Sunday, 5 July 2015

最近の自民党の文化芸術懇話会を巡る報道を見聞きして考えたこと

鈍感なせいか,何故これほどまでに大騒ぎするのか少々奇妙に感じている標記報道ですが,以下,考えたことを少し記します.まず,疑問から.

本来,国会議員共が勝手にやっている会合の内容を何故いちいち報道する必要があるのか.報道されて利益を得るのは,問題視された発言をした参加者と問題の会合に講師として呼ばれた,世間が驚くような発言をしてはお金を稼いでいる御仁,それに日露講和条約締結の後で結果的に一部の読者を日比谷焼き討ち事件へと煽ることとなった記事を載せたかつての朝日新聞のような記事が目立つ週刊文春や週刊新潮と同種のいくつかの新聞社くらいもので,他に誰のためになるのだろうかということです.
* 上記の2誌および同種の新聞は,例えるならば17世紀のアメリカ,セイラムで起きた'魔女狩り'的な集団ヒステリーを起こせば販売数が増えると信じているように思えてなりません.尤も,それは日本では十分に通用する法則ですが.

次に,上記議員の中のある者が発言した朝日新聞が従軍慰安婦に関する誤った記事を載せたために世界に於ける日本の名誉が失墜しているということの真偽を,報道した業者が,あまりというか殆ど検証をしていないのも奇妙に思えてなりません.

従軍慰安婦の実態については,歴史の専門家たちによって,すでに多くの検証がなされているため,ここでは触れません.ただ,最近の日本の政治家たちの発言を含め,フランス,ドイツ,スイスのニュースメディアの当該のテーマに関する記事の中から抽出したものを古いものから順に紹介したいと思います.(フランス語とドイツ語だけなので,馴染みの無い方は自動翻訳機能で英訳していただければ,ほぼ内容はご理解いただけます.なお,日本語に訳すと意味は殆ど通じないと思います.)

1998年1月31日付Le MondeのLes crimes de l'armée impérialeを読むと,従軍慰安婦に言及していますが,強制連行されたとは書かれておらず,強制的に売春をさせられたと書かれていて,当該の事実は1993年に公開された厚生省が保存していた資料によって明らかになったと報じられています.

続いて,Le Mondeの2007年3月6日付Le combat de Lee Yong-soo, ancienne "esclave sexuelle" au service de l'armée impériale japonaiseでは,1人の韓国人元従軍慰安婦の証言を載せています.それによると,当時14歳の彼女はあきらかに強制連行されています.2007年5月6日付スイスのNeue Zürcher ZeitungはTrauma der Militärbordelle verblasst nichtは1人の日本人軍属の家政婦として雇われていた中国人少女の証言を載せていて,彼女は,あるときから強制的に軍人相手の売春をさせられるようになったそうです.

2013年5月13日の橋下徹大阪市長の従軍慰安婦を巡る発言を伝えた記事から.フランスのLe Monde(2013年5月13日付),ドイツのSPIEGEL(同5月14日付),スイスのNeue Zürcher Zeitung(同5月31日付)です.NZZの記事は,韓国の元従軍慰安婦の方を取材したものです.


2013年9月13日付SPIEGELのZwangsprostitution im Zweiten Weltkrieg: Japans Schandeも1人の韓国人元従軍慰安婦の証言を掲載していて,それによると当時15歳だった彼女は,強制連行というより拉致されたと言ったほうが相応しい体験をしています.

他にも数多くの関連記事がありますが,以上の記事を読むだけでも,強制連行の有無に拘らず,彼女たちが無理矢理日本軍兵士の性的奴隷とされたこと自体が,ヨーロッパのニュースメディアによって問題視されていることと,そして,彼らは,少なくとも確認した限りにおいてですが,朝日新聞が訂正する前の記事をそっくりそのまま配信したり,それを基にした記事や社説を掲載していないことが判ります.

なお,第一次世界大戦中の西部戦線(フランス,ベルギー)に於いて主に英軍兵士たちに利用された売春宿については,HIstory Learning SIteのBrothels and Western Front‘Male heterosexuality and prostitution during the Great War: British Soldiers’ encounters with maisons tolérées’, Cultural and Social History, 9, 1 (2012), Sex and the Somme. Soldiers visited brothels to escape the "lunatic world of war."などが判り易く解説していますが,これらの'Brothel'で兵士たちの相手をする女性たちは,自らの意思でそうした仕事についていたようです.そのため,14, 15歳の少女が,本人たちの意思が無視されて強制的に兵士相手に売春させられた,しかも組織的にそれが行われたことは恐らくなかったのではないかと思います.

最後におまけをふたつほど.ひとつめは,日本に海外実習生としてやってくる外国人たちが,過酷な環境で搾取されている(実質的人身売買)を報じる記事.
そして,ふたつめは,NHKが番組に取り上げるテーマはすべて政府が指示すべきであり,それに従うというのが現会長の姿勢であると報じるスイスのNZZの2015年2月12日Verzweifeltes Warten auf ein Zeichen von obenです.

加えて,昨今の安全保障法制を巡る議論ですが,そもそも,軍事的に視て本当に中国は脅威となりえるのか,大いに疑問です.経済的分野に限っても,今や,日本と中国の相互依存関係は両国の存亡の鍵と言ってもよいでしょう.何としても政権を維持したい中国共産党政府にとって経済成長は必須条件です.人心掌握のために日本への憎しみをある程度煽ることは必要としても,それは,自国の経済成長のためにむしろ逆効果であることは,言う迄もありません.となると,日米の軍事同盟の強化によって,まず恩恵を被るのは,アメリカの軍需産業でしょう. アメリカ国民の半数は,米軍は日本から撤退すべきという世論調査結果も公表されており,また,同程度の割合が日本は自分たちで防衛すべきと回答しています.結局,2階に上がらせておいて,梯子を外される可能性は十分にあると思えるのです.(Cf. 日本のアジア太平洋地域に於ける軍事的役割の拡大を支持するアメリカ国民は47%,不支持は43%)

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