日本では、そろそろ錦秋の時期を迎えているころと存じます。
私の素性と身の上をご存知の皆様は、すでにご承知ですが、現在、仕事でアルジェリアに滞在しています。
入国にあたり発給されたのが、三ヶ月間有効のビジネス(商用)ビザといわれるものなのですが、これによって滞在する間、最低一ヶ月に一度の出国が義務付けられています。このありがたい(?)義務を果たすため、一ヶ月に一度、滞在地に程近い空港とフランスのマルセイユ間に就航しているアルジェリア航空の直行便を利用して、前回訪れたプロヴァンス地方の小旅行を楽しんでいます。
先日、訪れたのは、Salon-de-Provenceという、今まで聞いたこともない町で、マルセイユ空港から直行バスで50分のところに位置しています。小さい町ですが、いわゆる観光都市とは異なり、土地の人々の普段の暮らしがゆったりとしたペースで営まれているといった印象を受けました。
一夜の宿を取ったのは、ホテル・セレクト(Hotel Select)という、これまたこの町の佇まいと調和がとれた、いたってこじんまりとしたホテルで、若いオーナーが言うには、開業したのは今から1年ほど前とのこと。この町は初めてという私に、サロンの町の歴史や見所、そしてお勧めの町一番の高級レストラン*1)まで紹介してくださり、その店でゆったりと夕食をとって、ホテルに戻ってからは、ご主人と、お互いのこれまでの人生についてなど四方山話に花が咲き、初対面にもかかわらず、しまいにはすっかり親しくなっていました。
*1) Restaurant La Salle à Manger
文字通り、「食堂」という意味の名前の店ですが、壁画や天井画で飾られたダイニング・ルームでとる食事はなかなかの趣があります。町一番の高級店というので、「ネクタイもジャケットも持ってきてないし…」とためらう私の背中を押してくれたのは、ドナルドさんの「ここはパリじゃないし、ジーンズとTシャツでも大丈夫ですから」という言葉。恐る恐る入ってみたところ、もう夜は冷えるのでと暖炉に火が入れられた店内の雰囲気と、スタッフたちのユーモアのこもった暖かいもてなしですっかり緊張もほぐれ、いただいたのは鴨のベリー・ソース添え。かなりボリュームがありましたが、久しぶりに味わう鴨料理でまさに絶品の味。前菜、メイン・ディッシュ、デザート、コーヒー、そして飲み物で、50ユーロ程度でしたが、まぁ、一人旅でもたまには許される贅沢かなと心のなかでつぶやきながら、「Bon week-end!(楽しい週末を!)」というお店の方の言葉に送られ、夜の静かなサロンの通りをホテルへ向かいました。途中訪れた、修復がほぼ終わったという近くの教会の、ライトアップされた美しい姿とその上に広がる星空が印象的でした。オーナーのドナルド(Donald)さんは、サロンでホテルの経営を始めるまで、パリのホテル・リッツなどのホテルの菓子職人として働いていたそうで、奥様のラエリリア(Laeriria)さんもやはりホテルに勤務されていたとのこと。そして、ドナルドさんは、サロンに来る直前は、マドレーヌ広場にあるLucas Cartonという高級レストランのチーフ・パティシエだったそうです。
そんなご夫妻が、パリでの生活に疲れを感じ、新たな人生の一歩を踏み出す場所として選んだのがこのサロンだったというわけです。
さて、このサロンの町ですが、いくつか興味深いところがあります。これからお伝えするのは、すべてドナルドさんから伺ったことの受け売りですが、まず、その昔ノストラ・ダムスが44歳のとき、故郷Saint-Rémy de Provenceを離れて移り住み、人生の終焉を迎えたのがこの町で、彼がカトリーヌ・ド・メディチと出会ったことを記念するページェントが毎年9月末ごろ、市民総出で行われるそうです。もちろん、彼の記念館もあります。そして、もうひとつ。マルセイユ石鹸という商品名を耳にされた方も多いと思いますが、この町は、唯一マルセイユ石鹸の製造工場が現存している地でもあるのです。そして、やはりマルセイユ石鹸の博物館もあります。(そういう意味では、一応観光客を意識しているようですが、絵葉書すら売っている店も見つけることができませんでした。)
ほかにも多くの興味深いものがあります。ご興味がありましたら、是非一度足を運ばれてみてはいかがでしょうか。そして、滞在は、是非ホテル・セレクトで。(ホテルのサイトから直接予約が可能です。もちろん、英語でも対応してくれます。) 場所は、マルセイユ空港から17番のバスに乗ってその終点、Place Jules Morganから歩いて5分程度のところ、rue de Suffren 35番地です。
それでは、町で撮影した風景とドナルドさんからご提供いただいた、先ほど述べた野外ページェントの写真を数枚。
最後に、テオドール・ジュルダン(Théodore Jourdan:1833-1906)という画家について一言。今回、サロンで出会ったものの中で、非常に印象に残ったのが、主に羊の群れや、それを牧する羊飼いを描いた作品で知られる、このプロヴァンスの画家でした。町の中心に位置する城砦の中で彼の絵の展覧会が開催されていたので訪れたのですが、そのとき会場にいたのは、私のほかにはやさしい笑顔で迎えてくれた案内の女性のみ。ゆったりと流れる午後の時間の中でそれぞれの絵の中に吸い込まれてしまいそうな、そんな温もりを感じさせる作品ばかりの、やはりこの町にふさわしい展覧会でした。プロヴァンスというと、セザンヌを除くと、パニョルを始め、どちらかというと土地にゆかりの作家たちが思い出されますが、さらにここにも一人、プロヴァンスを代表する偉大な画家がいることを改めて知り、とても豊かな気持ちになってサロンを後にしました。
私の素性と身の上をご存知の皆様は、すでにご承知ですが、現在、仕事でアルジェリアに滞在しています。
入国にあたり発給されたのが、三ヶ月間有効のビジネス(商用)ビザといわれるものなのですが、これによって滞在する間、最低一ヶ月に一度の出国が義務付けられています。このありがたい(?)義務を果たすため、一ヶ月に一度、滞在地に程近い空港とフランスのマルセイユ間に就航しているアルジェリア航空の直行便を利用して、前回訪れたプロヴァンス地方の小旅行を楽しんでいます。
先日、訪れたのは、Salon-de-Provenceという、今まで聞いたこともない町で、マルセイユ空港から直行バスで50分のところに位置しています。小さい町ですが、いわゆる観光都市とは異なり、土地の人々の普段の暮らしがゆったりとしたペースで営まれているといった印象を受けました。
一夜の宿を取ったのは、ホテル・セレクト(Hotel Select)という、これまたこの町の佇まいと調和がとれた、いたってこじんまりとしたホテルで、若いオーナーが言うには、開業したのは今から1年ほど前とのこと。この町は初めてという私に、サロンの町の歴史や見所、そしてお勧めの町一番の高級レストラン*1)まで紹介してくださり、その店でゆったりと夕食をとって、ホテルに戻ってからは、ご主人と、お互いのこれまでの人生についてなど四方山話に花が咲き、初対面にもかかわらず、しまいにはすっかり親しくなっていました。
*1) Restaurant La Salle à Manger
文字通り、「食堂」という意味の名前の店ですが、壁画や天井画で飾られたダイニング・ルームでとる食事はなかなかの趣があります。町一番の高級店というので、「ネクタイもジャケットも持ってきてないし…」とためらう私の背中を押してくれたのは、ドナルドさんの「ここはパリじゃないし、ジーンズとTシャツでも大丈夫ですから」という言葉。恐る恐る入ってみたところ、もう夜は冷えるのでと暖炉に火が入れられた店内の雰囲気と、スタッフたちのユーモアのこもった暖かいもてなしですっかり緊張もほぐれ、いただいたのは鴨のベリー・ソース添え。かなりボリュームがありましたが、久しぶりに味わう鴨料理でまさに絶品の味。前菜、メイン・ディッシュ、デザート、コーヒー、そして飲み物で、50ユーロ程度でしたが、まぁ、一人旅でもたまには許される贅沢かなと心のなかでつぶやきながら、「Bon week-end!(楽しい週末を!)」というお店の方の言葉に送られ、夜の静かなサロンの通りをホテルへ向かいました。途中訪れた、修復がほぼ終わったという近くの教会の、ライトアップされた美しい姿とその上に広がる星空が印象的でした。オーナーのドナルド(Donald)さんは、サロンでホテルの経営を始めるまで、パリのホテル・リッツなどのホテルの菓子職人として働いていたそうで、奥様のラエリリア(Laeriria)さんもやはりホテルに勤務されていたとのこと。そして、ドナルドさんは、サロンに来る直前は、マドレーヌ広場にあるLucas Cartonという高級レストランのチーフ・パティシエだったそうです。
そんなご夫妻が、パリでの生活に疲れを感じ、新たな人生の一歩を踏み出す場所として選んだのがこのサロンだったというわけです。
さて、このサロンの町ですが、いくつか興味深いところがあります。これからお伝えするのは、すべてドナルドさんから伺ったことの受け売りですが、まず、その昔ノストラ・ダムスが44歳のとき、故郷Saint-Rémy de Provenceを離れて移り住み、人生の終焉を迎えたのがこの町で、彼がカトリーヌ・ド・メディチと出会ったことを記念するページェントが毎年9月末ごろ、市民総出で行われるそうです。もちろん、彼の記念館もあります。そして、もうひとつ。マルセイユ石鹸という商品名を耳にされた方も多いと思いますが、この町は、唯一マルセイユ石鹸の製造工場が現存している地でもあるのです。そして、やはりマルセイユ石鹸の博物館もあります。(そういう意味では、一応観光客を意識しているようですが、絵葉書すら売っている店も見つけることができませんでした。)
ほかにも多くの興味深いものがあります。ご興味がありましたら、是非一度足を運ばれてみてはいかがでしょうか。そして、滞在は、是非ホテル・セレクトで。(ホテルのサイトから直接予約が可能です。もちろん、英語でも対応してくれます。) 場所は、マルセイユ空港から17番のバスに乗ってその終点、Place Jules Morganから歩いて5分程度のところ、rue de Suffren 35番地です。
それでは、町で撮影した風景とドナルドさんからご提供いただいた、先ほど述べた野外ページェントの写真を数枚。
もちろん、ドナルドさん夫妻もこのとおり。奥様が持っている籠のなかは、ラベンダです。
最後に、テオドール・ジュルダン(Théodore Jourdan:1833-1906)という画家について一言。今回、サロンで出会ったものの中で、非常に印象に残ったのが、主に羊の群れや、それを牧する羊飼いを描いた作品で知られる、このプロヴァンスの画家でした。町の中心に位置する城砦の中で彼の絵の展覧会が開催されていたので訪れたのですが、そのとき会場にいたのは、私のほかにはやさしい笑顔で迎えてくれた案内の女性のみ。ゆったりと流れる午後の時間の中でそれぞれの絵の中に吸い込まれてしまいそうな、そんな温もりを感じさせる作品ばかりの、やはりこの町にふさわしい展覧会でした。プロヴァンスというと、セザンヌを除くと、パニョルを始め、どちらかというと土地にゆかりの作家たちが思い出されますが、さらにここにも一人、プロヴァンスを代表する偉大な画家がいることを改めて知り、とても豊かな気持ちになってサロンを後にしました。
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