きに抗議するユダヤ人たちとの間の衝突をバチカン(当時の法王はヨハネパウロ2世)の方針に逆らってまで解決に導いたフランス人でユダヤ人の枢機卿の苦悩と勇気に満ちた行動を描いた作品です. 彼の名はJean-Marie Aaron Lutzger. この映画は,英語字幕付きのDVDがAmazon.comで購入可能です.

実は,これらの映画と出会えたのは,昨年末ごろから心身ともに疲れがたまったようで,ここしばらく体調をくずし,自宅で療養していたためなのです.外に出ることができなくなったときの手っ取り早い過ごし方として,やはりテレビドラマや映画を観ることになります.そこで,あまりあてにならないと知りつつもIMDbのレーティングが比較的高いもの,7以上,あるいは7.5以上10迄の作品を探してみました.

最初は,もっぱら馴染みのあるBBCやitvの文芸作品(主にCharles Dickens, Jane Austen,Anthony Trollopeなどの)を基にしたテレビシリーズを観ていましたが,さすがに食傷気味になり,ブリティッシュに限らず戦争が舞台となっている作品へと興味が移りました.なお,この時期を第1期とすると,その間に観た作品は以下のとおりです.(確認できた限りですが,日本で放送または公開されたものは邦題を記し,特に気に入ったものには⭐️をつけます.)
  • North and South (2004)⭐️⭐️
  • ブレッチリー・サークル⭐️ (2012-2014)
  • Bramwell (1995-1998)⭐️⭐️
  • Tess of the D'Urbervilles (2009)
  • Barkshire Chronicles (1982)
  • リトル・ドリット (2008)
    (ディケンズの原作ものは,ほぼ全て観ていますが,このシリーズは未だ観終わっていませんでした.)
  • アメイジング・グレイス (2006)⭐️⭐️
  • 高慢と偏見 (1995)⭐️
    (全編を通して,ボッティチェッリの名作『ヴィーナスの誕生』を彷彿とさせるような容姿の主人公の姉妹たちが画面を華麗に彩り,観る人を魅了します.)
  • イミテーション・ゲーム/エニグマと天才数学者の秘密 (2014)⭐️⭐️
    (第二次世界大戦中の英国MIによるドイツのENIGMAを用いた暗号通信解読活動の中心となったアラン・チューリングの物語.やはり,ベネディクト・カンバーバッチという人はすごい俳優ですね.なお,上掲の"The Bletchley Circle"は,暗号解読班の本部だったBletchley Parkで働いていた女性たちが,戦後,再会し,それぞれの特技を活かしつつ協力して難事件の犯人を見つけるというテレビドラマのミニシリーズです.)
  • The Enfield Haunting (2015)⭐️
    (ミニシリーズ(全3回)ですが,実際に起きたとされるエンフィールドのある家でのポルターガイスト現象を基にしたもので,完成度も高く見応えがあります.)
  • The Cider and Rosie (2015)⭐️
  • The Man Who Invented Christmas (2017)
第2期には,英国以外の国で制作された映画を観ましたが,それらは以下のとおりです.なお,IMDbで検索の際に指定した分野は"War", "Biography", "History"です.
  • パーフェクト サークル (1997)⭐️
  • Hatred (2016)⭐️⭐️
    (記録を基に作られた作品.ポーランドとウクライナの悲しい過去を改めてしりました.人種,宗教による差別や虐殺は,人類の性なのでしょうか.)
  • 太陽の雫 (1999)
  • 太陽に灼かれて (1994)
  • 縞模様のパジャマの少年⭐️ (2008)
  • ブラック ブック (2006)
  • ユダヤ人を救った動物園 〜アントニーナが愛した命〜 (2017)⭐️⭐️
  • 大進撃 (1966)
  • イレーナ・センドラー 2500人の命のために (2009)⭐️
  • フォース・ダウン 敵地脱出 (2008)⭐️
  • 悪童日記 (2013)
  • 小さな赤いビー玉 (2017)⭐️⭐️
  • Le métis de Dieu (2013)⭐️⭐️⭐️
  • Monsieur Léon (2006)⭐️⭐️⭐️
    (こちらもフランス語を知っていてよかったと思った映画です.)
  • 少女ファニーと運命の旅 (2016)⭐️⭐️⭐️
    (この作品も事実を映画化したものです.この作品を通して,戦時中,ユダヤ人の子供達を救うための活動をしたフランスの組織OSEの存在を知りました.)
  • Les enfants de la chance (2017)⭐️⭐️⭐️⭐️
上記最後の2本の作品では,ユダヤ人の子供達が,ナチスドイツとヴィシー政府の迫害から逃れるために,彼らを守ろうとする大人たちによって名前を変えさせられますが,かつて,沖縄や韓国で行なった皇民化政策では,統治者である日本政府が住民たちに名前を変えることを強制しました.しかし,これらのドイツと日本の政策を推進させた力は全く異なります.前者においては特定の集団を根絶しようとする男性的(アニムス)な衝動から生まれた力,そして後者においては,それを自らの内に取り込み同化しようとする女性的(アニマ)な衝動から生まれた力だったと言えます.日本の歴史を見た時,大陸からさほど離れていない島国であるという地理的条件も有利に働き,そうした同化作業の対象を自らにとって有益なものに限定する,すなわち選択することも可能でした.まさに,アマテラスが支配する国と自称する女性的な衝動に支配された国であることの証左です.

ところで,ユダヤ人の男の子は,割礼を施されているため,名前を変えたとしても身体を調べれば,ユダヤ人であることが判ってしまいます.そのため,ヴィシー政権時代のフランスでも,ユダヤ人であることを否定しても,そうである疑いがある場合,メディカルチェック("l'examen médical")を受けさせられました.そうした状況が『小さな赤いビー玉』,"Les enfants de la chance"などで描かれていて,子供達が,彼らの生死を決めかねないそのチェックをいかに逃れるかが物語の展開上で重要な要素となっています.1990年の『僕を愛したふたつの国/ヨーロッパ ヨーロッパ』では,主人公のユダヤ人青年がドイツ軍兵士となりますが,やはり彼も割礼を受けていることを隠そうと腐心します.これらの映画を観て,フランスやイタリアは子供を主要登場人物とする作品を作るのが本当に上手であると改めて思いました.("Monsieur Léon"でもレオン医師の孫が主要登場人物.)
おしまいに,体調を壊す直前に観た作品として『ゴッド&ジェネラル/伝説の猛将』 (2003)⭐️と,また,近日中の公開を期待している映画として"Ekvtime: Man of God"も挙げておきます.


それと,最近,久しぶりに東宝映画の『透明人間』(1954)を観ましたが,年齢を重ねたせいか,改めて登場人物たちの弱い立場におかれた人々への思いやりややさしさが伝わってきて,心が打たれる思いがしました.

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