Sunday 22 October 2017

『海底軍艦』(東宝,1963年)と日本国憲法 - 所感

日本が戦争に負けてから18年を経て制作された作品です.脚本を執筆したのは,鉄道写真家としても有名な関沢新一氏.関沢氏自身,南方へ出征された経験を持っています.また,原作は押川春浪の同名小説とのことですが,映画における海底軍艦の敵は,原作のようにロシアではなくムー帝国という設定です.

登場人物たちのセリフは,当時の日本社会において広く共有されていた戦争に負ける前の日本と後の日本の有り様,そして,平和,憲法,国連などの概念を率直に反映したもので,今観ても,たいへん興味深いものです.それらを簡単にまとめると,次のようになるでしょう.「日本は憲法によって戦争は放棄したが,自国も含め,世界の平和,人々の自由が特定の集団の武力行使によって脅かされるとき,あくまでも国連の決議が絶対条件ながら,武力行使に踏み切る場合もありうる.」

「海底軍艦」の中では,今だに日本の降伏を認めず,超兵器とも呼べる轟天号を使って再度,連合国に戦いを挑もうとする神宮寺大佐,つまり旧い日本の代表と,戦争を始めた自らの誤りを認め,憲法によって戦争を放棄した新しい日本の代表であり,轟天号を世界をムー帝国による植民地化から守るためにその出撃を要請しに,すなわち事実上の国連特使として大佐たちの基地を訪れた楠見元技術少将が激しく対立しますが,そのやりとりの根底をなしていたのが前段で述べた当時の日本の社会通念でした.そして,物語の終盤,ムー帝国皇帝が捕虜として艦内に捕らえられてきた時,皇帝に対する「平和の話し合いなら応じる」という神宮寺大佐の言葉に,いみじくも民主主義にとって欠くことのできない対話する姿勢が表されているのは注目に値します.つまり,自国および世界人類を守るための最後の手段である武力行使に至る前段階として,攻撃対象となる集団との十分な話し合いが行われるべきであるという考えです.

武力行使の具体的内容は,ともかく,少なくとも上で述べた「海底軍艦」の登場人物によって語られる当時の多くの日本人の考え方は,今の保守と自称する政治家,特に政権政党の議員らが抱いているものより,はるかにバランスのとれたものであったと思えるのです.

ところで,『海底軍艦』が公開された翌年の1964年に公開された東宝映画『三大怪獣 地球最大の決戦』*1)では,日本には防衛省が存在していて,制服を着た大臣が登場します.そして,怪獣たちから日本を守るのは防衛軍でした.防衛軍で思い出されるのが,『地球防衛軍』ですが,こちらの公開は前に言及した二作品より早く1957年に公開されおり,その中で日本と世界が協力してミステリアンと戦いますが,その意味で,地球防衛軍は事実上の国連軍と言ってよいでしょう.日本が世界と協力して地球の危機を救うというテーマは,『妖星ゴラス』(東宝,1964年)でも物語の根幹をなしています.なお,『妖星ゴラス』の完成度は極めて高く,後の『日本沈没』(東宝,1973年および2006年)や様々なハリウッドのパニック映画をもってしても,それを凌ぐものを知りません.




1) 登場する怪獣はゴジラ,ラドン,モスラ(幼虫)とキングギドラの四頭ですが,前三者を意味するもののようです.

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